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カリスマカンタロー

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2005年から続くストリートダンスバトルイベント「マイナビ DANCEALIVE」をプロデュースし、2021年に世界発のダンスのプロリーグ「D.LEAGUE」を発足するなど、話題に事欠かないダンス界きっての革命児カリスマカンタロー。今年4月「マイナビ DANCEALIVE」通称アライブのプロデューサーを勇退。D.LEAGUEも発足から3年経った節目に、彼は今何を考え、どんな構想を企んでいるのだろうか。今回、各プロジェクトの秘話や、アライブ勇退について聞くために、ロングインタビューを敢行。彼が描く新時代のダンスシーンは明るい!

 


 

・カリスマカンタロー

株式会社アノマリー 代表取締役CEO / 株式会社Dリーグ 代表取締役COO /一般社団法人日本国際ダンス連盟FIDA JAPAN 会長

世界最大規模のダンスバトル大会「マイナビ DANCEALIVE」をはじめ、ダンスに関わるプロデュース案件は、イベント企画から運営・講師派遣・レッスンカリキュラム・映像制作・海外でのダンスイベントなど多岐に渡る。また、日本発のプロダンスリーグを運営する株式会社Dリーグの代表取締役COOも務め、グローバルコミュニケーションのひとつとしてダンスは共通言語であることに着目しビジネス展開を拡大するダンサー兼実業家。これまでダンサー育成プログラムを通じて、D.LEAGUE所属選手や世界で活躍するダンサーを多数輩出している。著書に「誰も君のことなんて気にしていない。」(きずな出版)がある。

Twitter:@charismakantaro

Instagram:@charismakantaro


 

壮大な構想で発足した世界発のプロダンスリーグ

 

TDM:「D.LEAGUE」(以下:Dリーグ)発足から3年経ちましたが、そもそもDリーグを立ち上げた経緯はどういったことだったのでしょうか?

カンタロー:僕が株式会社LDH JAPANに入ったところからがスタートですね。2017年4月の「DANCE ALIVE」(以下:アライブ)にBOBBYさんがEXILE HIRO(以下HIRO)さんを連れてきてくれたんです。そのときに、ダンスイベントで1万人が入っていて、1ムーブで観客が沸いている光景が衝撃的だったみたいで、最初は30分だけの視察のはずが長時間見てくださって、その日に早速ご飯に呼んでいただき、「すごく感動した」と言ってくれたんです。でも、「誰も分かってないと思うけど、これ赤字でしょ?」と見抜かれたんですよ。

TDM:実際に赤字だったんですか?

カンタロー:はい。3,000~4,000万円ぐらい赤字でした。

TDM:そんなにですか!?

カンタロー:はい。でも、そんな中でやっている覚悟を気に入ってくれたのか、「何か一緒にやりませんか?」と誘っていただきました。

TDM:そこからどうDリーグ発足まで発展したのでしょうか?

カンタロー:最初に俳優・歌手の杉良太郎さんをご紹介して頂いたんです。杉さんは、日本の文化芸能を戦後から作ってきた方で、実はASEAN特別大使もその当時はされていました。「ダンスで食べているんだったら、ダンスに恩返しをしないといけないから協会を作りなさい」とおっしゃりました。「すでに協会はいくつもあるので、今からだとサッカーでいうFIFAのような協会を1つにまとめるぐらいの組織力がある国際連盟組織を作るしかないと思います」と言ったら「じゃあ、それを作りなさい」と。「え?僕がですか!?」と思いましたけど、「じゃあ、作ります!」と言いました。

TDM:作りますといっても、そんな簡単なことではないですよね!?

カンタロー:そこから、杉さんに翌年2018年のアライブを観に来ていただきました。内閣府副大臣の方をはじめ政治家の方々なども視察にいらしていて、皆さん「すごく文化的だ」とはおっしゃってくれたものの、「ダンサーが湧くところが自分たちにはよく分からないので、もっと分かりやすい形がいいんじゃないか」とご提案を頂きました。ちょうどその年は高校生の大会でバブリーダンスが話題になっていたので、一般の方にとっても分かりやすくするなら、やっぱりSHOW CASE型コンテスト形式のプロリーグがいいんじゃないかなと思ったんですよね。

 

2018年の「マイナビDANCEALIVE」に初めてLDHアーティストが出演されたときの記念すべき写真

 

TDM:まずどんなことから始めたんですか?

