エンタテイメントの聖地・ラスベガスで活躍する3人の日本人パフォーマーに出会った。シルク・ドゥ・ソレイユに代表される巨大な特設ステージから、身体一つでチャレンジできる小劇場まで、パフォーマーの在り方は様々。彼らの意識やこれまでの軌跡、取り巻く環境をお伝えすることで、パフォーマンスや舞台作りのお役に立てればこれ幸い。
1人目は、世界で活動する面白い日本人パフォーマーとして、ご紹介頂いたボーイレスク(男性版バーレスクダンサー)UmA ShAdow。人の真似をしないで自分のど真ん中の感性を表現することは難しい。けれど、彼はどんな環境であってもエネルギーと大きな愛で自分の道を切り開いてきた。自分の表現を見た人に感動を与え続けていくこともまた試練。パフォーマーとしての生き様をいろんな角度から漂わしてくれた逸材に出会うことが出来た。
- UmA ShAdow
2015年8月、ボーイレスクダンサーとしてデビュー。デビュー直後から、数々のバーレスクフェスに出場、コンペティションファイナリストにノミネートされる。翌9月にEdmonton Burlesque Festival 2015にて初のアジア人として優勝、並びにベストコスチューム賞のW受賞を果たす。アジア人男性初の快挙、デビューして最短記録の受賞を果たす。2017年、イギリスにて行われた、World Burlesque Games にて、見事ワールドチャンピオンに輝く。同大会にてアジア人が、また、男女混合になってから男性が World Crown に輝く事は、World Burlesque Games 史上初の快挙である。その後も、男性&アジア人パフォーマーとして、さまざまなバーレスクの大会で好成績を収め、2017年から、バーレスクフェスティバル等、コンペティションのジャッジを務める。また、カンパニーダンサーとして、アメリカやヨーロッパのダンスカンパニーにてバレエ、コンテンポラリー,ミュージカルダンサーとして舞台に立つ。アメリカ、ヨーロッパなどの様々な劇場や、インターナショナルフェスティバルに出演。2005年ラスベガスで行われたミュージックアワードでは、バックダンサーとして出演。Miss International Queen 2007では、日本代表の振付、衣装、パフォーマンスプロデュースを手がけ、パフォーマンス部門で2位に輝いた。
http://umashadow.com
■欧米でバックダンサー、バレエダンサーを経た、バーレスクダンサー。
TDM | : | 現在の活動状況について教えてください。 |
UmA ShAdow | : |
最初は日本で、プロダクションに所属し、バックダンサーの仕事をしていました。その後、アメリカへ渡り、バレエ学校を卒業して、数年間アメリカのバレエ団にて活動後、拠点をヨーロッパへ移し、オペラハウスなどで踊っていました。再び活動拠点をアメリカへ移し、現在はバーレスクの世界にいます。 |
TDM | : |
ダンスの世界に入ったきっかけは? |
UmA ShAdow | : |
ピースボートという世界をめぐる船旅に申し込んで、そこでスタッフをやっていたんです。ある時、国連はユネスコが提唱する平和宣言に賛同してくれる1億人の署名を、世界中から集める活動があり、その為には、最初は各国の言葉を覚えて伝えていたんですが、どうもうまく伝わりませんでした。そこで、世界に共通している音楽と身体表現という意味でのダンスならどの国にもあるだろうと、スタッフ同士でダンスチームを作ってメッセージを伝えることになりました。それがダンスのきっかけです。 |
TDM | : |
ダンサーを志していたわけではないんですね。 |
UmA ShAdow | : |
はい。日本でダンスだけで生きていくのはかなり難しいと感じていました。仕事としても長くは続けられるものではないと。プロダクションの専属になっても、それ以外の仕事が受けられないなどの制約も出てきてしまう。ピースボートの後、アメリカに学生ビザで行って最初は音楽を学ぼうと思っていたんですが、周りにダンサーの知り合いが増えていき、「バックダンサーをやってみない?」と誘われたのがきっかけで、少しずつダンスの方にシフトしていきました。当時、ダンスの場合クラシックの方がビザを取りやすい現実がありました。バレエカンパニーに所属していたので、アーティストビザを取ることが出来ました。ヨーロッパからアメリカに流れてくるバレエダンサーは多いんですが、逆にアメリカからヨーロッパに行く人はなかなかいなかったので、「誰もいないなら自分がやろう!」と反骨精神でヨーロッパでの活動に挑みたいと思い、興味のあるカンパニーにプロフィールとDVDを送りました。
そのうちの一つのカンパニーに合格して、ポーランドに行くことになります |
TDM | : |
すごい展開ですね…(笑)。 |
UmA ShAdow | : |
