ブレイクダンスは2024年パリ五輪の正式種目になり、今後のBBOYの活躍の現場は大きく変化していくだろう。ダンスには“文化・芸術”と“スポーツ”の要素が含まれるが、今後のブレイクダンスシーンはその二極化が進みそうだ。活動フィールドをカルチャーとアスリートとバランス良く往来するGEN ROCは、どこでも誰からも愛されている稀有なBBOY。本インタビューでも気さくに素直な気持ちを語ってくれた彼の人間性から、そのバランス感覚の秘訣を垣間見る事が出来た。彼のように壁を作らず、様々な分野で多くのBBOYが可能性に挑戦する姿を応援したい。
・GEN ROC (GOOD FOOT / DROPZ)
1996年産BBOY。幼少期の頃からダンスを始め、国内外のインターナショナルなバトルイベントで好成績を残す。結成10周年を迎えた”GOOD FOOT”のリーダーでもある他、”DROPZ”のメンバーでもあり、ブレイキンシーンでは勿論、多方面で活動中。国内では”Red Bull BC ONE”や”DANCE ALIVE HERO’S”等の大規模なバトルイベントでのファイナリスト経験もあり、2018年には日本で行われた世界大会”WDC (World Dance Colosseum)”にて世界一を獲得。
Instagram:@genrocreative
■ブレイキンは成長や達成感を実感出来る。
TDM:ダンスを始めたきっかけは?
GEN ROC:小学校1年生の時、親が通わせたいという理由で、姉と一緒に地元・群馬のダンススタジオに連れていかれました。最初はヒップホップだったんですが、姉が通うついでに一緒にレッスンを受けていた感じだったのでやらされて、自分は「やりたくない~」と泣きながらやってましたね(笑)。そのあと、ハウスをやったんですが楽しかったんですけどそれもしっくり来ていませんでした。
小学校3年生の時に、テレビ番組「スーパーチャンプル」でISOPPさんや”Cool Crew Jr.”が出ていて、初めてブレイキンを見て「ヘッドスピンをやりたい!」と思いました。でも、地元のスタジオのブレイキンクラスが小学校3年生以下は受けられなかったので、家でお母さんとブレイキンのレクチャーDVDを何度もスロー再生しながら、ヘッドスピンの練習をしていました(笑)。
小学校4年生からブレイキンクラスに通うようになって、本格的にブレイキンを習うようになりました。小学校5年生の時に、東京のレッスンも通いたいと思い、高田馬場にあるステップスアーツでTAISUKE君のブレイキンのレッスンがあり、僕からすればテレビで“Cool Crew Jr.”のメンバーとして見ていたので、憧れていた芸能人と会えた感じだったんです。その時は緊張して何も出来ませんでしたね(笑)。それから、KATSU1さんなどいろんな都内のレッスンに中学校まで通いました。GOOD FOOTのメンバーはその頃レッスンで出会った仲間です。
高校生の時に「ダンスで食べていきたいな」と思うようになりました。でも10代後半までは、一度、半月板を損傷してしまった事などもあって、ダンスが楽しくなくなった時期がありました。それまではダンスは練習して上手くなるものという考えだったんですが、「もっと楽しまなきゃ!」「なんでこんなに無理をして練習に行ってるんだろう」と思って、他のジャンルやダンス以外の音楽系などいろんなイベントに遊びに行くようにしたら、BBOYだけでなくいろんな友達が増えました。その頃に、もう一つの自分のクルーであるDROPZのメンバーにも出会う事になります。彼らはパーティー野郎で(笑)、お酒を飲みながら踊る事もあって、どちらかというとアスリートに近いGOOD FOOTとは真逆なんですが、その出会いが自分のダンスライフを変えてくれました。
TDM:ブレイキンの魅力は?
GEN ROC:「あ!!俺、上手くなってる!」と成長や達成感を実感出来る所です。ブレイキンの技は教えてもらっても出来ない時もあるし「どうやったら自分でやりやすいように出来るのか?」結局自分で考えるしかない。自分で考えて悩みに悩んで手にしたものが、「やっと出来た!」と一番の喜びになります。
■フレッシュな自分に出会えた自粛期間
TDM:GEN ROCさんは活動しているフィールドが、カルチャー的シーンにも、アスリート的シーンにもあって、そのバランスがいい塩梅で、どこでも可愛がられてる印象があります。何か人付き合いで大事にしている事はありますか?
GEN ROC:人として当たり前の事をしていこうと気を付けいています。例えば、「ありがとう」や「ごめんなさい」が言えない人が、結構いるんですよね。普段はため口の仲の良い先輩にも仕事の時は敬語を使うとか、イベントに誘ってくれたら、先輩後輩関係なく誰にでも感謝を伝えるとかを意識する様にしています。
TDM:とても大切な事ですね。コロナ禍による変化はありましたか?
