

日本でいち早くイマーシブシアター(体験型公演)を取り入れ、先駆者としてたくさんのイマーシブ作品を作り出してきたDAZZLE。現在は、2023年9月より東京・白金にて常設イマーシブシアター『Unseen you』(2025年5月6日終演)、2024年10月から東京駅近くに常設イマーシブエクスペリエンス『Anemoia Tokyo』を上演している。今回はDAZZLEの長谷川達也と飯塚浩一郎に、イマーシブシアターをはじめたきっかけや楽しみ方や、ダンサー、アーティストとしての想いなどを聞いた。
・DAZZLE(長谷川達也/飯塚浩一郎)
1996年結成。「すべてのカテゴリーに属し、属さない眩さ」をスローガンに掲げ、独創性に富んだ作品を生み出し続けるダンスカンパニー。ストリートダンスとコンテポラリーダンスを融合した世界で唯一のスタイルを追求し、映画・コミック・ゲームなどのジャパニーズカルチャーの要素を積極的に取り込んだ物語性の強い作品を創り上げている。
ダンスエンターテインメントの日本一を決める「Legend Tokyo(2011)」にて優勝した他、代表作『花ト囮』は演劇祭「グリーンフェスタ」にてグランプリ・若手演出家コンクール優秀賞を受賞。海外では、「SAMJOKOアジア演劇祭(2010 韓国)」「シビウ国際演劇祭(2011 ルーマニア)」「ファジル国際演劇祭(2012 イラン)」などで上演。「ファジル国際演劇祭」では審査員特別賞・舞台美術賞の二冠を受賞。2015年には、歌舞伎俳優・坂東玉三郎氏とのコラボレーションも果たした。
2017年以降、イマーシブシアター(体験型公演)の制作に取り組み、「Touch the Dark」(2017)、「SHELTER」(2019)の他、ワンピースタワーとのコラボ作品「時の箱が開く時」(2018)、「サクラヒメ」(2020)など大型の作品、オンラインからスタートし「旅するイマーシブシアター」となった「百物語」シリーズなどを制作。2021年6月に日本初の常設型イマーシブシアター「Venus of TOKYO」を開業、10か月間(全877公演)毎日上演し注目を集めた。
2023年4月〜2024年6月、常設型イマーシブシアター「Lost in the pages」(全1263公演)、同年9月〜2025年5月、イマーシブシアター「Unseen you」(全1489公演)を上演。現在は2024年10月〜東京駅近傍に常設イマーシブエクスペリエンス『Anemoia Tokyo』を常設中。
Official HP:https://dazzle-tokyo.com/
Instagram:@dazzle_tokyo
イマーシブシアターなら日本でも常設できると思った
TDM:そもそもイマーシブシアターをやろうと思ったきっかけは?
飯塚:当時勤めていた博報堂を辞めたときに有給消化でN.Yに行って、現地の人に「今見るべきものは何?」と聞いたら、『Sleep No More』という有名なイマーシブシアターの作品を紹介されたんです。もちろん作品的にも面白かったのですが、DAZZLEがやったらもっと面白くなるんじゃないかと思ったのがきっかけですね。『Sleep No More』は、業界でも革命的な作品なのですが、全編コンテンポラリーで展開される作品で、ダンサーが主役で常設されており、お客さんがたくさん入っているんです。そんな作品は世界の歴史上初めてだと思うので、ビジネスモデル的にも可能なんだというのが衝撃的で、日本でもイマーシブシアターであれば常設もできるかもしれないと思ったんですよね。
TDM:なるほど。それは達也さんも同じ気持ちだったのでしょうか?
長谷川:僕は最初めちゃくちゃ懐疑的でした(笑)。説明してもらっても、どういう仕組みなのか分からないし、お客さんも劇場みたいに何千人と入るわけじゃないのに、どうやって採算合わせるのかも分からなかったんですよね。だから、僕も現地に行って観てみて初めて「なるほど!これはできるし、確かにDAZZLEの方が 面白いものができるかもしれない」と、帰ってきて半年後、2017年に1作目を上演しました。
TDM:普通の舞台を作るのと、一番の違いはなんですか?