カンタロー:まずは、サッカーの国際連盟のFIFA(International Federation of Association Football)など、いろいろなスポーツリーグのことを勉強しました。例えばサッカーと言えば当時はブラジルで盛り上がっていましたがヨーロッパでここまで経済的にも大きく広がった成り立ち、またMLBやNBA、日本のJリーグやBリーグ、高校野球のドラフトからプロの流れなども全部勉強しました。各リーグのチェアマンなど主要な方にも沢山お会いして、課題や成功事例などを聞き、その上で一番いいとこ取りをしようと思って作ったのが今のDリーグの構造です。

本当は、高校生対象に高野連(公益財団法人日本高等学校野球連盟)のようなものを作りたかったんですが、いきなり部活のシーンに入ることはできないので、そこは10年後ぐらいを目標にして、先にその上の出口のプロリーグを作ることにしました。

TDM:具体的にはどのように進んでいったのでしょう?

カンタロー:最初に、ルールなどを決める上の組織、「FIDA JAPAN(一般社団法人 日本国際ダンス連盟)」という連盟を作りました。オリンピックのIOCもそうですが、国際連盟組織は皆スイスにあるんですけど、「別に日本にダンスの国際連盟があってもいいんじゃないか」と思ったんですよね。でも、いきなり国際連盟にはなれないから、FIDAの準備団体としてFIDA JAPANをまず作り、同じくFIDA FRANCEやFIDA CHINAなど各国に設立し、常任理事国候補ができてきてから、改めて日本に「国際連盟FIDA」を作ればいいと思ったんです。

でも、公益財団にすると財源確保が難しい。日本のスポーツ業界の悩みは常にお金がないことなので、それを解決するには、株式会社にしていずれ株式を上場することによって財源を一般市場から確保することができるのではないかと考え、Dリーグは株式会社に舵を切りました。

2019年11月19日、FIDA JAPAN名誉会長として杉良太郎さんが就任されたとき

衆議院議員会館での「日本国際ダンス連盟」を応援する議連の総会にて

 

TDM:財源の確保はスポンサーということですよね?どのようにスポンサーを探したのでしょうか?

カンタロー:まず、経済界の方たちを巻き込まないとうまくいかないと考え、そのときにHIROさんにご紹介いただいたのが、総合人材派遣サービス会社フルキャストホールディングスの創業者で、後にDリーグのCEOに就任していただく平野岳史さんでした。平野さんは、ご自身もダンスが大好きで〝ダンスを踊る上場企業の社長〟。そんな人は今まで聞いたことがありませんでした!娘さんと一緒に自分もダンスを始めたらハマってしまったそうです(笑)。

平野さんに僕の構想をお話したら、即決で「チーム持ちます」とおっしゃっていただいたのですが、HIROさんから「平野さんのような方には、1つのチームを持つというよりはDリーグの代表をやってもらうのはどうだろう?」とご提案をいただいて、「それすごくいいですね!」ということで、 改めて「株式会社Dリーグの代表もやっていただけませんか?」というお話をしました。

もちろんそんな簡単な話ではありませんでしたが、結果受けてくださって、そこから平野さんと財界の重鎮の方たちに次々に会いに行き、協力を持ちかけました。皆さん「ダンスは分からないけど、平野さんが言うなら!」と二つ返事で承諾してくれました。正直、平野さんとHIROさんのダブルの信頼は絶大でした。そこから僕の方でも口説ける会社オーナーにお話をして、なんとか9チームからスタートできました。

 

開幕を迎えるプレスカンファレンス時の各チームオーナーとスポンサー代表の方々

Dリーグ会場の様子

 

TDM:実際の運営のルールはどう決めていったのですか?

カンタロー:まず、FIDA JAPANが作ったルールを運用して、株式会社DリーグがDリーグを開催するという構造を作りました。開催スケジュールに関しては、他競技系プロリーグとなると、毎週末土日開催や3日連続などが当たり前ですが、ダンスの場合そのペースは絶対に無理。でも、なんとか2週間スパンだとしたら、半年間の準備期間で先に振付を作ってもらえばできるかもしれない!ということで2週間スパンにしました。プロリーグなので、ダンサーはここのお給料があるから他のことはやらなくてもいいですしね。

