ダンサーにとって、様々な身体コントロールの方法がある中で、エアリアルは今後新しい方法になるかもしれない。エアリアルは、シルク・ドゥ・ソレイユだけでなく、浜崎あゆみ、倖田來未、松任谷由実など、日本を代表するアーティストたちもこぞって自身のライブステージングに起用している空中パフォーマンス。今回インタビューしたHiROKOこと桧山宏子は、エアリアルに出会い、一時、教師の道に進むも、現在は日本を代表するエアリアルパフォーマーとして活躍中だ。その言葉ひとつひとつから、エアリアルの魅力と、危険と隣り合わせが故の確実な身体コントロールの大切さが伝わってきた。なお、今回は倖田來未、本人からのコメントを独占入手!エアリアル、エンターテイメントについて語ってもらった。お読み逃しなく!
- HiROKO(桧山宏子)
幼少時代より器械体操を学び、2005年シルク・ドゥ・ソレイユのエアリアル部門にて日本人初の登録キャストとなる。2008年、2009年の2回のオファーを出産、子育てにより断念するも、日本人初ママエアリアリストとしてイベント、ミュージカル、アーティストLIVE、振り付け、震災復興チャリティパフォーマンスなど幅広く活動中。
■教師1か月目に、エアリアルショーデビュー。
TDM:エアリアルでショーをやりはじめたきっかけは?
HiROKO:
もともと小さい頃から器械体操をやっていたんですが、初めてのエアリアル本番は、大学を卒業した年の、2002年の日韓ワールドカップの決勝戦の前夜祭「FIFAワールドカップTM決勝戦前夜祭」でした。横浜の大さん橋ステージで行われて、その時に元オリンピック日本代表で、体操の先輩にあたる信田美帆さんと、師匠の若井田久美子さんと私でバンジーというハーネスを付けてゴムで空中を飛び跳ねるパフォーマンスをやりました。
TDM : 器械体操を学生時代にやってきた人は、どんな就職をする方が多いのでしょうか。
HiROKO:学校の先生やどこかのクラブに所属してコーチになる人が多いですね。自分でクラブを作って選手を育てていく方もいますが厳しい世界です。あとは、治療する道に進む人もいますね。私も大学卒業後も現役プレーヤーでやりたかったんですけど、大学1年生の時にヘルニアの手術をして、大学4年生の時には、膝を脱臼骨折してしまっていたので、「ここまでやってしまったらもう現役は無理だ」と自分で判断して、諦めていました。
TDM : では、大学卒業後は普通に就職したんですか?
HiROKO:もともと大学を卒業したら地元に帰って教師になるつもりで、親にもそう伝えていましたが、大学4年間の中で、自分が小さい時からやってきた体操で結果を出したい、15年以上やってきた体操の経験を生かして何かひとつでも花を咲かせたいという想いがありました。でも、それが、怪我で成し遂げられなかった。ダンスをしっかり学んで、振付やダンサーとして学びながらやっていけると親に伝えましたが、「ダンスで食べていくなんて並大抵のことじゃない。怪我もしているし、難しいはず。とりあえず2年間は地元でちゃんと働いてほしい。」と言われ、大学卒業後は、地元の小学校と中学校で1年ずつ働きました。
学校に就職して1か月後、昔、器械体操の振付をして頂いた師匠・若井田さんから、先ほどお話しした日韓ワールドカップ前夜祭のお仕事のお誘いをたまたま頂きました。就職して1か月しか経っていないのに、学校側に「1週間お休みをください。」と言わなくてはいけないので、迷ったんですが、ワールドカップに関わる仕事だったので「大きなイベントにうちの先生が参加するのはいいことだ!」と快諾してもらい、送り出して頂きました。
その後は、普通に教師をしながら、週末に東京に出てきてダンスのレッスンを受け続けていました。その頃、師匠がフランスへ行ってエアリアルを学んで来て、当時、青山にあったワールドダンススタジオのビル内にティシューが吊れる場所があり、ダンスレッスン後の空き時間に、ティシューで師匠と一緒に遊ぶようになり、それが初めてティシューを触った時でした。最初は遊びからでした。
約2年間教師をした後、2004年に東京に出てくることを決め、最初のお仕事が演出家・横内謙介さん主宰の劇団扉座の舞台「東京建築ショウ」でした。その舞台をきっかけに横内さん演出のイベントや2005年には「愛・地球博」、2007年、2009年、2010年に横内さん主宰の劇団扉座公演「ドリル魂」に演出させて頂きました。そこでは主にアクロバット、エアリアル、歌、ダンス、芝居で参加しました。
■シルク・ドゥ・ソレイユからの2度のオファー。
TDM:教師生活の後、プロになって、どういうパフォーマンスを目指すようになったんですか?