長谷川:たくさんありますが、単純に客席とステージの隔たりがないので、同じ空間にお客さんと共存しながらやるというのと、出演者が袖にはけるという概念がないことですね。 その空間の中に、90分作品なら90分ずっと生き続けなければいけないので、キャラクター1人1人の脚本が必要なんです。例えば10人の登場人物がいたら、10本の脚本の元、誰と誰がどう出会ってドラマが生まれるかのポイントを作らなければいけないので、時間のコントロールが圧倒的に違いますね。1つの軸ではないので、絶対群像劇になるんですよ。常にお客さんが何を見るか自分で選べるから、お客さん自身が主役になれる空間を意識して作っていくというのが一番の違いですね。
TDM:創作する時、DAZZLEの中で役割分担はありますか?
飯塚:その時々で違いますね。僕が脚本を書くときも、すべて達也さんが考えるときも、メンバーの荒井信治が演出をするときもあります。2公演同時にやっているときは空いてる人が考えるなど、臨機応変にやっています。
TDM:ダンサーの場合、演技をすることに慣れていない人もいますよね?そこはどう指導していくのでしょうか?
長谷川:おっしゃる通り、物語を表現するためには〝何かを伝える〟という気持ちが一番でなければいけないんですが、ダンサーはダンスをうまく踊ることが優先になるので、その感覚を理解してもらうことが最初の課題ですね。表現者として優れているかどうかは、ダンスが上手いのとまた違うと説明しています。例えば、ダンサーは、手を前に出す動き1つでも振付になってしまうので、「これは振付ではなく、意味があってやっているから、ここでなぜ手を出すのか考えてみて」という話をよくします。でも、やったことがないだけで、出来ている人を見ればダンサーは吸収していきますね。
飯塚:それは常設のいいところだと思います。通常の舞台だったら1週間程度の上演で終わってしまうところ、僕らは1年以上やるので、その間に演者が成長できる。常に上演していれば、新しく入るキャストも実際に観客としてイマーシブシアターを観て「こういうことなんだ」と体験できる環境があるので、演じる側になったときにどうすればいいのか分かりやすいと思いますね。
TDM:2つの公演を掛け持ちで出ている人もいるんですか?
飯塚:カンパニーの半分以上はそうです。5~6年DAZZLEのイマーシブシアターに出続けている百戦錬磨の子も30人ぐらいいます。一緒に作り上げてくれる人たちがいるというのは本当にありがたいですね。
長谷川:イマーシブシアターは普通の舞台とは違う時間感覚でいなければいけないので、制作当初は皆で腕時計を着けて、同じ時間軸を共有してやっていましたが、今やそれが体感で出来るようになっています。また、踊り以外にも把握しなければいけないことがたくさんあって、どのタイミングにどこに行って何をするか全キャラクターごとに秒刻みのタイムラインが70分間あるので、あまりの大変さに落ち込んでいる子もいました(笑)。
飯塚:お客さんによってリアクションが違うし、お客さんの居る場所によって、踊る場所も臨機応変に対応しなければいけないので、演者はかなり大変だと思います。
長谷川:でも、環境は人を変えるので、皆対応出来るようになるんですよ。
TDM:踊る側としては、お客さんがすぐ近くにいるのはどんな感じですか?
長谷川:距離感的にはクラブで踊る感覚に近いように思いますが、この距離感に慣れていない人は違った緊張感があるみたいです。観客がどの角度で自分のダンスを見るのか分からないというのは醍醐味でもありますし、観劇する側としては、普通は見れない角度から見れるので、それも楽しみの1つですよね。
TDM:お客さんは皆好きなところに行くので、逆に誰も観ていないこともあるということですよね?
飯塚:もちろんあります。僕が初めてイマーシブシアターを見たとき、最初に 1人で何かをやっている人を発見したときに「この人を見ている人は自分しかいない」と特別感をすごく感じたし、「自分が見届けなきゃいけない」という感覚にもなるし、それも面白いと思います。
長谷川:観客は常に目撃者なんですよね。僕もN.Yでイマーシブシアターを見たときに、殺人シーンを僕だけが見ていることがあって、元々のあらすじは分かっているけど「真実は僕だけが知っている」という感覚になって面白かったです。
理解することに捉われず、ダンサーの迫力や魅力を楽しんで欲しい
TDM:イマーシブシアターは仕組み上、物語を理解しにくいという側面もあるかと思うのですが、楽しみ方のアドバイスはありますか?