そして、ダンサーたちで音楽も0から自分たちで作ることにしました。ダンス業界が拡張しなかった理由は、音楽の著作権のように振付は権利として認められていないから映像でどれだけバズっても自分たちものにならないんです。だから当初は、既存の音楽業界と組んでなんでも使えるようにしようとも考えましたが、ダンスは部分的にカットして繋いで…という音楽の使い方もするのでそれも難しい。そこで、そもそもダンサーは「踊りたい曲で踊りたい」ものなら、その踊りたい曲も誰かが作ったものだから、その誰かに自分たちがなろう!という発想のチャレンジを各チームのディレクターにお願いしました。 作品の長さに関しては、イベントをやってきた経験から検討して、3~5分は一般の人には長い、でも1分は短いので、2分15秒にしたり、そういった細かいルールもFIDAで全部一から作りました。

当時ちょうどナンバーイベントが増え過ぎて、ダンスチームが減っているときだったので、ダンサーはバトルで海外に行くかナンバーを出すかしか道がなく、ダンスシーンが混沌としていたんですよね。そういう意味でもDリーグを中心にダンス業界の再編が行われていくと予想をして、改めて「チームを作る」という概念や、コレオグラフの役割などを考えました。

そもそもダンスの作品を作ること自体がアートで、それを音楽含めて全てを一から作ることが当たり前になれば、 最初は「Dリーグってよく分かんない」と言っていた人も、何年か後にはDリーグがあって当たり前になる。それを中心に経済圏が作られて、逆にそれに反対するカウンターカルチャーが生まれて、クラブシーンのダンスがまた盛り上がる…みたいに多角的になると思っています。

 

 

「何かが起きそう」と思わせるのは僕の特殊能力

 

TDM:Dリーグ  をやることで、クラブやアンダーグラウンドシーンも盛り上がるということですか?

カンタロー:そう思っています。僕も、自分の中でアライブとDリーグをどっちもやって、陰と陽みたいな感じで気持ちの置き所のバランスを取っているんです。逆に言うと、Dリーグを作ったから余計アライブの関わりが必要と感じます。アライブよりもっとアンダーグラウンド寄りのシーンもいっぱいあるけど、あえてそこに僕が行く必要はないので、アンダーグラウンドの中のメジャーカルチャーであるアライブと、メジャー競技のDリーグのどちらもできているのはとても運がいいですね。

ダンサーは概ね、「ダンサーとして目立って有名になりたい。でも、有名になり過ぎたくもない」という凄く混沌とした生き物なので、この望みを叶えることは結構至難の業で…。そういうシーンを資本も集めながら作っていかないといけないですからね。

TDM:ダンス界に新しいカルチャーを作るのはとても大変そうですよね。

カンタロー:当然だと思うけど、最初は皆「無理だ」と言うんです。でも、こちらは頭に浮かんだイメージを植え付けて「これは本当になるかもしれない」と信じてもらえないと周りは誰も行動してくれないので、それをやり続けるという作業がとても大変です。でも、たぶんこれは、僕の特殊能力かもしれないです(笑)。そのときに僕にお金があるとかないとかは関係なくて〝何かが起きそう〟と思う人を1人ずつ増やしていくんです。

TDM:集める資金は莫大な金額ですよね?

カンタロー:始めはどのぐらいお金がかかるかも検討がつかなかったので、「例えば 、ダンサーが最低年俸300万円で8人制、怪我などがあった場合を考えて10人だとするとお給料で3,000万円。それに衣装が1人10万円で12試合だと約1,200万円。その他にもリハーサル会場や音源制作など考えたら1年間で1チームあたり約1億円。3年間で3億か…。では、半分はスポンサー収入とすると、500万円のスポンサーが何社で…」など、過去の事例をいろいろ集めて、グッズの売れ方なども考慮に入れて計算していきました。

結果、Dリーグは1シーズン◯◯億円かかります。1回の開催で◯,000万円、それが13ラウンド。国技館でのアライブを毎週やってるみたいな感覚(笑)。

TDM:すごい!それを3年間やってみて手応えはいかがですか?

カンタロー:順調な推移はしていると思います。難しいのは、流行りにすると廃れるのも早いので、流行りにせず着実に右肩上がりで伸ばして反響もある形をどう作っていくかなんです。最初の2年はコロナの真っ只中だったので、まさにここからなんですけどね。今、準備段階を終えて各オーナー企業もダンスというものが分かり始めてきたので、各社これからビジネスにしていけるんじゃないかなと思います。

TDM:スポンサーの1番のメリットは何ですか?

