01.interview, People

Dance New Air 2018特集 黒田育世×熊谷拓明×菅原小春

Off 19686

ボーダレスな感性を持つストリートダンサーが輝く環境は増え続けている。普段交わることのないジャンルを超えたコラボレーションもその一つ。コンテンポラリー界を牽引する黒田育世 が手掛けた伝説の作品「ラストパイ」が、ダンスフェスティバルDance New Airのオープニング作品として蘇る。今回出演する菅原小春、熊谷拓明、そして、仕掛け人黒田育世に、13年ぶりの再演に至った経緯と、それぞれの挑戦について話を聞いた。深い感度と研ぎ澄まされた感性を持つ彼らは、交わるべくして交わり、そこには互いのリスペクトと純粋な好奇心が満ちていた。

 


 

  • 黒田育世

    写真:池谷友秀

    写真:池谷友秀

    BATIK主宰 振付家・ダンサー。6 歳よりクラシックバレエを始め、97 年渡英、コンテンポラリーダンスを学ぶ。 02 年 BATIK を設立。バレエテクニックを基礎に、身体を極限まで追いつめる過激でダイナミックな振付は、踊りが持つ本来的な衝動と結びつき、ジャンルを超えて支持されている。 BATIK での活動に加え、金森穣率いる Noism05 、飴屋法水、古川日出男、笠井叡、野田秀樹、串田和美など様々なアーティストとのクリエーションも多い。 http://batik.jp/

  • 菅原小春
    菅原小春|クレジット無し
    1992年生まれ。幼少期にダンスを始め、数々のダンスコンテストで優勝。2010年に渡米し、独自のダンススタイルを作り上げる。EXILE、少女時代、三浦大地、CRYSTAL KAYなどの振付、安室奈美恵、SMAPなどのダンサーを務めたほか、スティーヴィー・ワンダーとのCM共演をきっかけにさらなる注目を集める。14年以来、女性ダンサー初のナイキアスリートとして活動。また16・17年と自身が演出を手がけた単独公演「SUGAR WATER」を上演し成功を収めた。

 

  • 熊谷拓明

    写真:大洞博靖

    写真:大洞博靖

    1979年札幌に生まれる。中学時代に観たミュージカルに衝撃を受け、独学で歌い踊る日々を過ごす。独学に限界を感じ札幌ダンススタジオマインドの門を叩き、ダンスを宏瀬賢二に師事。2008年からはシルク・ドゥ・ソレイユに約3年間所属。帰国後は歌い踊り、脚本を書き、MC 業までこなし、自由に活動の場を広げている。

 

  • Dance New Air 2018
    2年に1度、東京・青山を中心に開催しているフェスティバル Dance New Air。国内外7作品の公演を中心に、ダンスフィルム、ブックフェア、ショウケース、屋外パフォーマンスなど、多彩なプログラムを通じてダンスの魅力を紹介します。  http://dancenewair.tokyo

 

 


ユニゾンが人間動物園状態。リハーサルの毎日がご褒美!

 

TDM : 今回、「ラストパイ」を再演することになった経緯を教えてください。

 

黒田:Dance New Air(以下、DNA)のプロデューサー から、今回「ラストパイ」をオープニング作品としてやって欲しいとオファーを頂きました。もともと、2005年にNoism05の皆さんと初演し、それ以来、まったくダンス経験のない方々にまったく同じ振付をして上演するという、レパートリーワークショップ&ショーイングという形で、5回ほど行ってきました。プロフェッショナルのメンバーで再演することが夢だった作品なので、今回、素晴らしい皆さんと再演ができることがとても幸せです。

 

TDM : 小春さん、熊谷さんをキャスティングした理由は?