長谷川:物語を理解されたい方はサイトであらすじを読んで予習してきていただくと、どういうキャラクターがいて、その人は何を求めて生きてるのかが分かるので入りやすいかもしれません。目的の異なるそれぞれのキャラクターをやみくもに追ってしまうと物語の情報が繋がらなくて、理解が難しくなってしまう場合がありますので、1人を集中して追いかけるのも楽しみ方の1つのヒントかなと思います。
飯塚:美術をよく見てみるのもおすすめですね。貼り紙1つにも「こういうことだったのか」というヒントがたくさん書いてあるので、探索する目線で見ると新たな発見があって、物語やシーンの意味が理解しやすくなると思います。
でも、物語を分かりたいと思うのは、意外と日本人特有のものかもしれないですね。海外の人はそこまで物語を意識していなくて、日本人が一番、頭で理解したいと強く考えていると思います。僕は、N.Yでいろいろな作品を観ましたが 『Sleep No More』も含め、全く分らないものも多いんですよ。たぶん作り手も分からなくていいと思っているし、お客さんも分かろうとしていない。最初から「分かる必要がない」と思って、そのときに面白そうな場所に行ってみるということで全然いいんです。僕も、イマーシブシアターはそういう風に見るタイプで、海外の作品では辻褄が合っていないことも多いので、分かろうとする方がストレスになるくらいです。その瞬間のインスピレーションに任せて行動するのも演劇ではないことだし、選択する緊張感や、「こっちを見たらあっちが見れない」というドキドキ感もイマーシブシアターにしかない魅力なのかなと思います。
長谷川:そうですね。もちろん意味合いが伝わるようにと思って作っていますが、もし物語の理解ができなくても、空間の魅力や多彩な振付を楽しんでいただきたいですし、作品のアート性やエンタメ性も含めて必ずしも理解することだけに捉われずに世界観を楽しんで欲しいですね。
飯塚:あとは、出演者とたまたま 1対1になった時だけ起こるコミュニケーションもイマーシブシアターならではのものだと思います。僕も演者のときは、ある程度の偶然性を大切にしているし「何が起きるかわからない」というのも普通の舞台ではないことですよね。
TDM:その時にしか生まれない即興性を楽しむ、ということですね。
長谷川:そうですね。楽しみ方はいろいろあっていいと思っていますが、まさにイマーシブは〝没入感〟ですから、その世界の中に突入して、自分がどう動くか、を楽しんでもらいたいですね。
TDM:何かイマーシブシアターならではの困ったことはありますか?
長谷川:お客さんが予期せぬことをしてしまったことはあります。イマーシブシアターは、観客の皆さんが、入ってはいけない場所、触ってはいけないものなど、そのルールを守ってくれないと作品が崩壊してしまいます。以前、謎解きをしたい観客が部屋をめちゃくちゃにしてしまったことがあって、そこに置いてあるはずの物がなくなってしまい、お芝居が続けらないないということがありました。持ち出し厳禁のルールを理解されていなかったわけなのですが、物語の一員としてふさわしく居ていただくのが大前提なんですよね。
TDM:見る側として、自分もそこに存在しなきゃいけない緊張感や責任感も楽しめるといいですよね。
飯塚:そうですね。それがまさにその世界にいるということですからね。
常設イマーシブエクスペリエンス『Anemoia Tokyo』について
TDM:現在東京駅近くで開催されている『Anemoia Tokyo』についてお聞きしたいのですが、会場はどのようにセレクトしたのでしょう?
飯塚:DAZZLEのことを応援してくれていて、特徴のある物件を把握している不動産屋さんの知り合いが何人かいて、美術施工を自由にできる物件を定期的に紹介してもらっています。その中でタイミングと条件で選びました。
TDM:『Anemoia Tokyo』はアートとのコラボも特徴的ですが、コラボを始めたきっかけは?
飯塚:理由は2つあって、1つは、今イマーシブシアターはアメリカやロンドン、中国などでもすごく流行っていて、とてつもない資金が投入されて作られているんです。僕がロンドンで見た作品も、巨大な工場のような場所を全てイマーシブシアターにしていて、演者も50人ぐらいいて、美術もおそらく数億円かけていてすごく豪華なんです。それと同じことを日本でやっているとただのチープ版になってしまうので、規模が大きくなくても空間がリッチに感じられる手法を考えました。アート作品があることが思考的に広がりもできて意味や企画性がある作品にできるかなと思ったからです。
もう1つの理由は、特にダンスや舞台好きではなくてもアートが好きな人も興味を示してくれるかもしれないと思ったからです。
TDM:展示してあるものは既存のアート作品なのですか?
