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ミュージカル「1789」特集 篠﨑勇己

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フランス・ミュージカル界のメガヒット作「1789 -バスティーユの恋人たち-」。2016年に帝国劇場で行われた初演では完売を記録し、2年のときを経て今春に行った再演も大成功を収めた。ストリートダンサーを起用し激しいダンスシーンやアクロバットが話題を呼んでいる本作のプロデューサー篠﨑勇己氏に、日本ミュージカル界の今、そしてミュージカル界におけるストリートダンサーの可能性を語ってもらった。

 

■関連リンク:ミュージカル「1789」特集|sho-ta.

 


 

  • 篠﨑勇己

    unnamed小劇場での脚本・演出で評価を受けた後、東宝株式会社演劇部でプロデューサーを務める。

    主なプロデュース作品は「1789 -バスティーユの恋人たち-」「エリザベート」「モーツァルト!」「マイ・フェア・レディ」「ダンス オブ ヴァンパイア」「ロンドン版 ショーシャンクの空に」など。

     


 

■今、日本のミュージカルシーンは過去最高に盛り上がっている!

 

TDM

早速ですが、今、日本のミュージカルシーンはどんな流れになっているのでしょう?

 

篠﨑

日本におけるミュージカルの歴史って、今年でちょうど55年なんです。55年前に「マイ・フェア・レディ」という作品を、初めて日本人が日本語で上演したのが始まりなんです。そこから考えると、今はその55年間の中で一番広がってる時期だと思います。今までは、ミュージカルといえば一部の人しか観ないジャンルだったと思うんですが、最近では、井上芳雄さんや山崎育三郎さん、三浦春馬さんや神田沙也加さんなど、影響力のある人たちが「ミュージカルってこんなに面白いんですよ」ということをどんどん発信してくれて、一般の方に広まっていってるので、かつてないくらい注目を集めていると思います。

 

TDM

その流れの中で、篠﨑さんの所属されている東宝ではどんな作品を手掛けているんですか?

 

篠﨑

オリジナルも作ってはいますが、「レ・ミゼラブル」や「ミス・サイゴン」のような世界的にも有名なものをやることが多いですね。あとは、「エリザベート」や「モーツァルト!」など、ウィーンで生まれたものを扱っているのも特長のひとつですね。

 

数としては、帝国劇場では年に4〜5本、シアタークリエで10本近くでしょうか。他の劇場でも上演したりしてますが、自社で劇場を持っているので、常に作品を作っていけるのは強みですね。その中で僕がプロデュースしたのは、最近では、4~5月は東京、6月は大阪、7月は福岡で行われる「1789 -バスティーユの恋人たち-」(以下、「1789」)をやって、同時に5~6月に「モーツアルト!」という作品です。

 

■ミュージカルプロデューサーという仕事

 

TDM

もともとミュージカルのプロデューサーになりたくてこの世界に入ったんですか?

 

篠﨑

それが、僕は自分が携わるまでミュージカルをほとんど観たことがなかったんですよ。どっちかっていうと、ミュージカルに対しては「なんでここで歌うんだ!」って思ういわゆるタモリ派だった(笑)。でも、気づいたらもう10年やってるという…不思議ですね。

 

TDM

ミュージカルプロデューサーとはどんなお仕事なのか教えてください。

 

篠﨑

P1120105「9割雑用」と答える人もいるし、「8割雑用」という人もいますけど、いずれにせよかなりの割合が雑用ですね(笑)。演出家、役者、照明さん、音響さんなどいろんなセクションがある中で、最初から最後まで作品に関わる人ってプロデューサーだけですからね。

 

仕事としては、キャスティング、スタッフィングは、最初の一番の山場かもしれないです。誰がやるのか、どういう人に演出してもらったらこの作品は一番いいのかということには神経を使いますね。でも、さまざまなケースがあるので、先に演出家が決まっていて、キャスティングやスタッフなどは演出家と話し合って決めたり、日本ではどうしてもキャストによるところが大きいので、キャストが先に決まっていて、その上で演出家を決めるパターンも多いですね。

 

あとは、わかりやすく言えば“作品をヒットさせる”ということが一番の仕事ですよね。作品も、芸術やエンターテインメントという側面もありつつ、結局は商品なので売れなければダメですから。

 

TDM

プロデューサーに問われるものってなんだと思いますか?作る側のイメージを持ってることなのか、組織構築なのか…。

 

篠﨑

本来であれば両方でしょうね。でもやっぱり舞台って、人がたくさんいる場所じゃないですか?そうすると稽古場や本番の楽屋まわりなど、いろんな場面で良い雰囲気を作っていくことが一番大事なんじゃないかと思うんですよね。単純に仲がいいだけじゃなく、ピリピリしてても、それが大事だということが皆で共有できていたり、そのカンパニーに合った空気を作るのが一番大切な仕事かなと思います。

 

TDM

ご自身で自分はどんなタイプのプロデューサーだと思いますか?

