ストリートダンサーの変貌は計り知れない可能性がある!東京都の公立中学校教員にして、東京学芸大こども未来研究所の学術フェローにして、ダンサーであるKAZU☆岡本。2000年代にS.O.Dのメンバーとしてストリートダンスシーンで活躍していた彼は、アカデミックな視点でダンスを見つめ、教員になった今、先生たちのダンスサークルDANCE X‟cross”を主宰するなど、ダンサーの立場から教育現場の現状をソリューションするためにさまざまなチャレンジをしている革命児だ。中学校でダンスが必修化されてから久しい今、リアルな学校という場に身を置く彼が捉える実情や試みについて話を聞いた。
・KAZU☆岡本(岡本和隆)
ダンサーとしてダンスショーや振付などで活躍したのち、東京都の中学校教員となる。中学校教員として全国学校体育研究大会東京大会などでダンス授業実践の研究発表をする。全国小・中学校リズムダンスふれあいコンクールで文部科学大臣賞を受賞。最近では、運動会の演目の組体操に変わる「組んでも危なくない『組ダンス』」を提案している。また、東京学芸大こども未来研究所の学術フェローでもあり、「現代的なリズムのダンスI・II」(DVD)の制作監修やダンス教育アドバイザーなどを行っている。更に、幼稚園、保育園、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校、大学などの先生のためのダンスサークル[DANCE X”cross”] を立ち上げるなど、ダンス教育の普及活動を精力的に行っている。
Instagram:@Kazu_okamoto
Facebook:@Kazutaka Okamoto
■神楽の世界に魅了された幼少時代
TDM:そもそもストリートダンスを始めたきっかけは?
KAZU:実は興味を持ったのはお祭りがきっかけなんです。僕が住んでいた地域(広島出身)では、神社の境内で神楽が盛んに行われていました。小さな頃は神楽に見入っちゃって迷子になって親に心配かけたくらい夢中で見ていました。神楽そのものというより、舞台上の日常にない世界で、表現する人と見る人が一緒になっているエンターテインメント性に惹かれていたような気がします。それが、僕の記憶の中では、音楽や芸術、表現などの世界を好きになったスタートですね。
TDM:実際にダンスを始めたのはいつ頃ですか?
KAZU:本格的に始めたのは大学からですが、音楽がすごく好きで、小学生の頃からHIP HOPを聴いていていました。小学校の頃校内放送で皆が当時はやりのJ-POPをリクエストする中、友達の中にHIP HOP好きがいると知り、その友達とリクエストしていました。当時、意味など解らず聴いてた歌詞は、後から知ったらすごい内容でしたけど(笑)。
でもダンスは、周りに環境もなくて、なかなかやる機会がなかったんです。中学生の時に、NHKの「熱中ホビー百科」という、いろいろな趣味を初心者がプロから習うという番組の中でダンスの回があって、SAMさんにダンスを習ってN.Y.でショーをするという企画があり、それを録画して「やっと習えた!」と思ってずっと真似して練習していました。この事はSAMさんご本人にお会いした時に伝えたんですが、SAMさんもその番組を憶えていて嬉しかったですね。
TDM:そこから本格的にダンスを始めたんですか?
