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舞台『2 – taxon』特集 梅田宏明×YULI

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ダンス、テクノロジーアート、音楽など国内外で多ジャンルに渡り活躍する梅田宏明が手掛けるプロジェクト「Somatic Field Project」の新作公演が『2 – taxon』と題され、ストリートダンサーを起用して上演される。舞台表現にも興味を持ち、ストリートシーンの一線で活躍するダンサーYULI、CHIKA-J、AYUMI。コンテンポラリーダンスの振付家である梅田がなぜ今回ストリートダンスを取り入れようと思ったのか、斬新な試みの経緯とそれぞれの挑戦について、梅田宏明と、今回出演する実力派女性ポッパーYULIに話を聞いた。


 

・梅田宏明

                        photo by  Shin Yamagata

振付家、ダンサー、ビジュアルアーティスト。2002年より自身の振付作品がパリ・シャイヨー国立劇場など世界各地に招聘され、これまでの公演先は世界40ヵ国/150都市以上に上る。作品では振付、ダンスだけでなくサウンド・映像・照明デザインも手がけ、作品はダンスだけでなくテクノロジーアートや音楽の分野などでも多く上演されている。

委託振付作品に、ヨーテボリ・オペラ・ダンスカンパニー(スウェーデン)『Interfacial Scale』(2013年)、 L.A. Dance Project(アメリカ)『Peripheral Stream』(2014年)などがある。2014年には、日本の若手ダンサーの育成と、自身のムーブメント・メソッド「Kinetic Force Method」の発展を目的として「Somatic Field Project」を開始。

近年は身体的感覚にフォーカスしたインスタレーションも制作しており、映像作品は2018年、21_21 DESIGH SIGHTの「AUDIO ARCHITECTURE展」で展示されたほか、ダンス作品を元に制作されたドーム型映像作品『Intensional Particle』はドイツのFulldome Festival受賞、その他世界各地のフェスティバルで上映されている。

 

 

・YULI

3歳からクラシックバレエを始め、中学生でストリートダンスに出会い、高校生の時にPOPPING、ANIMATIONを始める。大学では演劇学部ダンスコースに入学し、コンテンポラリーと演劇を主とした講義を受ける。その後LA.にてANIMATIONスタイルを学び、2011年頃にPOPPINGを軸としたFreestyleの女性二人組チーム魁極龍を結成。JUSTE DEBOUT JAPON 2013 では準優勝という結果を残す。2012年にユニットBOO+YULIを結成し、邦楽で魅せるショーケースが評価されいくつか賞を得る。2015年にチームNicol.Crossenceを結成。DANCE DANCE ASIA in TOKYOのオーディションに合格。2017年より、アメリカWEST COAST HIPHOPのカルチャーを愛し、その文化である音楽、ファッション、精神を体現したショーケースをモットーとするチームḌākineeを結成し活動中。

”ハマの大怪獣”OZROSAURUSの楽曲を使用したSHOWCASEを披露したのをきっかけに、SMBC日本シリーズ 横浜スタジアムでOZROSAURUS本人とのパフォーマンスも果たした。

 


 

■‟ストリートダンサーは怖い“というイメージだった

 

TDM:まず、梅田さんの今までの活動を教えてください。

梅田僕はもともとアートに興味があって、大学で写真を勉強していて、その延長として芸術作品を作るために20歳でダンスを始めたんです。それからコンテストに出たりしたことをきっかけに、主にヨーロッパで活動するようになりました。

今は、映像や音楽を自分で作って、自分で踊って、というスタイルの作品を作っていて、海外を回ったり、いろんなダンサーに振付をしたりしています。日本では年に1回作品を上演していて、日本でストリートダンサーと一緒に作品を作れないかなと思って、今回の企画を提案しました。

TDM:どうしてストリートダンスを取り入れようと思ったんですか?