カンタロー:Dリーグにはスポンサーとチームオーナーがいます。スポンサーというのは例えばトップパートナーのソフトバンク様、タイトルスポンサーの第一生命様で、Dリーグ全体に協賛していただいている企業になります。チームオーナーは、例えばサイバーエージェント、avexなどチームを持つオーナーという形なんですが、その各企業が、若い子たちをターゲットにしたときに、チームを通してマーケティング活動や宣伝、アンケート、ファンビジネスなどができたり、初めてスポーツ&エンターテインメント事業をやってみようとする企業などで成り立っているんです。若い子たちとのタッチポイントは大きい企業であればあるほどなかなか作れないですからね。皆さん、ダンスシーンが未成熟であることも理解してくれていて、2024年のオリンピックによる盛り上がりも含めて、期待と応援が混じっている感じですね。

 

〝カリスマカンタローのアライブ〟からの卒業

 

TDM:今年の4月にアライブのプロデューサーという立場から勇退されましたが、どういったお考えからなのでしょうか?

カンタロー:僕がアライブを立ち上げたときは24歳。若くて尖っていて、世の中に対しての負けん気でいろいろ突破してきたけど、20年会社を経営してきて世の中が見えてくればくるほど、大人の戦い方をしなくちゃいけない場面が増えてくる。ダンス界は現場にいてナンボなので、クラブやイベントで生の意見を聞きながらプロデュースできることが必要だけど、もう今自分はそこじゃないなと。今の子のリアルな声が聞こえなくなってきたんですよ。それに、大会のフレッシュさや躍動感には新陳代謝が絶対必要で、もう〝カリスマカンタローのアライブ〟から次のフェーズにいってもいいと思ったんです。

世の中のインフラになっているものって誰が作ったか分からないじゃないですか。サッカーのヨーロッパリーグは誰がトップか名前すら分からない。だからアライブも勝手に回るぐらいのインフラに早くしないといけない。責任者ではあるのでケツは持ちますが、「やりたいようにやってみて」という形で後輩に渡したんです。

 

「マイナビDANCEALIVE 2019」の開会宣言のワンシーン

 

TDM:その白羽の矢が立った後輩の方はどなたですか?

カンタロー:BixbiteというチームのTATSUKIです。現役ダンサーで初めてアノマリーで働いてくれた後輩で、クラブはもちろん現役として大会に出たり、中国他海外にもよく行ったりしていて、コミュニティの中にいながらも裏方として動けるし、しっかりしているので、僕の想いを話して、「お金とケツは拭くから、今まで作ってきた20年お前に託す!」と全て託しました。

TDM:せっかく作ったのに寂しくないですか?

カンタロー:そう聞かれると当然承認欲求もあって、俺が作ったんだよ!と今後も知られたい思いもあるけど、「そうなっちゃダメだよ!インフラにしないといけないんだよ!」というもう1人の自分が出てくると、そっちが正しいと思うわけで。

寂しくなって気持ちの置き所がなくなると、仲間とのご飯とかで慰めてもらうしかない(笑)。例えば、火星移住を本気で進めているイーロン・マスク氏に「なんで人は火星に移住しなきゃいけないんですか?」と聞いても彼は「いや、必要だからやるしかないでしょ」と思ってる。世の中の人全員に火星に行かないといけないことを理解してもらうのは絶対無理だし、どの道どうこう言う人たちはいっぱいいるからもうしょうがない。

 

毎年撮影する国技館の片付け後の写真

 

TDM:すごく壮大な思いですね。

カンタロー:TikTokで遊んでる人も、それで遊ぶためのネットを繋げるために何十万キロのケーブルが地球の海の中に張り巡らされていて、その海底ケーブルがちぎれないように設計されている技術は日本が開発して、海底ケーブルの約70%のシェアは日本のNTTが持っていて…とかは誰も知らない。

だから、インフラというとすごく地味なイメージに感じられてしまうので、ダンサーはインフラになれないんですよ。でも、いつまでも自分が自分が!でいっちゃうと、すごく狭い世界で遊ぶものになっちゃって、それだと例えばお金が回らないから皆裕福になれない。
HIPHOP魂って、メイクマネーとかも大事じゃないですか。やりたいことを貫くには必要でしょって思う。

例えば、大谷翔平選手1人で球場が埋まる。そのMLBの構造も、実際は〝誰々さんがやっているMLB〟であって、いろいろな所からお金が出ていて、そこにファンドもいっぱいできている。

ダンス界も、民官合わせていろいろな人たちが絡めれば、簡単に潰れないようになるんですよ。そこまで持っていかないといけないと思っています。

 

 

どうしたらダンス界が幸せになるか…ない答えを探している旅

 

TDM:アライブも勇退し、Dリーグも軌道に乗ってきた今、次なる構想はありますか?