KAZU:中学生の頃もダンスを習っていませんでした。その頃の僕はスポーツにはいろいろ種類があるから、たくさんのスポーツに触れたいと思っていました。ただ、当時の運動に対する考え方は「1つのことを極めるのが大切」と捉えられていたように思います。また、当時の運動指導は高圧的な指導が多く「好きな事なのになんでこんなに怒られるんだろう」というのも疑問でしたね。そんな思いでいる中、高校のバスケ部で、それを認めてくれる根性論ではない先生と出会ったんです。その先生の下で不思議とバスケもどんどん上手くなっていきました。そして、その信頼する先生から〝スポーツ心理学〟という世界がある事を教えてもらい、学んでみたいと思って勉強を始めて、東京学芸大学に進学しました。
■ダンスチームS.O.Dとしてクラブシーンで活躍
TDM:ダンスではなくバスケが専門だったんですね。
KAZU:センター試験を受け、二次試験は実技でバスケを選択して受験しました。でも、入学後背の低い僕が大学で勝負するだけのモチベーションはあるのか自問自答していました。そこで、バスケの何が好きだったかを考えると〝仲間とパスがリズムよく繋がってゴールが決まるところ〟だったり、Chicago Bullsの全盛期に見た〝HIP HOPの音楽に乗せたファインプレー集の映像がめちゃめちゃカッコよかったところ〟だったりして「音楽(リズム)と身体の動きがマッチする事が好きなのかも」と気付いたんです。そこに〝お客さんが一緒になって湧く〟という要素も、先程の神楽の話に繋がって「これはダンスだ!」と思って、ダンスを始めてみたんです。
そこで、先程話に出た小学校の時に共にHIPHOP好きだった友人が、実は高校時代からダンサーとして活動していて、いつか上京して活動したいと言っていたので、「毎日練習した内容を報告するから、僕が上手くなったらチーム組んで欲しい」とお願いしてしました。本当に毎日休むことなく携帯のメールでその日やった練習内容を送り合って、1年後東京で「和武士」というチームを組みました。
TDM:ダンサーとして活動をしていくんですね。
KAZU:はい。だんだん「クラブシーンでもっと目立てるようになりたい」とダンスにのめり込んでいましたね。当時、youtube等参考にできる資料が少なくて、クラブのDJタイムでカッコイイダンサーさんが踊っているのを隣で凝視して、身体の動きの特徴を憶えてトイレに行ってメモしたりしていました(笑)。それから大学院の進学で活動を休止したり、UPPER EASTといったチームを組んだりして、最終的に仲間とPRE MAIN STREETに挑戦する事をきっかけにS.O.D.というチームを組んで活動してたんですけど、僕は途中で、学校教育の世界でやっていきたいという志が出てきて抜ける事にしました。今ではそれぞれの道で活躍していますがメンバーは応援してくれていると思っています。また、S.O.D. がMAIN STREETに出た時は本当に嬉しかったです。
S.O.D.時代
■学校現場に実践者として入っていく事が必要だと思った
TDM:学校の先生になる道を選んだきっかけは?
KAZU:教育大である東京学芸大学で、スポーツ社会学にも興味が出てきて、まず〝遊び〟という概念が面白いなと思い始めたんです。
大学でプレイ論という考え方に出会いました。元々スポーツは、ラテン語の「deportare」に由来するそうです。「deportare」は運び去る、運搬するという意味から「気分を転じさせる」「気を晴らす」といった精神的な次元での「移動」「転換」に変化していきました。この「deportare」がフランス語の「気分を転じる、楽しませる、遊ぶ」という意味の「depoter」「desporter」となり、16世紀、英語における同義の「disport」「sporte」「sport」となったそうです。
つまりスポーツはその語源から見ていくと、遊ぶという意味でも使われていたことがわかります。
そのことを知って、やっぱり「スポーツで指導者から一方的に高圧的な指導を受けるのはおかしい」という思いが晴れたんです。元々スポーツは遊びで楽しいものなのに指導になると遊びの要素が薄れる事がある。でも、ダンスの世界は〝遊び〟がすごくある気がしたんです。ちょうどその頃、「10年後にダンスが中学校で必修化になるかも」という話も聞いていました。そこで、〝遊び〟をベースにダンスというものの学習内容を整理したいと思いました。また、それと同時に学校現場に自分が実践者として入っていく事が必要なんじゃないかと勝手に使命感に燃えちゃったんです。
TDM:なるほど。では〝ダンス〟と〝教員になる〟という事は、セパレートされていたわけではなくダンスを普及するために教員になったという事ですか?