梅田ストリートダンスは自分が育ってきた中で、すごく刺激を受けてきたカルチャーで、習いに行った事もあるくらい以前から興味は持っていたんです。でも、今までは自分のやっている事とどう繋がるかはよくイメージ出来なかったのと、すごくリスペクトと憧れがあるので、逆に一緒にやる事には腰が重かったんですが、いよいよ挑戦してみようと思たんです。

 

 

TDM:では、今回出演されるYULIさんの今までの活動を教えてください。

YULI私は、3歳からバレエを始めて、その後バレエと並行して、地元の横浜のダンススクールのHIP HOPレッスンにも行き始めました。型にはまっているバレエとは違って、ストリートダンスは自由な表現があったので、ストリートダンスのほうが楽しいなと感じていた中で、高1のときにテレビ番組「少年チャンプル」に出ていたフォーマーアクションを見て「POPかっこいい!」と思って、マドカさんのレッスンに行きました。

当時はPOPを踊る女の子は少なかったんですけど、Sumiという子と魁極龍というチームを組んで、JUSTE DEBOUT JAPON 2013 で準優勝して、そこから別のチームを作って活動していたんですが、私が1番好きなWESTCOASTカルチャーをメインにしたチームを作りたいと思い、Dākineeというチームを組んで後輩と活動をしていました。

でも、そうやって後輩を引っ張っていったり、とにかく期待に応えられるようにと意識している間に、自分自身の踊りを忘れがちになっちゃって…。ここ数年は、もっと結果を残さなきゃと、プレッシャーや責任感のほうが強くなってしまって、「ダンスってもっと楽しいのにな…。もっと自分のためにダンスしたい!」と、思っていた矢先にこのお話を頂いたんです。

最近、アートに興味が湧いていて、ダンス以外にもいろいろな表現方法に挑戦してみたいと思っていたので、映像や音楽、ダンスなどを一気に表現している梅田さんに興味が湧いて「やってみたい!」と思いました。

TDM:お互いの第一印象はどうでしたか?

梅田事前にたくさん映像を観ていたので、「ストリートダンサーって怖いのかな」というイメージで、とても緊張していました。でも、実際お会いしてみたらすごく礼儀正しくて、いろいろお話してくださいました。

YULI私は、在籍していた大学でコンテンポラリーの授業があったので、コンテンポラリーの先生って厳しくてめっちゃ怖いというイメージだったし、梅田さんの映像作品は顔もあまり見えないので、余計怖くて(笑)覚悟してたんですけど、梅田さんはお会いした瞬間から腰が低くてびっくりしました(笑)。それから個々にいろいろな事を聞いてくれて、人としてコミュニケーションをとりながら踊りやすい環境を作ってくれる方だなと思いました。

TDM:出演者の印象はそれぞれどんな感じですか?

梅田まずYULIさんは、すごく真っすぐな方。僕がお願いする事を、最初は戸惑っていてもすぐ出来ちゃったりして、身体に変換する速さがすごい。細かく身体を動かす能力が高くて、踊りはとても繊細なんですけど、睡眠時間が日々で極端に違ったりとか(笑)独特で面白い方です。

CHIKA-Jさんは身体の感覚をしっかり持っている方で、真面目でハードワーカー。AYUMIさんは、真面目でいい意味で理性的。「感覚的にやって欲しい」と伝えると、それをちゃんと理性的に理解して身体に変換してくれる方です。

YULI私はCHIKA-JさんともAYUMIさんとも初対面で、大阪の気合の入ったHIP HOPダンサーという事で、最初は怖かったんですが(笑)、お2人ともとてもフレンドリーに話してくれて安心しました。

 

■ 身体の使い方の概念を全部ぶっ壊された

 

TDM:梅田さんが稽古の前にやるメソッドについて教えてください。

梅田僕のやっているメソッドは、‟力を抜く“、‟バランスをとる”というトレーニングを同時にやるんですが、今回は、そういう身体の使い方をしてもらいながら、踊るときに‟身体の質感“を意識する事をお願いしました。

具体的には、脱力する時はひたすら身体を揺さぶってもらう。初日は皆さん「目が廻った!」と言ってましたが、数日やるとリラックスしてとても楽そうに動いていました。そういう事を繰り返したり、僕からも「ここに力が入ってるので抜いてください」など指摘をしたりして、‟身体の癖に気づいていく“という作業をしていきます。

例えば、YULIさんは肩が硬かったので、肩と首が繋がっている所をリラックスしてもらい、足の付け根が少し硬かったのでお尻をリラックスさせて重心を整えるという事をお願いしました。

TDM:人それぞれの癖は、踊りを見てわかるんですか?