飯塚:既存の作品と今回のために作ってもらった作品と両方あります。僕が関わっているWhateverというデジタルクリエイティブの会社がいろいろなアーティストを集めたりキュレーションしたりしてくれました。アート作品として飾ってあるものが舞台美術的に機能するということが新しいアイデアだと思います。
長谷川:アート作品と我々が作る物語や演出が一体になっているものを作りたかったんです。例えば、ダンサーが美術作品と共に存在する場合、展示されている作品の前でただ踊っているのではなく、互いが物語の中に組み込まれている、そこに意味があるものの方がいいなと。アーティストはその美術を単体で見せられるものとして作品を作っているので、その前でダンスを踊ることは、いわば邪魔かもしれないですよね。逆にダンサーも、もし触って壊してしまったらと思うと踊りづらくなってしまうという、お互いにとって邪魔になる可能性もあるけど、それを乗り越えて作品として意味があるように作られていたらよりいい相乗効果になると思ったので、その部分は意識しました。
僕らが今回からイマーシブ〝シアター〟ではなく、イマーシブ〝エクスペリエンス〟という言葉を選んでいるのも、ここに繋がっています。イマーシブシアターが日本でも認知されてきている中で、その先駆者としてさらに違った体験(エクスペリエンス)を作りたいという想いからです。
TDM:イマーシブシアターに慣れていない方に、『Anemoia Tokyo』を100%楽しむためのアドバイスを教えてください!
長谷川:そもそも『Sleep No More』などイマーシブシアターの作品の大半は、スタートから自由であることが多いのですが、DAZZLEのイマーシブシアターの特徴は、キャラクターを紹介する時間があることです。会場に入って「はいご自由に」と言われても、積極的に動ける人は良くても、そうじゃない人を置いていってしまう。特に日本の方はまだイマーシブシアターの観劇に慣れていない方も多いので、前半はこの世界にどういうキャラクターがいて、何を目的にしているのかを分かってもらう時間を作って、後半から、気になった人物を自由に見てくださいという二層の作りにしています。これは世界でDAZZLEだけだと思います。
TDM:物語を理解したい方は、前半で1人1人のキャラクターをよく見て、後半は追う人を決めて巡っていけば物語が見えてくるということですね。
長谷川:はい。でも他に9人いますので…(笑)。
TDM:では、10回見てくださいということですね(笑)。
長谷川:そうです(笑)。いや、それは半分冗談、半分本当なのですが、まず1回見ただけでもちゃんと何かを得て、満足して帰ってもらえるようにしなければ、次はないと思って作っています。その上でさらに「この時あの人は何してたんだろう?」と気になったらまた来てください!あとは、観劇はもちろんお1人でも十分ですが、何名かでご来場いただき、それぞれが別々に行動してもらうことで「あなたは何見た?私はこれ見たよ」と、各情報をパズルのように組み合わせて、物語を補完していくような二次的な楽しみ方もしていただければと思います。
TDM:『Anemoia Tokyo』の登場人物の中で、お2人が特に思い入れのあるキャラクターはいますか?( ※注意:若干ネタバレ含みます)
飯塚:僕は「現代人」と「冒険家」ですね。今までは、作品の世界の中にお客さんが来るという形でしたが、「現代人」と「冒険家」は、お客さんと一緒に電車に乗って不思議な世界へ一緒に旅をするんです。お客さんと同じ目線で作品の世界に入っていくキャラクターがいることで、お客さんも感情移入しやすいかなと設定してみたキャラクターなので思い入れがありますね。個人的にサラリーマン経験あるので、現代社会の中で苦しんでいるリアルな社会人の悲哀が随所で表現されているところも、お客さんに近い存在なのかなと思います。
長谷川:全てのキャラクター思い入れがあるので決められないですが、没入に重要な内装でも良いでしょうか?DAZZLEはその内装も自分たちで手がけているのですが、主にメンバーの荒井と高田が各エリアそれぞれ素晴らしい空間に仕上げてくれています。中でも特に作品を象徴する電車は注目のセットです。会場が高架下ということもあり騒音がすごいのですが、この電車の存在が騒音を効果的な演出の一部に変えてくれています。
TDM:物語を作る上で苦労した点はありますか?
長谷川:ノンバーバル(非言語)という作品構造の中で、10人それぞれの物語が伝わるようにシーンを組み立てていくのはすごく難しかったですね。
飯塚:ノンバーバルで初めての長編なので、民話とシンクロして頭で補完しやすいように作りました。海外でも『Then She Fell』という名作は不思議の国のアリスがベースになっていたり、『Sleep No More』はマクベスだったり、イマーシブシアターは元々あるお話をベースにしているものが多いかもしれませんね。
TDM:公式サイトは英語で併記されていたり、外国人の方を意識している作りになっていますが、結構海外の方も観にくるのでしょうか?