KAZU:そうですね。もうちょっと広くいうと、遊び心とか、僕がお祭りで感じた世界みたいなものを学校現場でも伝えられないかなと思って。
〝遊び〟を「〇〇を身に付けるために」とか「〇〇に役に立つ」といった捉え方に対し、「遊びは、〇〇のためじゃなくて、それ自体が目的なのではないか」という捉え方を知って、僕は「面白いから学ぶ」というのが学びの本質だと思うようになり、そういう捉え方を学校現場に活かしたいと思いました。
TDM:それが教員になる動機だったんですね。
KAZU:もう1つ、学校現場に〝遊び〟を活かしたいと思った理由があるんです。そもそも〝遊び〟の成り立ちには3つ条件があるといわれていて、1つ目の条件は〝間がある事〟。例えばシーソーは、乗る場所の両端の右と左には間がある。2つ目は、その間を動く事。3つ目は、遊んでいる人たちが「これは遊びだ」と、お互いが了解し合っている遊戯関係だという事。
この成り立ちからみると、今の学校には遊びが少なくなってきていると思うからです。
TDM:遊びが無くなっている原因は何だと思いますか?
KAZU:これはあくまでも個人的な意見ですが、ある意味、学校がなんでも引き受けてきたという事もあるかもしれないですね。例えば、小学校で英語教育とか、それこそ10年前はダンス必修化とか、○○教育というのが時代によって追加されています。その一方で削られることは少なく、現場の負担は増えていくのに学校現場の対応が追いつかない状況です。子供たちを取り巻く環境の変化も激しく、問題が多様化しているなどいろいろ問題があると思いますね。
僕はこういった中で、閉塞感を感じるようになりました。周りの先生に聞いてみると同じように閉塞感を感じられていたり、病気で休まれている先生が多いことに気が付きました。その当時調べてみても、心の病で休職せざる負えなくなった先生はこの10年で3倍にもなっていたんです。僕はその閉塞感を溶かしたい。そこに情熱があります。僕は自分の関わる仲間が大好きなってしまうタイプです。仲間がまずハッピーになれる事を考えてしまいます。生徒たちももちろん大切ですが、その子供たちにある意味親よりも長い時間関わる先生たちは、やっぱり元気な方がいい。「先生たちが元気である事で、その先にいる子供たちも元気になってもらいたい」という思いから、先生たちのダンスサークルDANCE X“cross”を立ち上げたんです。
■先生たちのダンスサークルDANCE X “cross”
TDM:DANCE X“cross”はいつから始めたんですか?
KAZU:2014年からです。最初、中学校のダンス必修化の時に、先生たちが「教え方が分からない」となって、研修会がたくさん行われた時期があるんです。僕も講師として研修を行ったら、皆さんメモをとったり勉強会みたいになっちゃったんです。これはちょっと違うな…と、「まず踊ろうよ!」と思って、先生のダンスサークルを立ち上げました。まずは実際に踊る事と、僕のように閉塞感を感じている先生たちが、踊って生き生きしてる姿を世の中に発信する事も意味があるのかなと思って始めました。始めた頃は10数名でしたが、徐々に増えていって今は200名くらい在籍しています。
TDM:普段はどんなスタイルで活動しているんですか?
KAZU:最初はメンバーが所属している大学や高校の体育館で練習したり、今は、コロナで冬眠中ですが、それまでは西早稲田のレンタルスタジオを拠点に月1で練習していました。そして、X〝cross〟は交流という意味なので、夏に年1回プロダンサーからダンスを教わって交流する『先生〜ション』というイベントをやったり、舞台で踊る機会があれば希望者を募って出たりしています。先生たちは、やはり教え合いがすごく上手で、自分たちであーでもないこーでもないとやってくださるんで助かります。
DANCE X〝cross〟練習風景
TDM:メンバーはどんな方がいらっしゃるんですか?
KAZU:対象は、保育園、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校、専門学校、大学といった、教育に携わるさまざまな先生です。そこもいろいろミックスした方が学びが生まれるかなと思ったので、本当にいろいろな教科の先生がいらっしゃいますね。僕らのショーは必ずMCをつけるんですけど、一番湧くのは、ソロの時に「○○中学校、理科の○○先生~」と、紹介する時なんです(笑)。僕も生活指導主任やっていたとき、それを言うと湧きましたね(笑)。
TDM:サークルを運営していて大変だった事は何ですか?