 

篠﨑

僕は、納得するまで細かい部分にもこだわるタイプですね。ビジュアルを作るときも、デザイナーさんに全てお任せ、ということはしない。どうしたいっていう意見は必ず言いますし、作品のキャッチコピーも考えますし。お金に関してもかなり細かく計算しますが、途中まで行くと「もういっかな」って、なっちゃいます(笑)。例えば、セットや照明などの予算を細かく考え抜いていても、「今回こういうセットでこういう演出がしたい」というような意見が固まってくると、そこで細かいお金のことを言ってもしょうがないというか、これでお客さんが入ればいいんじゃん?っていうタイプです(笑)。

 

TDM

演出家との相性もあったりします?

 

篠﨑

いや、そこはないですね。逆に、僕らはそこに相性を持ってちゃいけないと思ってます。ただ、この演出家はこういうタイプの演出家というのはわかってるので、やる前からどういう流れになるかはある程度予想して入ります。

 

いいスタッフがついたらあとは委ねるという演出家もいるし、ご自身で指名したスタッフさんに対しても「そんなにダメ出しする!?」と思うくらいダメ出しする方もいたり、皆さん役者以上に個性があって、さまざまなタイプの演出家がいますからね。

 

TDM

その中で、この人はすごい!と思う演出家はいますか?

 

篠﨑

P1120107「1789」や「モーツアルト!」の演出家の小池修一郎さんはすごく尊敬してます。まず、妥協をしない!当たり前といえば当たり前なんですけど、でもやはり、「スタッフや役者がここまでかんばってきてこれ以上言うのは忍びないな」というラインがあると思うんですよね。そこでも絶対に妥協しない。それが土壇場だろうが関係ないので、正直「今か!」と、言われる側はたまったもんじゃないと思いますが(笑)、そこには筋の通った理由があるし、実際、直すと誰が見ても良くなってるんです。きっと小池さんって、見えてるものが人と違うんだと思うんですよね。衣裳やセット、役者が舞台に立ったときの見え方や美しさの創り上げ方が日本の演出家の中でも抜きん出ていますね。それに加えて、どうやったらお客さんがワッとなるか、楽しいと思うかということに常に神経を注いでいる方ですね。

 

TDM

小池さんとのお仕事で、印象に残っているエピソードはありますか?

 

篠﨑

2015年に「エリザベート」という作品を新しく上演するときの話なんですが、「エリザベート」は、19世紀のオーストリアの皇后が黄泉の帝王・トートに魅入られてやがては死の世界に連れて行かれるという、“死”がテーマの作品なんですけど、何度か打ち合わせを重ねてきて、稽古の1カ月前の最終的なセット打合せで、舞台上に大きな棺を1つ作り、それが前に出てきたり、回転したりすることでシーンを作っていこうということが決まり、そこから一晩かけて、物語の冒頭からシーンひとつひとつシミュレーションしていき、明け方にやっと全ての演出が決まったんです。そして数時間後、小池さんとお互い寝不足の状態で会ったときに開口一番「ごめん!昨日の時間全部ムダになる!棺3つ!」って言ったんです。まさに「えーー!!いまさら!? 」ですよ!そんな、出前頼むかのような軽さで「棺3つ!」って!(笑)。

 

当然プランだけじゃなく費用も変わってくるので、もちろん抵抗はしましたけど、でも「3つじゃないとできない」とおっしゃっるので…(笑)。で、結局3つの棺の「エリザベート」という作品ができ上がったんですけど、まあ…素晴らしい作品になったなと!なるほど、これは棺が1つと3つじゃ大違いだなと。やはり天才だなと思いました。

 

■フランスのミュージカルと他のミュージカルとの違い

 

TDM

「1789」は、他のミュージカルとどんな違いがあるんですか?

 

 

篠﨑

フランスのミュージカルというのが一番大きい違いですね。「マイ・フェア・レディ」や「屋根の上のバイオリン弾き」など、ブロードウェイや、ロンドンのウェストエンドなどメインストリームからやってきたミュージカル等とは、フランスの、特に近年のものは大きく違っています。

 

そもそもフランスでは「1789」をミュージカルとは呼ばず、“ル・スペクタクル”と言っていて、いわゆるスペクタクル(視覚的に強い印象を与える大掛かりなもの)なので、ショーに近い感覚なんです。

 

通常ミュージカルは、作品のために曲があるんですけど、フランスは逆で、劇中の曲が1年くらい前からCDでリリースされて、どんどんチャートに出てくるんですよ。だから、観客は劇場に来たときには曲を知ってるので、イントロがかかれば「フォー!」って盛り上がる。「マンマ・ミーア!」みたいにABBAの既存のヒット曲を使ったような作品もありますけど、曲を先にCDで出すやり方はフランスだけじゃないですかね。

 

そして、フランスだと、歌は歌の人、踊りは踊りの人、芝居は芝居の人、と分かれてるんですよ。もちろん主役の人は全部やりますが、1曲バーンと歌って、次はお芝居のシーンへ、次は踊りのシーンへという感じで、ひとつひとつのシーンがショーアップされたものになっているんです。だから、踊るのはアンサンブルというよりは“踊りが秀でているダンサー”なので、ダンスのシーンはめちゃくちゃかっこいいんです。ブロードウェイなどで観るより振付は斬新だし見せ方も面白い。

 

TDM

そのやり方は日本では主流にならないんですか!?