HiROKO:
もともと、学生時代にシルク・ドゥ・ソレイユのサルティンバンコをテレビで見て、自分がやっている体操を活かせると思い、「将来、私はアレに出る!」と思っていました。ショーで誰かを感動させることに憧れがあったんです。そして、エアリアルに出会って、突き詰めるようになった時に、やっぱりシルク・ドゥ・ソレイユに行ってみたい想いがあったし、エアリアルを本格的に始めた2005年から、師匠からもそういう意識で頑張ろうと言われてトレーニングしていました。
2005年からエアリアルを本格的に学び始めるにあたり師匠主宰のエアリアル・アート・ダンスプロジェクトというエアリアルの養成所がスタートし、第1期・2期メンバーとして2年間参加しました。同時に日本初のシルク・ドゥ・ソレイユのジャパンオーディションに映像とプロフィールを用意して応募しました。ただ、その時の募集はエアリアルではなく、アクロバット、または、ダンサーだったので、アクロバット枠にエアリアルの映像も添えて提出したのに、書類審査を通過したのはアクロバットだけではなく、ダンサー枠もでした。
2次オーディションは2日間、40人ほどで行われて、初日はバレエレッスンに始まり、1分間の即興を見せました。私は書類に、養成所で習ったことがあっただけのHIP HOPの映像を送ったのですが、その場で私だけ「HIP HOPを踊ってください」と言われて踊りました。それが良かったのかどうかはわかりませんが、翌日のオーディションに進む7人に私も選ばれていて、驚きました(笑)。
2日目もオーディションが進む中で、どんどん「あなた、もう帰って結構です」と1人また1人と帰され、最終審査には、私と、辻本知彦さんと、やまだしげきさんと太田智子さんが残りました。最終審査は「あなたは3000人を目の前にしたロックスターのつもりで」とか「キチガイになったつもりで」とか、「動物になって」演じてください。と言われました。あとは、男女ペアを組んで、グレープフルーツを1個渡されて「ペアでこれを使って何かやって」と。ペアだったやまださんにリードしていただいてなんとかやることができました。難題ばかりでしたが、今思うと本当にいい経験をさせてもらいました。
結果、辻本さん、やまださん、太田さんはダンサーとして合格し、私はその場では保留で、後日エアリアルの審査に進むことができました。最終的に私と、シンクロの方と、ジャグリングの方が受かることができました。そして、早ければその翌年の春にモントリオールに呼ばれてトレーニングをして、配属になる話だったのでそのつもりでいました。でも、翌年の春を過ぎても連絡がなく、結局シルク・ドゥ・ソレイユから「モントリオールに来て欲しい」と連絡が来たのは3年後の2008年だったんです。私は産後で8か月の子供がいたのでお断りしました。そのまた1年後にも連絡が来たんですが、その時も子供は1歳半くらいだったのでお断りしました。2度もオファーを頂いたんですが、私自身が行ける状態ではなかったので、つくづくタイミングってあるなと思いました。
私が結婚・妊娠・出産でエアリアルを離れている間にも、日本でもエアリアル人口は増え、内容も技もどんどん進化していきました。そんな浦島太郎状態になっていた私を引っ張り出してくれたのが、日本のエアリアルの先駆者たちであり仲間のkaeruさん、YUKAちゃん、MARICO、doNcHY…たちでした。私がいない間のエアリアルシーンや新しい技を快くすべて教えてくれました。彼女たちは私にとって恩人ですし、今でも仲間として活動できているので、とても感謝しています。
■倖田來未さんのツアーステージングも担当
TDM:ダンスの経験はいつから?