カンタロー:「Dリーグができたらどういうことが起きる?」「反対勢力はどういうことをやるんだろう?」みたいなことを、ずっと頭の中でぐるぐる考えながらやっていたら時間があっという間に経ってしまって、気付けば僕も今年44歳。年齢なんてあまり考えないけど、40代のうちに勝負に出ないと世界は獲れないなと思ったので、英語もしゃべれないし何ができるか分からないけど、なんとかなるだろうと思ってアメリカに行くことに決めました。

TDM:アメリカでの構想は何かあるんですか?

カンタロー:日本で開発しているサービスで一山狙おうという算段はあります。去年5月にアノマリーとしてNTT docomoさんから4,5憶円の出資を受けたんですけど、その資金をベースにアメリカでの礎を作って、向こうで投資家などいろいろな方を紹介していただける予定なので「ダンスが世界を変えるから一緒にやりませんか?」と口説こうと思っています。

アメリカでもDリーグやアライブができるような働きかけもするし、ダンステックというダンスの技術を使ったITサービスも日本から持っていってスタートさせる予定です。あとは、Web3.0やブロックチェーンの領域で、ダンスの経済圏を作るための素地を作っているので、そういった今頭の中で描いているものが全部繋がったら、鉄道王とか石油王みたいに、ダンス王になって「 あの人ここまで作ったんだね」と言われて死ねるかなと思って(笑)。

とりあえずGoogle、Apple、Metaなどの本社が密集するサンフランシスコに拠点を作ってくる予定です。そういった企業にもうちのサービスを入れてほしいので。でも、具体的な計画は今は何もなくて、カフェで飲んでて仲良くなった隣の人がGoogleの人で「日本でこういうことやってるんだけど何かできないか?」みたいな感じを狙っていきます!

TDM:え。そんな感じでいくんですか!?

カンタロー:そうそう(笑)。向こうに友人が1~2人いるというレベルからどう広げていこうかなと。実績はそこそこ作ってきたので「何かやらない?」と持ち掛けたら何かやれるんじゃないかというすごく楽観的な感じ。行くのは僕1人ですし、結局、もし全部失っても、ここまで爪痕残したからなんとかなると思うんですよ。実家に戻ったら米もあるし生きていけるなと思って。物欲とかはもうないですしね。

TDM:私利私欲ではなく、そこまでできるモチベーションはなんですか?

カンタロー:自分の頭の中にあるビジョンを達成したことによる世の中の動きを「ね。こうなったでしょ!だから言ったじゃん!」と証明したいという自己承認欲だけですね。自分がいたからこの歴史が動いた、というポイントにいたいんです。僕がやっていることがイケているという自信があり過ぎて物欲もなくなり、高価なブランド品やカタチだけの豪勢なモノなどには興味がなくなりました(笑)。でも、僕はHIPHOP的にマイアミとかに大豪邸は持ちますよ!無駄にバスケコートとかめっちゃ広い豪邸の細部までのイメージはもう固めてます。そして、友達皆にカードキーを渡して「俺は使わないから、いつでも住みたいときに住んでいいよ!」みたいなことは絶対やりたい(笑)。そんなに俗物にまみれたこともないから、1回まみれた上で、改めて「いらないね」と言いたい!

TDM:マイアミは別として(笑)、世の中や歴史を変えたい思いがモチベーションなんですね。

カンタロー:僕は、一体何を持って死ねるのかと考えるんです。金をいくら稼いでも死ぬときには0になるけど、その人の作った歴史は消えない。僕の場合は、アライブを作って20年やったことや、Dリーグを作ったことは死んでも残る。社会をどう作るか、ダンス界という業界をどう作ったら皆が幸せになるのかなど、ない答えをずっと探している旅ですよね。

 

首相官邸に入るよりeggmanで踊る方が緊張する

 

TDM:そこまで思い入れのあるダンスをはじめたきっかけや、長崎から出てきたきっかけはなんだったんでしょうか?