そうですよね(笑)。さらにいろいろ展開していくこになるんですが…。ポーランドに行く前の年にニューヨークで嫁と出会います。彼女は日本人で、日本やニューヨークでバーレスクやキャバレーのオーガナイザーをしていました。なので一時、離れ離れになったんですが、翌年結婚しようとなった時に、相手のご両親に「結果を残してほしい」と言われて、日本に帰り、いくつかオーディションを受けた結果、ショーレストランの六本木金魚に出演することになりました。それから1年半くらい経った頃、ヨーロッパでカンパニーのオーディションを受けていた時に覚えてくれていたディレクターから連絡があり、チェコのオペラハウスにバレエダンサーとして行くことになりました。 |
■デビューまでに6年。「彼らに泥を塗るようなことはやっちゃいけない。」
TDM | : | それから現在のバーレスクにどう至るのですか? |
UmA ShAdow | : |
嫁がバーレスクイベントのオーガナイザーをやっていたので、出会った頃からずっと興味はありました。やってみたいと思った時に、嫁から、「バーレスクはとても歴史があるものだから、過去の歴史やレジェンドたちのことを知って、ティーズについてなどいろいろ勉強するように。彼らに泥を塗るようなことはやっちゃいけない。」と言われ、その後、いろいろ学んでいき、デビューまでに6年かかりました。学んでみて初めて分かったんですが、言われた通り、結構奥が深かった。例えば、地域によってバーレスクは違うんです。アメリカはギャグやコメディを取り入れているものが受けています。もともとバーレスクには“茶化す”という意味も含まれているので、その色が強いですね。ヨーロッパはもっと芸術的観点が強くて、一つの作品として行われているものが多いイメージです。アメリカとヨーロッパの中間にあるようなバーレスクをやっているのはカナダです。日本は世界と比べると全く違います。一つは、世界は短い時間ですべてを見せなきゃいけないですが、日本は12~13分も使うので、作りやすい。もう一つは、日本は性に対して独特な考えを持っていて、オープンではない分、ダークなイメージを持たれやすいこと。たしかにバーレスクにはストリッパーの要素も根底に入っているので、決して間違いではないし、それはそれで日本独特の文化として素晴らしいと思いますが、背景が違うということも6年の中で知りました。
そして、日本人でも世界で活躍している方がいます。エロチカ・バンブーさんはドイツで活躍されている日本人で、様々な面でとてもお世話になっています。そういういろんなレジェンドの方たちが作ってきた歴史のおかげで今の流れがあることを聞いたり学んだりする為と、自分の色を追求するのに6年かかりました。 |
■3年以内に結果を出す!
TDM | : |
現在のバーレスクダンサーとしての活動は奥様の影響が大きいんですね。 |
UmA ShAdow | : |
そうですね。彼女はバーレスクを「脱いで笑わせられればそれでいい」ではなく、一つの作品という認識なので、その影響をすごく受けています。なので、先人が作ってきたものを崩さずに自分の色を出すということがテーマにあって、それがなかなか難しい部分でもありました。私は一切、コメディはしません。もちろん、コメディ色が強いバーレスクダンサーで素晴らしい方も沢山います。でも、自分の色だけで世界に通用する作品をやっていくことに拘っています。その為の音の取り方や、見せ方、タイミングを細かく指示されることもあります。世界大会などで受賞すると、他にはないものになっていると実感できますし、自分の力だけではここまでやれなかったなと思います。 |
TDM | : |
バーレスクの大会はどんなルールなんですか? |
UmA ShAdow | : |
世界中であるんですが、主要なバーレスクの大会の実技は4~5分です。今の自分の目標は、ある世界の2大大会でボーイレスクダンサーとして優勝することです。その2つのうちの一つが、ヨーロッパ最大級のバーレスクのコンペティション「World Burlesque Games」での優勝だったんですが、それは昨年獲ることが出来ました! |
TDM | : |
おめでとうございます! |
UmA ShAdow | : |
ありがとうございます!でも、嫁からは「コンペティションの為に作品を作っているわけではないから本当は出てほしくない。」と言われていました。だけど、自分がやってきたことに関して、どんな評価を下されるのかを知りたいし、認められた一つの足跡として結果を残したい。日本人でもここまで行けるということを知ってほしかったのもあります。後は、タイトルを取ると子供が自分も頑張ろう、トロフィーやメダルを取りたい!と、プラスの力になるんです。やっぱり続けることさえ難しいし、死ぬまでに結果が出ないこともある。でも、諦めないことの大切さを少しでも子供たちに伝えられたらいいなと思って挑んでいます。自分はバーレスクでデビューしてから3年以内に結果を出すと決めていました。なぜなら、10年、15年も結果出さずにだらだら続けていて「そういえば、あなた、いたわね」と10年後に自分は言われたくない(笑)。中途半端な気持ちではやっていないから。だから、最初の段階で結果を残して、「あの時のあなたですね」と言われるような土台作りをする為に3年以内に結果を出すと設定しました。