 

黒田:まず、小春ちゃんとの出会いは、ある日DNAのオファーが来るよりももっと前になりますが、私が家に帰ったら、そこにいたんです(笑)。共通の知り合いのトモ(辻本知彦)が連れてきてくれて、そこで初めましてと挨拶をしました。私はテレビも持ってないし、インターネットもほとんど使わないので、小春ちゃんがたくさん活動していることをまったく知りませんでした。出会った時は、偶然にも「ラストパイ」のレパートリーワークショップ期間中で、私の頭の中は「ラストパイ」一色でしたので、小春ちゃんの動きを見て、「小春ちゃんに踊って欲しい」と思ったんです。今、純粋な小春ちゃんの踊りを見て感動している日々です。

 

熊ちゃん(熊谷)は、去年6月に柳本雅寛さんが主宰している+81の公演「Que Sera」で共演しました。そして、そのリハーサル中の姿勢が本当に大人だなと思い、「私は熊ちゃんになりたい。」と尊敬していました(笑)。「ラストパイ」が決まった時に、初演時にトモが踊っていたパートを熊ちゃんにお願いしたいと思いました。私の中では、トモも熊ちゃんも、いい意味で、“野蛮なんだけどエレガント”だと思っていて、そういう人はなかなかいないんですよね。

 

TDM:お2人は、今回のオファーを聞いた時、どんなお気持ちでしたか?

 

菅原

P1200141 (2)

私は、ちゃんとバレエをやってきているわけではありません。黒田さんは、私にそういう基礎がないことも知った上で、私みたいな変なやつに「踊らない?」って言ってくださったのでありがたいと思いました。私も黒田さんの作品を見たことがなかったんですが、おこがましいかもしれないんですが、「これはちゃんとやりたい」「できたい」と思ったんです。それが、最初のインスピレーションでした。

 

熊谷

P1200096 (2)

僕も「ラストパイ」を見たことはなかったんですが、過去の育世さんの作品は知っていましたし、育世さんのカンパニーBATIKはものすごくストイック、さらにストイックな印象の菅原小春も出ると聞いて、ストイックとは真逆の俺にとって、これは絶対にやばいと思いました(笑)。僕はどういう飛び道具として在ればいいのかなと思いましたが、去年、育世さんと共演して、少ない人数で濃く過ごしたあの日々を経てのオファーなので、あとは育世さんを信じようと思っています。

 

TDM:現在、稽古が始まって数日とのことですが、黒田さんは今どんな感覚ですか?

 

黒田:本当に幸せです!個人的にも「ラストパイ」の本公演という形を夢見ていたので、こんなにも信頼できるダンサーに集まって頂いて、毎日が私にとってご褒美のように感じます。今、ユニゾンのパートをやっているんですが、ある意味みんなユニークなので、バラバラで、まさに人間動物園状態になっているのが、本当に嬉しくて幸せです。

 

 

画がぽろろろっと降りてくる作家病です。

 

 

TDM : 小春さん、熊谷さんから見て黒田さんや作品の魅力、ワクワクしていることは?

 

菅原:ちょうど昨日「ラストパイ」の話をみんなに話してくださいました。あまりに面白かったので、私が「これは体験談なんですか?それとも想像ですか?」と聞いたら、「ぽろろろっと(画が)降りてくるの~。作家気質だから。」って仰ってて、ますます面白いなと思いました。画が降りてきて、その画のイメージで振付が降りてくるそうです。作り方も映画チックで、シナリオというか、セリフを渡されている気分になります。

 

熊谷:僕の自主公演だと、セリフもあるので演者に伝える時には大体、文字になりますが、育世さんの場合、絵コンテのようなものを見せてくれて、頭に描いている画を伝えてくれるんです。これを説明している育世さんの表情はとても幸せそうで、それも見て、温かい雰囲気になります。

 

黒田:私はクリエイター気質なんでしょうね。私の体はダンサーと振付師を半分ずつで構成されていて、言うなれば“作家病”を患っています(笑)。

P1200461 (2)

(ノートを指して)この画のまんまが頭の中にぽろろろっと見えてくるんです。新作の時はこういうノートが10冊くらいになりますね。降りてきた画を自分で解析して言葉にしていくんです。ダンスを作り始めた時からこのやり方です。…やはり病気を患ってますね(笑)。

 

熊谷:あと、育世さんは、踊る人を見ることで、幸せが沸き上がっているのが伝わってくるんですが、僕にはその感覚がない(笑)。でも、そんな幸せそうな育世さんを見ていると僕もエネルギーを受けるので、そこに魅力を感じます。

 

黒田P1200032 (2)

はい、踊る人を見るのが大好きです!自分が踊るのも大好きです!でも、自分が踊ってるのを映像で見るのはキツイですけどね(笑)。

 

 

不満をあえて解消しない。居場所を変える。

 

 

TDM : 黒田さんから共演者の皆さんに意思を伝える時に意識していることは?