カンタロー:母がダンサーで、〝ストレッチダンス神田〟という自分のジャンルのダンスをやっていて、3B体操やエアロビクスなどを経験した上で、自分的に体に優しいダンスを作って、それで僕と弟を食わしてたんですよ。今年69歳ですが今もダンスで生活しています。だから、小さいときから家ではマイケル・ジャクソンや洋楽が当たり前に流れていたし、 親父はサックスをやっていたのでBLUE NOTEに連れていかれたり。長崎の老舗ストリートダンスチームのRed Windosrの内川さんという方が母と仲が良くて、SEIJIさんやPEETさん、YOSHIBOWさんが長崎に来るたびに、小学生だった僕は会っていたという環境だったんです。

東京へは単純に「東京に行きたい」と思って大学で出てきました。サッカーもやっていたので、東京で、昼間はサッカー選手、深夜はダンサー、オフシーズンは役者と三足の草鞋を履きたかった(笑)。でもそれは叶わず、大学卒業してダンスをしながら2004年でアノマリーを立ち上げました。

 

母親のダンススタジオの発表会で家族でパフォーマンス(※緑が小学6年のカンタロー)

2005年頃当時のXyon(左からSE-GO、カリスマカンタロー、KIYOSHI、SATORU)

「JAPAN DANCE DELIGHT vol,12」(2005年)決勝時のコメントにてレイザーラモンHGをサンプリングしたシーン

 

TDM:アノマリーを立ち上げてからの20年を振り返ってどうですか?

カンタロー:本当にあっという間ですよね。身体が動かなくなったら夢は途絶えて、あとは余生を暮らすのかと思うともう非常に焦っています。Dリーグ25周年、アライブ40周年とかを迎えるときまでに、世界にどれだけ作れているのかなと。

TDM:20年の中で転機になった出会いはありますか?

カンタロー:その時々のタームで絶対に出会うべき人に出会っているんですよね。今回でいうと、HIROさんと出会って、杉さん、平野さんと出会ったのが1つの転機です。他にもいっぱいいます。本当にたくさんの企業の方々とお付き合いしたので、その都度いろいろな方が若い僕に教えてくれた。クソ生意気だったので、ダンス界で僕ほど怒られた人もいないんじゃないですかね(笑)。でも、平野さんと出会ってDリーグを一緒に作ったことから、本やテレビで見ていたような経営者の方々が現れて、Dリーグのチームを持ってくれた…改めて凄いことだなと強運を感じています。

あ、そうそう。首相官邸にも行きました。杉さんと一緒に「DリーグとFIDAを作ります」と当時官房長官の菅(義偉)さんにご挨拶に行くために、センチュリーに乗って首相官邸内に入り、番記者に囲まれて入館しましたからね。杉さんから「彼がダンス界のカリスマカンタローです!」とご紹介頂きまして(笑)。いや名前!って自分でツッコんでました。「こんなことあるんだ!」みたいなことが普通に起きる。そういう経験をすればするほど、肝っ玉もどんどん大きくなって度胸も座ってきますね。

 

DVD「JAPANESE HOUSE DANCERS」(2006年発売)のインタビューシーン

 

TDM:では、もう緊張することってないですか

カンタロー:eggmanなどで踊る方が緊張します(笑)。目の前に顔があるので。この間アライブのファイナルで国技館で1年ぶりに踊りましたが、そういうのは逆に全く緊張しないですね。でも、若い頃にあれだけ練習していたらそこそこ踊れるもんですね。、全く練習していなかったのに、皆に「キレキレだったね」と言われました(笑)。

 

「マイナビDANCEALIVE 」での開会宣言ソロパフォーマンス (※写真は2019時のもの)

 

TDM:立場的に「踊らなくてもいい」状況だと思うのですが、あえて踊るのはなぜですか?

カンタロー:「モテたいから踊る」からスタートして、好きになって、深掘りしていって、あとは、もう生き様になっているんですよ。僕の場合はたまたまいろいろなことをやっているけど「でも、ダンサーだから証明として踊る!」みたいな。「ダンサーならダンスやってるやつの意見だったら聞いてくれるでしょ」というダンサーとの対話に近いです。

TDM:カンタローさんが「生きてる!」と感じる瞬間はどんなときですか?