HiROKO:エアリアルの養成を受けていた時に、バレエとジャズとコンテンポラリーとヒップホップはレッスンのカリキュラムの中に入っていたので、その時に習いました。特にバレエの柳瀬真澄先生に出会ったおかげで、自分の今までの身体の使い方がいかに悪かったのか、怪我をした理由が分かるようになりました。目に見えている表面的な動きではなく、身体の中からコントロールすることを教わりました。目からうろこってこういうことだなと思いました。
TDM:2015年から倖田來未さんのエアリアル指導にも関わっていらっしゃいますが、そのきっかけは?
HiROKO:デビュー15周年のツアーに向けて、今までにやったことのない演出がやりたいということで、お声をかけて頂きました。私が指導する前にもティシューに座ったりぶら下がったりする演出はされていたみたいですが、もっと本格的なアクロバティックな動きに挑戦してみたいということでした。ただ、専門のトレーニングを積む時間はないですし、ハーネスや命綱をつけないので、危険が伴います。「決して出し惜しみはしませんが、確実な安全確保を最大限確保したうえでの最大限の提供をします。」という返答をして、採用されることになりました。
でも、初めてお会いした時に彼女のポテンシャルの高さに度肝をぬかれました。精神面はもちろん、身体能力的にも、肉体的にもとても恵まれていて、筋肉の質や関節の柔らかさなど、何か競技スポーツをやったらどんなものでもトップレベルになれるんじゃないかと思えるほど素晴らしいんです。体のラインも美しいですし、魅せ方が素晴らしい。トレーニングやアフターケアも十分にできていると思いますし、もともとが怪我をしにくい身体。彼女が生まれ持ったものと、お客様を楽しませるために妥協しない精神にはいつも脱帽です。
TDM:自分以外の人に振付をする際に意識していることは?
HiROKO:絶対的にお客様の心をつかむポイントがあるので、まずそれをつかむことと、欲張っていろいろな技をやろうとせずに、その人が最大限に素敵に見える技を絞って、それでどうやって見せ場を作れるかを考えていきます。「この曲のここで、こうしたい」と言われた時に、テクニックや動きの流れが脳内のイメージが実際にできれば、トライします。
■エアリアルはやり方を知ればどなたでもできます!
TDM:単純にエアリアルは難しそうなイメージがあるのですが…
HiROKO:
レッスンを受ける方で「腕の筋肉がないので登れない」と言う方もいますが、もともと持ち合わせている能力を使っていないだけで、エアリアルだけに限らず、ダンスにしても勉強にしても、やったらできるんですよね。できないのはやり方を知らないだけで、まったくできないわけではない。エアリアルもやり方を知ればどなたでもできます。上手い下手はまた別で、できるようになってから上手いやり方を知っていけばいいんです。
これは、小学校で教師をしていた時にも伝えていたことで、逆上がりができない子がたくさんいて、みんな「自分は運動神経が悪いから絶対にできない」って言っていたんです。「それは、やり方を知らないだけだよ。掛け算もやり方わからなかったけど、習ったらできるようになったでしょ。先生が逆上がりの仕方を教えてあげるからやってみよう。」と言って教えたら、全員できるようになったんです。できていないことに対して何が足りないのかと、できるための方法を的確に伝えてあげれば、できるようになるんです。
私もエアリアルをきちんとパフォーマンスとして教え始めた当時は自信がありませんでした。危ないし、人の命がかかっていますから。でも、2年経った今では、誰が来てもウェルカムですし、誰でも登らせられるようになる自信がつきました(笑)。私の今のレッスンスタイルが確立できたのは、まったくの未経験の方が受けてくださったおかげです。こちらが伝えるべきポイントなどをしっかり考える機会になったし、気が付けたこと、伝えられるようになったことがたくさんありました。
■エアリアルで、長期的な社会貢献ができる。
TDM : エアリアルの魅力とは?