飯塚:今回は特に意識していますね。ほぼ毎日外国人の方は数人いらして、今までに比べればはるかに多いです。
長谷川:白金でやっていた『Unseen you』は、ナレーションのタイミングに合わせて字幕が表示され、音声ガイドが全部英語で聞けるようになっていました。これからの時代は、 海外の方を視野に入れて上演していくことが必要になってくると思っているので、より観劇の可能性を広げられたらと思っています。
飯塚:それもあって、海外の方が見て分かりやすいように、今回は和風の作品にして、浦島太郎やかぐや姫など有名な日本の民話が出てきたり、「怨霊」は平将門をモデルにしたりしています。大手町の会場の近くに将門塚という、平将門が朝廷に対して反乱を起こして首を斬られた際に、その首が飛んできてたという説が伝わる場所があるので、この会場ならではの土地にまつわる伝説も取り入れています。それ故に「怨霊」は刀を持った姿だし、刀も実は平安時代の様式なんです。先日ご縁あって、平将門の子孫の方もご来場くださいました…!(笑)。
TDM:海外のお客さんは、日本のお客さんと比べて反応などの違いはありますか?
長谷川:そんなに違いは感じないですね。世界観の中でどういう風に存在するかを掴んでくれている感じはします。たぶん〝イマーシブシアター〟と検索して見に来てくれていると思うので、元々好きな方が来てくれているのかもしれませんね。その中で、海外の方に「『Sleep No More』より面白かったよ」と言われたことは自信になりましたね。『Anemoia Tokyo』から白金の『Unseen you』にはしごして観に来てくれた方もいます。
お客さんを感動させることに絶対的な責任感がある
TDM:商業的な側面からもお話もお聞きしたいのですが、日本では未知だったイマーシブシアターをはじめるときに、マネタイズはどう考えていたのでしょうか?
長谷川:イマーシブシアターを始めた当時は、Twitter(現X)で、「DAZZLE終わったね」とか「DAZZLE落ちたね」と書かれたんですよ。 キャパ1500人規模の国際フォーラムを単独でやっていたダンスカンパニーが、今度はキャパ50人くらいのイマーシブシアターをやるわけですからね。会場規模=カンパニーの価値である感覚は理解できますが、大会場で数日の公演を行うか、小会場でも長期行うかの違いもありますよね。イマーシブシアターは劇場のように一度に大勢の人数は入れられませんが、長期公演による集客は結果として大会場をゆうに超えました。
TDM:定員50人とは改めて聞くと少ないですね!
飯塚:今回の『Anemoia Tokyo』も『Unseen you』も数十人規模です。究極的なことをいうと、没入感としてはお客さんが少なければ少ない方が高まる。N.Yの『Then She Fell』は観客が15人ですからね。でも、チケット代が約3万円だったり。それでN.Yでは成立しているので、僕たちもいろいろなことを柔軟に考えていかないと新しい世界は開けないなと思います。
長谷川:極端な話、チケット代が100万円で、観客はたった1人だけ、みたいな作品も可能だとは思います。また、制作費はあるに越したことはないですが、それよりも重要なのはアイデアでしょうか。
飯塚:お金をかけたらできることは、アメリカや中国でたくさん実現されていますよね。例えば、フロリダのディズニーランドにある映画『アバター』のエリアでは、凄まじい面積のアバターの世界が再現されていて、究極に予算かけたイマーシブシアター的な空間といえるし、中国も大規模のものをどんどん作っている。自分たちがやっている独自の手法としては、リアル空間で行われている作品のオンライン配信です。カメラマンが誰を追いかけるかはInstagramの投票で決めるのですが、作品がオンラインとリアルで 同時に成立しているのはDAZZLEしかやっていないと思います。
TDM:オンラインを使っていろいろ可能性を広げているんですね。
飯塚:ビジネス的なことをいうと、これだけ人々のインフラとして君臨しているスマートフォンの中でどれだけ活躍できるかはすごく重要だと思うんですが、PVで広告収入を得るYouTuberになりたいわけではないので、配信内容でビジネスにするのは重要かなと。今後もテクノロジーの進化と共にもっと面白いことができると思っています。
TDM:続けていくにはマネタイズは本当に大事ですよね。