梅田わかりますね。偏ったバランスだと意図しない動きが出てきちゃうので、「なんで今ここの手が上がったんだろう?」とか考えていくと、だいたいバランスがズレているので、それで癖が見えてくる。力が入っちゃっている所を一回リラックスしてもらうと、動かす速度が速くなったり、スタミナが持つようになったり、楽に動けるようになるんです。あとは、身体に対して敏感になるという事がすごく重要で、身体の力をなるべく抜いて、‟自分が動いている“という感覚を感じてもらうようにお願いしています。

 

 

TDM:そのメソッドを実際やってみてどうでしたか?

YULI私は、筋トレで勢いや瞬発力をつけたり、もっと身体を固くするという、全く逆の事をやってきたので、全部力を抜けと言われても「抜けない…」みたいな(笑)。
自分の意識で型にはめていく動きしか知らなかったので、今までの身体の使い方の概念を全部ぶっ壊されました。

でも、身体を支える上での基本の姿勢や軸、体重の使い方を意識して身体を使うようになってから、今までやってきた練習方法じゃ動かなかった範囲に身体が動いたりして、「私こんなに手が上がるんだ!」とか、発見がすごく多いんです。ちゃんと自分の身体で理解してダメな所がわかる。それに、梅田さんのメソッドをやると身体がほぐれて筋肉痛がすぐ治るんですよ。本当にいろんなダンサーに試して欲しいです。

 

■ ストリートダンサーは動きの質感が面白い

 

TDM:梅田さんから見るストリートダンサーの身体の特徴や魅力はどういったところですか?

梅田身体をコントロールする能力や技術は、他のダンスジャンルのダンサーより非常に高いと感じています。ストリートダンサーはダイナミックさや力強さがすごく特殊で、特にPOPやHIP HOPは、身体の力の使い方や流れがすごく面白くて魅力的です。
僕は作品を作る上で、ダンスというものを“動きを構成するもの”として捉えるようにしているので、どういう動きが魅力的なのかという目線で見た時に、ストリートダンサーはとても面白い動きの質感を持っているので、それを作品に使えたらいいなと思っています。

TDM:‟動きの質感“とは難しい表現ですね。

梅田最初、3人に同じお話をしたときに“質感”と言ったら皆さんも戸惑ってらっしゃって…。僕らの言葉で言うと“テクスチャー”とか‟肌触り”とかそういう意味なんですけど、同じ動き1つにしても、動かし方で質感の違いが出てくる。ストリートダンサーはそれを意図してやってるというよりは、音楽に合わせてやっているみたいですね。

YULIそうなんです。私達がやっている“質感”というのは意識的なんです。スローモーションならスローモーション、ストップならストップ、とか。でも、梅田さんからは「1個の質感から派生する変化や、そういう事に気付いて欲しい」と言われて、「そんなん分からない!」と思って(笑)。

自分で意識してスピードを変えるとかは出来ますけど、自然と気付きながらやるというのが本当にわからなくて…。それを、たぶんストリートダンサーはきれいな形にしようとしちゃうんですよ。ポージング的にかっこよくいなきゃいけないと思っちゃうので、まずその感覚を抜かないと感じられない事なのかなと思います。だから未だに謎が多いですね。

梅田皆さんは普段、技やリズムをメインにして踊っているとの事だったので、今回は「質感だけにフォーカスして踊ってください」というお願いしているんです。そして、面白いのは、リハーサル中は音楽をかけているんですけど、ストリートダンサーの方は音楽に敏感過ぎて、音楽がかかっちゃうとそっちに合わせちゃうので、「今リズムがある曲はやめてくれ」とか言われます(笑)。

 

 

YULI数え方も不思議で、私達はAメロ、Bメロ、サビを考えて、「Bメロの2×8(ツーエイト)目」とか数えるんですが、コンテンポラリーは音に区切りがないから「48×8目からやります」とかなんです。「48×8ってどこ!?」みたいな(笑)。

梅田1つの歌に合わせるわけじゃないので、そういう感じになってしまうんですよね。そういった違いをいろいろ話し合いながら、リハーサルのやり方を決めていっています。

TDM:ビートがない音楽で踊るのはどんな感覚ですか?