カンタロー:まだ到達してないんですよね。どんな大きい仕事の後も満足感0です。「あーよくやったな」なんて1回も思ったことないです。楽しいと思うのは、意外と親友と一緒に飯食ってるときとか普通のことですね。「今こういうこと考えてんだけど」「あ、それいいよね」と、答え合わせをしているときかな。

あとは、勉強や人と会話をしていて、点と点が繋がったときは快感ですよね。「あー!これこれ!これだわ!」となったとき。今回アメリカに持っていくサービスも、神が降りてきたように世界中で皆が使うイメージが湧いて「 俺、ようやく世界獲れるかもしれない!」と思いました。

TDM:では、逆にカンタローさんが挫折したことはあるんですか?

カンタロー:挫折はしょっちゅうですよ!「これだ!」と決めるのと「え~まじか!」というのと常に同時。だから挫折に慣れて、一喜一憂が減ってきて精神的にタフにはなっていますね。でも、やっぱり精神的疲労が一番疲れるんですよね。僕は〝豚もおだてりゃ木に登る〟じゃないけど、ずっと御輿に担がれていれば、ずっとハイパーパフォーマンスを出せる気がする(笑)。アライブもDリーグも、「カンタローがやってるやつなんて面白くないでしょ」みたいな意見じゃなくて、もし皆が「カンタロー最高だぜ!」と言ってくれたら、たぶん「借金5億じゃ足りね~!50億持ってこい!」と、どこまでもアライブを作っていたと思います(笑)。今はオトナになったのでそんなバカなことよりしっかりと毎日学んでいます。

TDM:扱う額が大きくなってくるにつれて、お金面とどうやって向き合ってきましたか?

カンタロー:資金使途は今も変わらず悩んでいますよ。でも、これは事業をやっている人は皆一緒で、例えば30万円の価値も3億円の価値もあまり変わらないと思うんですよね。

もちろんお金自体の心配は、CFOや財務関係の周りはしてるけど僕はあまりしていないです。本気になればいくらでも返せると思っているので。拡張している方向にお金を使っているから、それが足りなくなるのは当たり前。ないところに水撒いて、水を撒き続けたら芽が出てきたというのをずっとやっていますからね。

だからビビってないですね。その証拠に、2013年にシンガポールでアライブのワールドカップをやったときのマリーナベイ・サンズでやったアフターパーティーは◯,000万円かかりましたから。 120人分の交通費プラス宿泊費に加えてアフターパーティーのお会計が、体験したことがない数字で…。はじめ桁間違えて払おうとしたら違う・・・って覚めました(笑)。もう払うしかない!

TDM:桁が違いますね(笑)。

 

具体的なビジョンをイメージして自分を追い込む

 

TDM:ダンスシーンにずっと関わってきたカンタローさんから見て、最近のダンスシーンをどう捉えていますか?

カンタロー:大枠は変わらないですよね。世代交代の流れはあっても、基本的にダンサーの全容は変わっていなくて、ダンス界を変えたいという若い子はいても2~3年でやめちゃうんですよね。その理由は、ダンス界で圧倒的に成功した人がいないからだと思っています。

あと、跳ね返りがない世界だなと思っていて、例えば今は世界的な権威があるHIPHOP業界と比べたらその差は歴然としていますよね。音楽とファッションの情報インフラがしっかりと構築されていて、それはHIPHOPスターが切磋琢磨しながら創り上げている。ダンス界もインフラを整えながら圧倒的なスーパースターを作るしかないけどなかなか難しい。

1度テレビの地上波も買ってみたけど、深夜帯とはいえ、例えばアライブを放送する回で何の説明も解説もなく超絶凄いコブラのスキルを見せても一般の方はよく分からないんだなということが分かりました。あ〜、ハイコンテクスト過ぎた・・・って。
そもそも、芸能界ではない「ダンス界」というものがあることも認識されていないですからね。

DリーグCEOの平野さんにも最初に「ダンス界というものがあるんですね。僕はダンサー=芸能界だと思っていました」と言われました。もっと言えば、ダンス界の中でも、バックダンサーなどの芸能系、DELIGHTやアライブ系、コレオナンバー系などに分かれるのに、それは一般の人は絶対に分からない。だからDリーグは、ギリギリ一般の方にも分かっていただけるものにしています。ダンス界のコアな技術や素晴らしさを見てもらうには、1回その入口を通ってからじゃないと見てもらえないですからね。

そして、ダンスシーンは意外と愛が足りないシーンだなと思ってはいますね。

TDM:それはどういうことでしょうか?