飯塚:ダンサーがダンスを辞める理由は、稼げなくなって辞める人が多いと思うんですよね。役者だと歳を取っても活躍できるけど、ダンサーは30代で引退してしまう人も多い。サラリーマンの定年を考えると、60 才までちゃんと生きていけないと職業とはいえないと思います。僕らもかなり大変ではありますが、常設でやることはそういう面でも意味があるんです。DAZZLEは主催者でもあり、出演者でもあるので、僕らがこの世界を変えていかなければ他にやってくれる人はいないでしょう。振付師や演出家になるのも1つの在り方ですが、海外のように演者のまま活躍し続ける環境になったらいいなと思っています。それには、アーティストとしての姿勢や表現したいものをダンサーにも共感してもらえるようにならないといけないと思いますが。
TDM:ダンサーの意識も変わらないといけない、ということですよね。
飯塚:ダンサーは、上手く踊るということにだけ責任感を持っていて、〝お客さんを感動させる〟ということに責任感を持っていない人が多いと感じることがあります。でも、僕らはお客さんを感動させなければいけない、という責任感、使命がある。ダンス界では、踊る人も見ている人もダンサーなので、すでにリテラシーがあって、ダンスの技術を分かっている人が評価しますが、一般の人はダンステクニックが上手いというだけで感動するわけではないと思います。歌手の場合、歌唱技術的に上手いから売れるわけではないことは明白なのに、ダンサーはダンサーだけが理解できる技術にこだわり過ぎている感はあります。技術も大事ですが、もっと重要なことに意識を向けないと食べていくことは難しいと思うんですよね。お客さんは技術にお金を払うのではなく、感動にお金を払っているので。
TDM:どういった意識が必要だと思いますか?
長谷川:ファンの方に対して「この人たちを喜ばせるにはどうすればいいんだろう」という意識になると、表現の在り方が大きく変わるんではないかと思います。例えば評論家や同業者のために技術を見せるか、ファンを楽しませるために踊るかではきっと表現が違うと思う。どちらが優れているということではありませんが、どれだけ自分の表現を客観視できるか、がすごく重要だと思います。
ダンス表現は主に「アート」「エンターテインメント」「カルチャー」の3通りある
TDM:達也さんはDリーグのジャッジもされていますがDリーグの作品やDリーガーに対して思うことはありますか?
長谷川:Dリーグのダンサーのスキルは半端じゃないです!ジャッジするときも「いや、選べないよ!」と思いながら(笑)非常に苦しんで点数をつけていますが、僕は、ダンスには〝アートに見せる〟〝エンターテインメントとして分かりやすく見せる〟〝カルチャーとして突き詰めていく〟の3通りあると思っているんです。
Dリーグはシーズンごとに評価傾向があって 、ここ近年のシーズンではカルチャーを突き詰めていくチームの方が評価されやすいような流れがあると感じています。例えば、ヒップホップカルチャーへの造形が深いパフォーマンスは、アートともエンタメとも異なる独自の世界観や歴史的な文脈があって、それはある種アート的であったりもするんですけど、それを良しと判断するかどうかは、正直、審査員次第なんですよね。現にオーディエンス票とジャッジの判定が逆になることも多くあります。
例えば、ダンスカルチャーにエンタメやアート要素を込めようと思ったときに、 エンタメやアートを作る経験値が足りないと、せっかくダンスレベルが高くても作品としてのクオリティは低くなってしまうことがあって、特にテーマに対してどうパフォーマンスするかという脚本や演出が明確でない作品は、それが一体、何を伝えようとしているのかが漫然としてしまい違和感が残ります。感動を呼び込むには些細な違和感でも排除しないといけないのに、それができていないのがもったいない 。
ただ、そのチャレンジは素晴らしいことだと思うので、別のジャンルのアート作品やエンターテインメントに触れることで、表現の幅を広げられたらいいのではないかと思っています。
TDM:ご自身ではエンタメを勉強するときに何を参考にしますか?
長谷川:一番多いのは舞台を見ることですね。漫画やアニメも見ます。 僕はダンスを始めた当初からダンサーだけではない、もっといろいろな人が振り向いてくれる作品を作りたいと思っていて、それには「物語」が必要だと思ったんです。物語は老若男女すべての人が、小説、漫画、アニメ、ドラマ、映画、と親しんでいるので、物語がうまく表現できれば人が共感できるものになると思ったんです。
言葉にできないから伝わる感情やエナジーがダンスの魅力でもあるので、DAZZLEは、ダンスだから伝わるよさと、言葉だから伝わるよさを両方入れて物語を作ろうと思って、映画やアートを見て「このシーンをダンスでやったらどうなるんだろう」ということばかり考えていました。
誰かの真似ではなくオリジナルを貫くアーティストでありたい
TDM:DAZZLEの作品を作るときには、今回はエンタメ、今回はアート、のように方向性を決めて作ったりするんですか?