HiROKO:昔は、エアリアルショーをする気持ち良さ、お客さんからの視線や照明を浴びる気持ち良さが大きかったんですが、最近では、エアリアルをどんどん深いところまで追求していくことで、自分の身体と対話ができるようになってきて、ものすごく面白いです。また、体幹をすごく意識できるので、私のレッスンにハマってきてくれているコンテンポラリーダンサーの子は、私のレッスンを受けた後にバレエレッスンに行くとたくさんターンが回れると言っていました。
TDM:レッスンはどんな内容ですか?
HiROKO: ティシューに触るまでに50分間フロアでストレッチをします。筋トレはしませんし、柔軟も痛いことはしません。ゆらゆら揺らして、身体を一度ニュートラルな状態に戻します。そのあと、「それぞれがどこでどういう風につながっていて、だから、こう使える」という体の中のメソッドを説明します。既にほかのジャンルを踊っていたりする方だと、どこかが凝り固まってたり、ゆがみがあったりして、やりたい動きが素直に入らないので、ニュートラルに戻すストレッチはとても大切ですし、身体がものすごく反応しやすくなります。ギックリ腰の方は、このストレッチでだいぶ痛みが緩和されます。私も中学生からのギックリ腰持ちなんですが、自分のストレッチをしたら、その日のうちに歩けるようになります。そんなウォーミングアップ後、カラダの繋がりを確認しながら基本のメソッド、その日やる技のシミュレーションメソッドをカラダに感覚付けしてから、一番の基本となる登ることを丁寧にやっていきます。レッスンの最後にはその日にやったことをルーティンにして音に合わせて踊ります。レベルによってできることをカスタマイズしていくので、初心者の方でもできることに合わせて指示します。今は、1レッスン8名定員でやっていますので、もしご興味がありましたらご予約お待ちしています!
TDM : 身体の使い方に気づきたい人にはおススメですね!最後にこれらかの展望はありますか?
HiROKO:エアリアルをはじめた頃は漠然と「ショーや舞台などエアリアルができる場が増えて、エアリアル人口が増えていけば、もっと社会貢献できるし、いいことだな」と思っていました。今では、自分や生徒さんの体調不良が治ったり、障がい者の方の機能回復トレーニングにも関わらせて頂いたことをきっかけに、さらに考えが広がってきました。ただ楽しめるパフォーマンスのためだけではなく、子供からお年寄りまで、普通の運動ができない人の健康維持、増進のためにも役立つので、もっと広く社会貢献ができると思っています。そういった形でも浸透していけば、エアリアルをやってきた人たちも、自分が動けなくなったから終わりではないですし、生涯、社会貢献のために何かができると信じています。
TDM : 空中パフォーマンスの可能性を感じました!本日はありがとうございました!
interview by AKIKO
photo & edit by imu
’19/01/02 UPDATE
倖田來未さんからコメント頂きました!
私がアーティストになって、
■表現方法としてエアリアルを今までやって来て感じたことは?
美しいことも、衝撃的なことも、楽しいことも、表現できます。歌詞の世界観に合わせて振りを作ることが多いのですが、
本当に感覚を掴むのが難しいです。
■ライブの演出で大切にしていることは?
お客さんに現実を忘れて楽しんで頂くことです。お客さんが帰ってから「行ってよかった」「楽しかった」
■どんなダンサーに魅力を感じますか?
やはり私の場合はアーティストなので、
ただただ、振りをカッコよく上手にこなすダンサーは、
■倖田さんから見てHiROKOさんの振付けに関して
振り付けを作る際に、いつも楽曲の歌詞の世界観や、伝えたい事と
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