カンタロー:表面的には「ダンス界のために…」という言葉も聞くけど、本当にダンス界のためにやっているとは思えなくて、自分がどうなりたいかしか考えていない人が圧倒的に多い。例えば、 僕は他人のイベントに行くときも、基本的にはお金を出したいんですよ。それがルールというか、自分もそうされたら嬉しいし、「そのイベントにお金を出す=その人を応援している」ことになる。そういったことも教育として必要だと思います。 ダンスが上手いからマウントを取るというのも違うし、上手い下手じゃなくて、ダンスを踊ること自体に感謝する…そういう生き方や道を教える教育者がいないですよね。

ダンス界の中だけで戦っている場合じゃない。他の業界への影響力がまだないよと言いたい。国内においても HIPHOP業界は今すごく影響力を持っていますが、ちょっと前まではダンス界とダンサーがラブイベントの中心でした。だから、今一度ダンス界も奮起して「自分が自分が!」と利己的に動くんじゃなくて、利他的に動かないといけないと思うんです。影響力を持ったダンサー同士が相互で話し合ったり、もっとコミュニケーションを重ねた方がいいのかなと思います。

だから、利他で動いた方が最終的に利己も叶うということを僕が体現するしかないなと思って、とりあえず 突っ走っているところです。

 

陸前高田・女川町にアライブ基金「Dance for Action」物資を届けに行った様子(2011年5月)

 

TDM:では、若いダンサーたちに一言メッセージがあればお願いします。

カンタロー:20年やってきて思うのは、さっきお話ししたように、そのために努力を惜しまなければ自分が思い描いた通りになるということ。叶わないことがあるならそれは、現実に落とし込めるぐらいまで想像していないんじゃないかなと思うんですよ。

僕もいろいろな成功者の本を読んで研究しましたが、皆口を揃えて「イメージが全てだ」というので、僕も自分のイメージを寝るときも起きたときもずっと想像しています。で、勝手にそれに合うような人が紹介されたりしています。

夢見るということはまさにそういうことで、どこまで再現性のあるイメージが持てるかなんですよ。例えばビッグイベントをやる夢があったら、その会場にいて、どんな 会場の雰囲気で、どういうカメラマンに囲まれていて、誰が出ていて、どんな衣装を着ていて、 配信先の各国の状況…など、どれだけ頭の中に具体的に描けるかどうかで、描けば描くほど精度が高くなって実現への道が勝手にできると思うんです。

最初にアライブを立ち上げたときも、誰もが国技館でやることをびっくりしていたけど、もう16年も国技館でやっているし、Dリーグも立ち上げたときは、誰もが「出来ない」と言っていたけど今は普通になってきている。だから暇があれば、自分の思うように想像することをおススメしますね。

あとは、仮想ライバルを作って、その人よりも頑張ることですかね。

TDM:今カンタローさんが想定しているライバルは誰ですか?

カンタロー:イーロン・マスク氏です!あの人の仕事量は僕よりもクソ遥に上。追いつくには、あの人の何倍以上も働かないと追いつかないけど、少なくとも一緒に仕事できる位の存在に並びたいと思います。とんでもなく大変なことですけど(笑)。他にも、目の前にいる平野さん、HIROさん、サイバーエージェントの藤田さんなど、一緒に仕事をさせていただいている方々を超えないといけない、と自分に課しています。例えば、そういう方々から「お前最近すごいな!」と言ってもらう想像をするわけですよ。 夜な夜などこかの飯屋なんかで(笑)。そのビジョンを達成するためには、自分がもっと頑張らないといけないと自分を追い込んでいます。

TDM:具体的に今頑張っていることは何ですか?

カンタロー:今は、心地いい音楽を聴いていた時間を全部スティーブ・ジョブズ氏のスピーチに切り替えてひたすら暗記しています。海外で自分のプレゼンスを発揮するには避けて通れないですから。1日2時間英語を聴いていたら10年後にはそこそこになっているでしょと思って。文法は退屈だけど、達成したいビジョンがあって、「英語がしゃべれたら、海外で誰でも友達になれて、絶対そのビジョンのドアが開く!」という確信があるから頑張れる。自分のビジョンを信じていないと途中でやめちゃうんですよね。 僕は自分のビジョンを達成できないほうが嫌だから頑張るんです。

TDM:貴重なお話ありがとうございました!今後のさらなる活躍を期待しています!

カンタロー:どうもありがとうございました!

 

photo by AKIKO

interview&edit by Yuri Aoyagi

’23/8/15 UPDATE

 

★Dリーグの詳しい情報はコチラ

 

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