長谷川:それの間を狙っています。DAZZLEには〝全てのカテゴリーに属し、属さない、曖昧な眩さ〟というスローガンがあるんですが、それがアートであり、エンタメであり 、またカルチャーでもあって、それでいて全部と異なる、誰が見ても何か感じるものを作る、というのがテーマなんです。
TDM:あえて属さないというスタンスなんですね。
長谷川:どこかに属してそうだけど、どこにも属してない、というのが僕たちなりのバランスです 。でも、ダンスの世界ではどこかに属してる方がよいと思うことがたくさんありました。僕はストリートダンスシーンでは散々「ストリートダンスじゃない」と言われてきたし、コンテンポラリーシーンにいったら「コンテンポラリーじゃない」と言われ、評論家から酷評された経験もあります。「じゃあ自分はどこで表現すればいいんだろう」と思って悩むこともありましたが、逆に誰もやってないことをやれていると気づくことができたんです。「だったら踊る場所は自分で作るしかない」と、舞台を始めました。その延長で今のイマーシブシアターがあります。他の方の演出で踊ることももちろん素敵な体験ですが、僕は表現者として唯一無二のアートを作りたい、それこそが最も価値があることだと常々考えています。
TDM:今は、ダンスというと発表会やナンバーイベントなど誰かの振付けで踊るのが主流ですよね。
長谷川:例えば流行りの音楽で、流行りのステップを皆で楽しむこともダンスの魅力ですが、僕は歯を食いしばって「そういうことはやらない」と決めていました。表現者として、誰かと同じことをやっても自分の理想には辿り着けないと思ったからです。これは断じて、発表会やナンバーを否定しているものではありません。
飯塚:マーケティング的な視点でいうと、ストリートダンスでは必ず若くて新しいダンサーが流行とともに出てくるから、価値を維持するのが難しい。長く続けるなら、そこは歴史からもっと学んだ方がよくて、絶対オリジナルなことをやる方がいいと思います。結局生き残っているのは代わりのいない、オリジナリティがあるダンサーだと思うので。この30年でアメリカからはメジャーなジャンルが5個、6個生まれているのだから、ここから30年で、これだけダンス大国となっている日本から5、6個新しいオリジナルダンスが生まれて、それを世界中の人が踊るという状況になって欲しいですよね。
長谷川:ガラッと何か違うものが生まれるのはかなり難しいし、また、評価を得るのは難しいと思うので、徐々に変化していく中で生まれるものなのかもしれないですね。今では文化として確立されているロックダンスも、ソウルダンスが主流だった当時、そのコミカルでキレのある動きを「ふざけすぎている」とか「リズムに乗れていない」など批判的な意見もあったと聞いたことがあります。理解されないものを自分たちの信念で貫き通して、やがて文化を確立するなんてすごいことです。僕もそうありたいと思いました。
誇れる自分になりたいと思ってDAZZLEを始めたのですが、いろいろなダンスを融合する中で、物語を表現することや、ダンス以外の文化も取り入れるというのがこの広い世界で戦うために必要なことだと思いました。それは同時にダンススキルでは敵わない僕なりの生き残るためのアイデアなんです。
TDM:オリジネーターになっていく意識ですね。
長谷川:大学を卒業したぐらいに、「 これが自分だ!と言えるダンスを踊れないでどうするんだ!」「それがHIPHOPでいいのか!?」と、強烈に思った時期があったんです。皆がやっていることだと真似事でしかないから「自分だけのダンスができなかったらアーティストじゃない!」と僕なりに尖ってましたね(笑)。だからこそ「HIP HOPじゃない」「コンテンポラリーじゃない」と言われても乗り越えてきたんです。
飯塚:それを評価する土壌が日本にはないんですよね。アメリカはオリジナリティに対してもっと評価が高い。だからDAZZLEがコンテストに出ていた時代は、外国人審査員がいると成績が良くて、日本人審査員しかいないと勝てないということがよくありました。達也さんは数十年にわたって新しいダンススタイルを体系的に作ってきた稀有な存在なので、国内でももっと評価されるべきだとは思います。やはりオリジナリティよりも既存のものを極める方がいいという人が日本には多いのかもしれないですね。でも、そのような環境ではオリジネーターは永遠に現れないと思います。
長谷川:ありがたいです。こうやって認めてくれる仲間に恵まれて今があります(笑)。
飯塚:オリジナルであることに価値があるというのは、クリエイターという目線からすると当たり前なんですよ。だから、逆にいうとダンサーのような表現者の中で、そのような思考の人が少ないことが不思議です。でも、それはダンスに限らず今の日本全体にも言えることであって、新しいビジネスが生まれないと言われています。GoogleやFacebookが日本から出てこないというのと同じ問題かもしれないですね。HIP HOPもHOUSEもKRUMPも、作ったのは全員外国人。日本では1~2年斬新なスタイルで踊る人が出てきたことはありますが、それをやり続ける人はいませんよね。
DAZZLEしかできない新しい表現を作りたい
TDM:達也さんは踊り続けるために身体のケアなどはされていますか?