GEN ROC:昔の自分に戻った感じがしています。練習する時間が増えたおかげで、ダンス熱が湧いてきて「もっとうまくなりたい!」「ブレイキンめっちゃ楽しい!」とまたフレッシュな自分に戻れた感覚でした。練習環境が変わって、ラッキーな事に、家の近くのスタジオで、シーンで活躍しているBBOY NORIさんとも練習出来ているので、刺激をもらいながら、イベントもないので初心に返って自分を見つめ直せる機会になりました。コロナ前は、毎週バトルやイベントがあって、常に追われながら過ごしていましたが、自粛によって自分の動きの細かい部分などを再確認出来る時間になりました。
あとは、周りの人の影響で食事に気を付けた事で、肉体改造が出来ました。具体的には牛豚鶏肉を食べず、魚や乳製品を摂る“ぺスカタリアン”という生活を1か月ほどしてみたんですが、体の調子がとても良くなりました。起きた時のすっきり度合も違いますし、とにかく体が軽い。自分のパフォーマンスにプラスになりました。おかげで先日のアライブ(「マイナビDANCE ALIVE HERO’S 2020&2021 FINAL」)に出た時は調子が良かったです。今は緩く続けています。
TDM:‘アライブ、お疲れ様でした。本番に向けてどんな練習をしましたか?
GEN ROC:去年のコロナによる自粛中から週5日、12~15時に家の近くのスタジオで練習していました。今回のバトル形式の2ラウンドを意識して、時間配分と技の組み合わせ方、その時の体力はどうなるかを考えながらやってましたね。本番が近づくとバトルの感覚に近い実践的な練習をたくさんします。とにかく1mmでも成長するように、払ってるスタジオ代の価値以上に上手くなろう!と思って、練習しています。
TDM:素敵な心がけですね。
■アスリートor ダンサー
TDM:今のブレイキンのシーンについて、どう思いますか?
GEN ROC:2024年パリ五輪の種目になったので、子供たちの目指す新たな場所になったのはいい事だと思っています。
あとは、“スポーツ or カルチャー”、“アスリートor ダンサー”ってすごく難しいと思っていて、どちらも生半可な気持ちでやると中途半端になっちゃいます。でも、その共存は俺もやりたいし、どっちも批判しないで欲しいですね。批判するなら、まず両方を理解して、ぜひやってみて欲しいと思っています。
自分も、オリンピック出場に関わるJDSF(公益社団法人日本ダンススポーツ連盟)の大会に出てみました。
ファンデーション(基本技術)、ミュージカリティ(音楽性)、バトルプレゼンテーション(相手との駆け引きや戦術)、個人戦ではオリジナリティ&クリエイティビティ(個性や技の配分など)、あらゆる項目が数字になるので、自分はどこが低いかが分かります。自分は他ジャンルとの関係性が他のBBOYよりはある自信があったので、オリジナリティや音楽性は高かったんですが、スキルが低かった。最近の若い子のパワームーブは本当に上手いので、自分は10周回るより、1周をいかにかっこよく回るかを考えながら技を磨いていこうと思っています。おそらくオリンピックでの採点方式はまだまだ実験段階で、今後もっと改善を繰り返していく分野だと思うので、そういう視点でも評価してくれたらいいなとは思いますね。
■かっこいい背中を見せたい。
TDM:2019年のダンス公演「DANCE DANCE ASIA」に出演されましたが、今振り返るとどんな経験でしたか?
GEN ROC:楽しかったです!すごくいい経験になりました。ベトナムのBBOYの3Tの演出作品で、彼の振付を踊るのではなく、皆で作る感じでした。初対面の外国人と言葉の壁を越えてダンスを作っていくのは初挑戦でしたし、初めてアクティングもやりました(笑)本番よりも作っていく過程が濃かったですし、そこで皆と仲良くなりました。言葉はなくても、ブレイキンのムーブで「これどう?」「それ、いいね!」と相手や自分の事を伝え合えたので面白かったです。
TDM:インタビュー読者にメッセージを頂けますか?
GEN ROC:ダンス以外のやりたい事はやった方がいいです。自分も趣味でDJをしたり”RAWSOUL CREATIVE”というアパレルブランドもやっているんですが、ダンスばっかりやっていると楽しくなくなっちゃうんです。ダンス以外の感性がダンスにもインスピレーションを与えてくれて、また違った踊りが出来るようになります。選択肢を狭めないで、批判しないで、まずは経験、挑戦してみてもらいたいです。例えば「J-POPは聴かない」と決めず、いろいろ聴みると「お。いいじゃん!」となるJ-POPと出会う事もあります。
TDM:最後に、今後の展望を聞かせてください。
GEN ROC:生徒や後輩にかっこいい背中を見せたいです。昔は自分の為に勝つ事ばかりでしたけど、今は「あの人みたいになりたい!」とか、自分のダンスを見て「ブレイキンをやりたい!」って思ってもらいたいですね。
あと、親孝行したいですね。オリンピックや世界大会で結果を残す事で、自分の為、親の為、後輩の為にもなるので挑戦していきたいです。もともとダンスを教えてくれたのは親ですし、今もすごくサポートしてくれています。友達も先輩後輩も、人には恵まれてるので、「俺、ここまで来たよ!」という姿を見せたいです。近々の目標としては、今年のRed Bull BC Oneの大会で優勝します!!
TDM:応援しています!今日はありがとうございました!
interview & photo by AKIKO
edit by imu
’21/06/04 UPDATE
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