 

篠﨑

今回の「1789」もそうですが、見せ方としてダンサーと分けるというのは増えてきているかもしれないです。でも、今回はもともとそういう作りだからできてますけど、他の作品では最初から踊りだけみせるような作りにはなってないので、今のところいわゆる「歌って踊れる人」が出るミュージカルが主流ですけど、こういう見せ方がかっこいいと、皆思ってきてるので、今後増えていくのではないでしょうか。

 

■ミュージカル×ストリートダンサーの可能性を探っていきたい

 

TDM

今回「1789」に出演しているダンサーたちの成長は感じましたか?

 

篠﨑

思わず「いいね!芝居いいじゃん!」と声かけちゃうくらい感じました。sho-ta.(髙橋翔太)なんかは、昔「ロミオとジュリエット」で一緒だったときから、自分なりにいろいろ考えてお芝居を作っていくタイプだとは思っていましたが、今回もしっかり考えて驚くほど上手にやってるなと思いました。

 

TDM

BUZZER BEATERメンバーとしてストリートシーンでも活躍しているsho-ta.が、クランプをやるシーンで、初演のときは一番目立って見えたけど、今回は全体が一致団結した絵になっていて感動したんです。公演後、「ミュージカルの何が一番楽しい?」と聞いたら、「至らないところも補い合って創り合っていく作業が一番楽しいです」と言っていて、彼のスタンスはストリートダンサーの中でも成立していくのではないかと思いました。

 

篠﨑

「1789」は、クラブで踊ってるようなダンサーの子たちがミュージカルに出るという新鮮さがありましたよね。でも、彼らにとって、お昼に稽古場に来てまずは発声練習してみたいなことは違和感がある世界じゃないかなって思ってたんですよ。でも、稽古にしろ本番にしろとても真剣で、絶対手を抜かないし、誰かが死ぬシーンでダンサーの女の子がボロボロ泣いてたりするのを見ると、すごくいい取り組み方をしてるなって思うんです。その子たちから「もっとミュージカルに出たいです」と言われて「え、そうなの!? 」と、びっくりした半面、すごく嬉しかったですね。

 

TDM

今回、sho-ta.は、ミュージカルダンサーとしてではなくストリートダンサーのままでかっこよく舞台に居てくれていた。彼のように、ストリートダンサーがストリートダンサーとしてかっこいいまま活躍してもらいたい、その突破口に「1789」がなって欲しいと思いました。

 

篠﨑

P1120102僕も、もっとそういうのを作っていきたいなと思います。今、ストリートダンスとミュージカル的なもののコラボレーションができないかなって思ってるんですよ。つまり、「1789」のようなテイストのものが作られてきてるとはいえ、ストリートとミュージカルってジャンルとしてはちょっと隔たりがあるので、その間のものが作れないかなと。ミュージカルでもなくて、ダンスのショーでもない、その間のもの。

 

TDM

ぜひ作ってください!今、日本のストリートダンスシーンは世界でもトップレベルなのに、日本ではダンサーの受け皿が少ないので、もっといろいろな個性を持ったダンサーがメインをはる場所があってもいいと思うんです。

 

篠﨑

そうですね。せっかくですし、そういう作品を作る目標を持って動き出してもいいかもしれないですね。

 

TDM

最後に、ミュージカルを知らないストリートダンサーに向けて一言お願いします。

 

篠﨑

ダンスが好きで、とにかくダンスが上手くなりたいとがんばっていると思うんですけど、ミュージカルも、そのダンスとまったく切り離したジャンルではないわけで、例えば、ジャズダンスの一流の人が出ていたり、振付なども何かプラスになる要素が絶対あると思うんです。そうじゃなくても、観てみたらやっぱり面白いなと思える要素が必ずあると思うので、まずは1回でも観に行って欲しい。

 

あとは、今どの作品もPVをYouTubeなどにアップしてるんで、それでいろいろ見てみるとミュージカルに対してイメージが変わるかもしれない。とにかく、視野を広げて、興味を持ってくれたら嬉しいですね。僕も、ダンサーたちと一緒にやれることをもっと増やしていけたらなと思います!

 

TDM

ぜひ、そのプロジェクトを実現して欲しいと思います!本日はありがとうございました!

 

 

interview & photo by AKIKO
edit by Yuri Aoyagi
’18/07/04 UPDATE

■関連リンク:「1789 -バスティーユの恋人たち-」公式サイト
■関連リンク:ミュージカル「1789」特集 sho-ta.

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