 

黒田:丁寧に伝えることは心がけています。なるべく具体的に動きや流れを伝えるようにしていますが、できているかどうかはわかりませんが(笑)。ダンスに関することなので、どうしても説明が抽象的にならざるを得ないことも出てきます。でも、そこで抽象的な説明だけをしてしまうと「自分の努力が足りない!」と思います。“コンクリート”(具体的)に伝えることが重要ですね。

 

TDM : 観客に伝える作業として、意識していることは?

 

黒田:ダンサーには秘密の部分も言いますけど、観客にはそれが伝わる必要もないし、伝わってもいいかもしれないし、それを暴露しにかかる必要もないと思います。観客にはどう思って頂いても構いません。「ラストパイ」に関しても、自由に感じて頂ければと思っています。

 

TDM : 常にアウトプットし続けている皆さんですが、アウトプットが枯渇しないために、やっていること、工夫はありますか?

 

熊谷:「生きづらいな」と思うことをあえて解決しないようにしています。それを解決して、スムーズに生きてしまうと、何も作らなくなってしまうと思うから。不満をあえて解消しないようにしていますね。

 

黒田:確かに、日々に違和感がある方が、作品を作る時に、グリップが効きますよね。

 

菅原

P1200439 (2)

私は居場所を変えるようにしています。同じ場所に居続けると、同じ景色しか見えなくなって広がらなくなってしまうので、違うところを転々とします。住む場所もそうだし、環境を変えたり、持ってるものを捨てたり、無理やりチャンネルを変えたり。居心地が良くても悪くても、新たな自分のために変えます。「今ここに居たら、前の自分に慣れてしまうから、別の方にしよう」と、ジプシーのようにインスピレーションを求めて動きますね。

 

最近は、近くの酒屋でもらえる10円シールが 今3000円分くらい貯まっているんですが、それがいくらになったら引っ越そうかな~と考えながら集めるのが楽しいです(笑)。

 

黒田:私はトレーニングとバーレッスン。これができていれば、新鮮な気持ちで生み続けられます。身体さえちゃんとしていれば大丈夫!基礎、あるのみ!

 

 

それぞれの挑戦。ダンス公演は体力的限界のある芸術。

 

 

TDM:黒田さんはストリートダンスについてどんなイメージがありますか?

 

黒田:踊ったことはないんですが、見ることはあります。周りにストリートダンサーの友達はいっぱいいるんですが、皆さんヘルシー、健康的だなと思います。きちんと踊れるし、ちゃんとトレーニングを積んでいるイメージがあります。あと、私のような作家病を患ってる人はあまりいない感じがします(笑)。

 

TDM : 近年、セルフプロデュースの作品を発表している熊谷さんが、久しぶりの振付をもらってのご出演ということで、意気込みは?

 

熊谷

P1200383 (2)

毎回いろんなタイミングが必ずそのタイミングで来ると思うので、それを受け入れる、従うようにしています。数年、自分の好き勝手にやってきた中で、今はこんなにたくさんのカウントを覚えなくてはいけない状況に何か意味があるんだろうと思っています(笑)。あと、知ってはいたけど小春ちゃんと初共演できることにもきっと何かがある。絶対に僕と違うことをやるタイプだし、つまり、僕にできないことができる人だなとビシビシと感じながらリハーサルができていて、面白いです。小春ちゃんを始め、今回のメンバー皆さん真面目でちゃんと練習します。俺は今回を機に、普段の練習しない癖を直した方がいいのか、いや、あえてそのままでいるのか…今はまだわかりませんが、そういう違いをストレスなく感じているのが楽しいです。

 

TDM : 気になる共演者の方はいますか?

 

熊谷:ん~、みんな気になるんですよ(笑)。

 

黒田:今回12歳の出演者もいますし、最年長は50歳と幅広いです。大きい赤ちゃんと呼ばれている、奥山ばらばさんとか?