今、デビューして2年半になります。3年目以降は出るコンペティションを選んでいくと思うし、これまでのUmA ShAdowをベースに違うものにもトライして行きたいという目標もあるので、今のうちに取れるタイトルは取りたいですね。 |
TDM | : | 奥様がバーレスクイベントのプロデューサーとしていろんなことを伝えてくれる中で、印象的なことは何ですか?? |
UmA ShAdow | : |
彼女から教わることは本当に多いので、一つに絞るのは難しいですが、人の真似をしないこと。良い部分を参考にする、という意味とは全く違い、メイクや衣装や演目をそのまんま真似する人が結構多いんです(笑)。別の国の大会でやっていたら、ばれないと思っているのか知らないんですけど。だから、逆にどうやったって人が真似を出来ないことをやる、という作戦でやってます。 |
TDM | : |
その為に意識していることはありますか? |
UmA ShAdow | : |
自分はアジア人なので、それを生かしています。マイノリティが嫌いな人たちは存在するので、時には嫌な思いをしたこともありますが、今バーレスクの世界では、日本人でここまでタイトルを取っている人はいないので、逆にチャンスだと思っています。同じような人たちがいたら埋もれてしまいますが幸い、今はいないし、知られていくと、イメージが勝手に動いてくれる。作品には、日本の文化背景やメイクや音楽を取り入れることで、誰もここまでの発想は出来ないだろうというものを作ります。なので、初めてデビューした頃は、会場が静まり返ることもありました(笑)。 |
■自分が苦労していることは、将来はプラスに変える。
UmA ShAdow | : |
今までいろんな表現をしてきましたが、やっている時はそれが自分のど真ん中のもの。いろんな人と出会う中でどんどんシフトチェンジしていきました。そして、今やっているバーレスクの魅力は、終わりがないこと。例えば、振りを与えられたら終わりではなく、やろうと思えばどんどん新しいネタが生まれていく。また、お客様との距離感が大切です。離れすぎてはいけない。バーレスクにはティーズ(じらす)という行為が大変重要な部分。脱いでも脱いでも服を着ているとか、なかなか脱がないとか。ストリッパーとの違いはそこですね。裸を見にくるお客さんに見せるヌードではなく、局部を出さない“美”。
もちろん、壁にぶつかることもあります。曲を決めて、イメージを作って、振付を作るのがほぼ嫁の仕事なんです。その振付をもらって、自分でクリエイトして、見てもらいながら完成させていき、衣装を作るのは自分の仕事です。衣装づくりの知識もないのに見様見真似で(笑)。 |
TDM | : |
今の仕事のメインは? |
UmA ShAdow | : |
ショーはバーレスクがメインですが、年末や春夏にはバレエのイベントが増えるので、各地の劇団に客演で参加する時もあります。 |
TDM | : |
今から3年後の展望はありますか? |
UmA ShAdow | : |
世界を舞台に日本人男性でやっているボーイレスクを聞いたことがないので、彼らが世界でやってみたくなった時に、動きやすくなるような状況を作れていたらいいですね。女性だけのバーレスクの大会で、ボーイレスクが優勝するのはなかなか難しい中で、それでもやっていかなくてはいけない。そして、やれるんだってことを証明して行けたらと思います。現在、自分がいろいろ苦労していることを、将来はプラスに変えられますし、さらに彼ら、後輩の為に何かを残せるようないい連鎖が作れたらいいですね。その創成期が自分の段階だと思うので、3年、4年、5年後に次の世代の子たちがクリエイトしていけるといいですね。 |
TDM | : |
最後に読者にメッセージをお願いします! |
UmA ShAdow | : |
これだ!って決めたことは、絶対に辞めないこと。続けることが大切です。辞めることは簡単なので、好きだと思ったら最後まで続けてほしい。いろんな状況があると思いますが、気持ちで辞めたと思わなければ終わりじゃないから。 |
TDM | : | ありがとうございました! |
→関連リンク:[PEOPLE]ラスベガス特集第2弾 Yasu Yoshikawa
interview by AKIKO
’18/04/11 UPDATE
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