KAZU:一つ起こった事件は…その中で結婚するカップルが現れた事です!(笑)。大変だった事は、広げていくのか、コアなメンバーで深めていくのか悩んだ事ですね。利益を追求してるわけではないので、これはとても難しい判断でした。さらにいうと、運営メンバーは全員学校の先生で、多忙ですしね。でも最近では、「交流によって先生が元気になる場を作り、それによって、その先にいる子供たちも明るくなって欲しいという思いを大切にし、今いるメンバーでできることをやる」と肩の力が抜けてきたように思います。
SSDW 2019にて。代々木公園の野外ステージでDANCE X〝cross〟総勢50名でのパフォーマンス。
■生涯ダンサーでいる覚悟。自分しか出来ない事をやってみたい
TDM:KAZUさんの中で、ダンスは辞める辞めないというものではなくライフスタイルの中の一つなんですね。
KAZU:そうです。僕はクラブシーンから離れる時のブログに「生涯ダンサーでいる覚悟をしました」と書いているんです。「その当時のチームメンバーとの立場や今までと踊る場は変わるけど、僕は踊り続けて、豊かな生活を送りたい」とあって、その気持ちは今でも変わっていません。僕はずっとダンサーだし、学校教育の世界で自分しか出来ない事をダンサーの立場でやってみたいと思っているんです。
僕は〝硬直したものを溶かす〟みたいな事が好きなので、そういう意味では、今やっている事にやりがいはめちゃめちゃあります。遊びの考え方の中に「遊びとは、緊張を解こうとする努力である」とあるんです。だからこのコロナ禍も一つの緊張だと思うので、今は、コロナで緊張した世の中を緩める事に対して自分がどうやって貢献していけるかを考えています。
TDM:何か具体的に活動している事ありますか?
KAZU:自粛期間で、運動不足になったり、親子の関係がギクシャクしちゃってる人に向けて、オンラインの配信で何か出来ないかなと思って、誰もが知っている曲に合わせたラジオ体操をSNSで配信しました。もともと有名曲に合わせてラジオ体操をやったらダンスの入り口として面白いかなと思って開発していました。試しに配信してみたらいろいろな方が面白いと言ってくれて、それから毎日朝の6:20にInstagramとFacebookで生配信しています。昨年末、生徒たちにも「年越しラジオ体操やるよ」と言ったら、普段は朝早いから見れないって言ってた生徒もその日だけはいっぱい来てくれて嬉しかったですね。コメント欄は荒らされましたけど(笑)。
TDM:では、最後にご自身の立場から、未来を担う子供たちへメッセージをお願いします!
KAZU:ダンスじゃなくてもいいので「面白い」に正直になって欲しいですね。また〝遊び〟の話になりますが、大人が遊びをデザインする時は、遊びの本来の良さを忘れて悪い意味で真面目に遊びを提供しがちだと思うんです。どうしても真面目になればなるほど「何かのために遊ばなきゃいけない」「遊びで学ばなければならない」となってしまいがちですが、そうなると遊びの本質が見えにくくなり受け手の子どもたちピンと来ないかもしれない。
……という事を言葉にして語ってしまうと、これも〝遊び〟から遠ざかっていくので、本来の〝遊び〟を守りたい僕と、研究している立場としてのジレンマはあるのですが(笑)、広く自分たちの生活の豊かにするために、「何かのために」ではなく、とにかく一番は「面白い」という感覚や気持ちを大切にして欲しいなと思います。
TDM:これからもダンスと教育の架け橋としての活躍を期待しています!本日はありがとうございました!
interview & photo by AKIKO
edit by Yuri Aoyagi
’21/3/22 UPDATE
★DANCE X‟cross”の情報はコチラ!
DSNCE X “cross” Instagram:@dancexcross
★KAZU☆岡本が手掛けた〝組ダンス〟の紹介はコチラ!
http://topics.codomode.org/dance.php
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