 

熊谷:あ~!ばらばさん!確かにばらばさんは気になるし、面白い方ですね。とても大きい方で迫力もあるんですが、ものすごく丁寧でやさしい方です。

 

TDM : 皆さんそれぞれが今回挑んでいることは??

 

熊谷:先ほども言ったように、これに呼ばれたということは、今の状況、つまり「ダンスをよく練習すること」が自分の課題だと思っています。最近は、自分の思うように踊れるかどうかが基準で踊っていましたし、なんなら、本番当日まで問い合わせ対応やケータリングのスープ作りまで自分でやってしまっているので、今回はちゃんと振付を練習して、本番に集中しろってことなんだと思っています (笑)。

 

菅原:私は振付を、カウントや音楽なしで踊ったことがあまりないので、それが挑戦です。今は無音でひたすら振付を入れ込まれていて、いつまでに目を閉じて踊れるようになれるのかを想像しながら、自分がこれまで通してきたことのない体の線を通さなきゃいけない苦渋と、まだ何も踊れていない自分との戦いを楽しんでいます(苦笑)。

 

黒田:課題は、キャスティングが完了した時に、ある程度クリアできたと思っています。今作品に関しても、何も心配をしていなくて、これだけいいダンサーが集まってくれていて、いい稽古を始められているので、もしいい作品にならなければそれはすべて私の責任だと思っています。

 

もしも課題が私にあるとするならば、最後まで作品を研ぎ澄ます作業はありますが、こういう作品が日本だと1度で終わってしまう。これはアーティストだけではなく、制作側も乗り越えなきゃいけない課題でもあると思いますが、そのもったいなさをいろんなセクションにアプローチしていかなくてはいけないなと思います。「ラストパイ」という作品は、あまりにも体力的に厳しい作品なので、3日間以上の公演は無理だと思います。ダンス公演は体力的な限界がある芸術なので、回数が増やせずどうしても動員数が広がりにくい。でも、これだけのキラキラしたプロダクションが仕上がりつつあるので、それを社会的にも一番幸せな形で世に出すにはどうすればいいのか、例えばツアーに行くとか、そういういろんな発展ができたら、ダンスがもっと浸透していくと思うし、その可能性を探っていくのが私の課題でもあると思います。

 

TDM : その課題はストリートダンスシーンにも共通していることだと思います。

 

 

違う世界を見てもっと違ったダンスの楽しみ方を見つけて。

 

TDM : では、最後に、このインタビューで本公演に興味を持ったストリートダンサーにメッセージを!

 

熊谷:先ほど育世さんがおっしゃっていたように、僕もストリートダンサーの皆さんの動きは健康的だと感じますし、好きです。今回の作品からのメッセージはいろいろありつつも、踊りという点では、僕がストリートダンスに感じるエネルギーと通ずるものになっていくと思います。きっと人が踊り続けていくと何かが浄化されていくエネルギーが生まれるから。小春ちゃんも言ったように、踊り的に体に通しづらいラインの違いはあるにせよ、放たれる熱みたいなものは、ジャンルに関係なく伝わると思うので、新しいものを見ているというよりは「あ、わかるわかる、その熱量!」と思ってもらえたらいいんじゃないかなと思います。

 

菅原:私が思うのは、ストリートダンサーの皆さんは同じ場所に居がちかなって。そこにいる人たちで、ずっとそこにとどまっちゃうことが多いと思うので、もう少しいろんなところに足を運んで、違う世界を見て、刺激と違う光と違う闇を見れば、もっと踊りの違う楽しみ方が見つけられるといいと思っています。私としてはもっとそういう挑戦者がいたら、もっとみんな楽しくなると思うので、その挑戦のためにも、ぜひ見に来て欲しいと思います。

 

黒田

P1200482 (2)

初演時も素晴らしいキャストの皆さんでお届けしましたが、振付はまったく変えていないので、今回初演を超えていけるのか!名作です!ぜひお越しください!!

 

 

TDM:本番を楽しみにしております!ありがとうございました!!

 

 [関連リンク]菅原小春ら出演。黒田育世『ラストパイ』~Dance New Air 2018~

interview  by imu
photo by AKIKO

’18/09/25 UPDATE

 

About the author / 

tokyodancemagazine

Related Posts

Post Tab

最新イベント