長谷川:あまりできていないですね。代わりに、というと変ですが、身体よりも頭を使う方が多くなっています。ただ、良くも悪くも表現の質は変化しているのかなと思います。20代の頃のようには動けないですが、より繊細なところで見せられるようになっているとも思いますね。
TDM:達也さんの作品への没頭感から感じる波動や存在感やエネルギーというのは若いダンサーには出せない説得力があると思います。
長谷川:本当ですか?嬉しいです。ありがとうございます。でも、もしそうだとしたら、やはり〝想い〟がすごく重要だと思います。 心と体は一体だとよく言われますが、演じるときは極力その時そのキャラクターが何を感じているかを本気で思いながらやっているんです。どのぐらいの強度で明確にイメージできるかがすごく重要だと10年前ぐらい前に気づいたんです。
TDM:10年前に何かきっかけがあったんですか?
長谷川:DAZZLEが20周年のときに上演した『鱗人輪舞』(リンド・ロンド)という舞台作品で、最後に踊り狂うシーンがあったんです。僕はそれまでDAZZLEのダンスは造形としてどうかを大事にしてたんですが、そのときのソロでは、それを一回全部捨ててみようと思ったんです。今までの価値観とは真逆とも取れる選択がすごく怖かったんですが、感情に身を任せて動くと決めて踊ってみたら 「今までで1番良かった!」と皆に言われたんです。当然、積み重ねてきた造形に対する思いや技術があっての上ですが、そこで感情に身を任せてやったエナジーが伝わって、客席では泣いている人もいて「あ、これがダンスの力、表現の力なんだ」と思ったんです。その経験から、造形や流れもすごく大切なものだけど、もっと人間の本能的な部分で、心のままに動くことも魅力だと気づいて、今は両方意識するようにしています。
TDM:今のダンスシーンに何か感じることはありますか?
長谷川:僕は、ダンス界全体に対してどうあるべきだとかは一切なくて、どうあってもいいと思っているんですよ。昔はダンスの魅力をどうにか伝えなきゃいけないということを一大テーマにしていましたが、今はあらゆる人がダンスを身近に感じられるようになってきていますからね。その中で、DAZZLEの魅力をいかに多くの方にお届けできるかを模索しています。世の中に広がっているダンスの表現や、一般の人が感じているダンスは、まだまだ限定的だと思っているので、DAZZLEのような表現も知って欲しいと思っています。
飯塚:ダンスが持っている本質は変わらず素晴らしいと思うのですが、その限界を感じることもあります。ものすごく上手い人が目の前で踊っていても、それだけでコンテンツとして長尺で成立させるのは難しいと思いますが、歌だと120分以上持ちますよね。僕らは物語という手法で挑戦していますが、これから先、「ずっとその人が踊ってるだけで成立するダンス」が登場したりするんだろうか?とは考えますね。もしかしたらそういう存在が登場するかも…と思うと楽しみですね。
TDM:最後に、今後の目標や、やりたいことはなんですか?
飯塚:元々、舞台をやってきたので、これからも当然、舞台も作りたいし、イマーシブシアターも作っていきたいと思っていますが、願わくば、イマーシブシアターでもない、誰もやったことがない新しい仕組みや構造のダンスの作品を作りたいですね。
長谷川:それはまだ見つかっていないですけど、DAZZLEしかできない新しい表現を作りたいなと思っています。
TDM:DAZZLEの新しい表現に期待しています!本日はありがとうございました!
interview & text by Yuri Aoyagi
interview & photo by AKIKO
’25/05/27 UPDATE
★常設イマーシブエクスペリエンス『Anemoia Tokyo』の詳細はコチラをチェック!
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◆公演名 PARCO PRODUCE 『TOKYO GEGEGAY 2025 TOUR』 ◆出演 MIKEY from TOKYO GEGEGAY ダンサー KELO / MIKU / AROE ミュージシャン 園畑貴之…