YULI音に合わせてなくても、梅田さんの動きを稽古で観たときにめっちゃアニメーションで、あまりにもすご過ぎて「なんだこれ!」って笑っちゃったんですよ。私達は音を感じながら集中しないと出来ないけど、普通にしゃべりながら、当たり前のようにエグい質感を出してくる(笑)。

私は特にPOPの中でもアニメーション寄りのスタイルなので、梅田さんの踊りを間近で見て、梅田さんみたいに「謎だし不思議だけど、なんかすごい!」と思ってもらえるようになりたいと思いましたね。

謎がある方が人の心って掴みやすいと思うんですけど、そこがストリートダンサーにない部分だなと思うので、自分が今までやってきたものとバランスよく融合出来たら、今までとは違うスタイルが自分の中で出来るのかなと思いますね。

 

■ダンサーが持っている“言葉”を使って物語を作っていく

 

TDM:梅田さんは、海外でご活躍なされていますが、海外のダンスシーンと日本のダンスシーンの違いは感じますか?

梅田そうですね。ストリートダンスとの兼ね合いで言うと、例えばヨーロッパのコンテンポラリーダンスのシーンでは、積極的にストリートダンサーが舞台に上がるようになっていて、ここ10~15年くらいは、いかにストリートダンスを舞台芸術にもっていけるかとい事を行っているので、ストリートダンサーもコンテンポラリーダンスに抵抗がないし、比較的ジャンルの境界線が薄いと感じています。

日本では、コンテンポラリーダンスのシーンがあまりないというのと、ストリートダンサーは素晴らしい人がいっぱいいるのに、芸術に関してはあまり見た事がないという人が多いのかなと。もうちょっと寄り添えれば、お互い力になれる事があるんじゃないかなと思いますね。

 

 

TDM:YULIさんは今のストリートダンスシーンを客観的に見てどう思いますか?

YULI昔とは感覚が違ってきていて、アスリートっぽくなってきたと感じます。昔はストリートでセッションしたり、上の世代が作ったシーンや文化を下の世代が目指していくというスタイルがあったんですけど、今は動画サイトが普及してきて、頭がいい若い子は練習すればすぐ形は出来ちゃうので、上手いダンサーは増えたけど、ズバ抜けて印象に残るダンサーは少ないと感じます。

だから、今はコンテストやバトルも、昔みたいに泣くほど感動する事がなくて、若い子のショーケースを見ても、ただひたすら「上手いな」と思うだけで、「ダンスって最高!」とは思えない事が多いんですよ。

バトルやコンテストでも、結果が全てじゃなくて、人の心に残ったダンスが出来ていたかが大事だと思うのですが、梅田さんの踊りを見た時のように、思わず笑っちゃうくらいすごい人ってなかなかいない。だから、そういうダンサーがもっと増えて欲しいし、私自身がもっとそうならなきゃいけないなって思っています。そうじゃないと自分がつまらない。

今のストリートダンスシーンにいて活躍するには、アスリートみたいに身体を鍛えてすごい技術をするか、ぶっ飛んでるか(笑)、どっちかだなと思っているので、私はぶっ飛んでたいなと。ストリートダンサーだけど、アーティスティックでいたいので、もっといろんな世界のダンサーと出会って、学んだ事を自分のスタイルに取り入れて発信していきたいと思って、挑戦中です。だから今はすごく楽しいです。

 

 

TDM:最後に公演の見所を教えてください!

梅田ダンサー達の出せるものが、作品の1つ1つのシーンを作っていくので、そのダンサー達が持っている“言葉”を使って、どういった物語を作っていくか。3人とも出せる言葉がそれぞれ全然違うので、強い言葉があれば、それをどうやって配置すればいいのか、という事を考えて作品を作っています。

公演自体は、ストリートダンサー達とやる作品と、僕自身が踊る映像の作品と、普段僕が一緒に作品を作っているダンサー達とやる作品と、3つの違うスタイルの作品が観れるのは見所の1つですね。あとは、ストリートダンサーが観たときに、自分達がダンスをしていく上で何か可能性が広がるような事に、僕が少しでも力になれればいいなと思います。逆に、コンテンポラリーダンサーがストリートダンスに興味を持つ事に繋がればいいなとも思ってますので、ぜひ観に来てください!

TDM:コンテンポラリーとストリートダンスの新しい可能性に期待しています!本日はありがとうございました!

 

 

Interview by Yuri Aoyagi

photo by AKIKO

’19/5/29 UPDATE

 

梅田宏明+Somatic Field Project『2 – taxon』の詳細はコチラ!

公演公式HP  http://sfp.hiroakiumeda.com/?p=1338

About the author / 

tokyodancemagazine

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