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「えんとつ町のプペル THE STAGE」特集 コスチューム・アーティスト ひびのこづえ

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西野亮廣さん原作の絵本「えんとつ町のプペル」が舞台化され、「えんとつ町のプペル」~ THE STAGE~として2020年1月30日より東京・天王洲の銀河劇場にて上演される。絵本同様、幻想的な世界観のビジュアルが注目される本作の衣装を手掛けるひびのこづえ氏。日本屈指のコスチュームアーティストとして数々の舞台衣装やパフォーマンス作品を創り続け、ダンサーとも親和性の高い活動を展開している彼女に、今回の衣装についてや、自身のクリエイティブに関してなどを語ってもらった。

 


 

 

  • ひびのこづえ

コスチュームアーティスト。静岡県生まれ。1982年、東京芸術大学美術学部デザイン科視覚伝達デザイン卒業。1988年のデビュー以来、雑誌、ポスター、テレビコマーシャル、演劇、ダンス、バレ エ、映画など幅広い分野で、ファッション・デザイナーと異なる視点で独自のコスチュームをつくり続ける。1990年代からは演出家・野田秀樹の舞台衣装を担当。1995年、毎日ファッション大賞・新人賞、資生堂奨励賞受賞。1997年に作家名を内藤こづえより、ひびのこづえに改める。
NHK Eテレ「にほんごであそぼ」のセット衣装を担当中。

 

 


■人に服を着せて起こる化学反応が見たい

 

TDM:コスチュームアーティストになったきっかけを教えてください。

ひびの子供の頃から絵が好きで、東京藝大のデザイン科に入って勉強していたけど、20代の時は自分探し、何が将来出来るのかが分からず、当時は藝大から広告代理店に入社するという流れがあったので、私も電通や博報堂を狙っていたのです。でも、まだその頃は女性の雇用がなかった。だから、私が「とらばーゆ」※1の表紙のコスチュームを手掛けていた時は、男女雇用機会均等法も出てない時代でした。

そこで、夢破れ一回挫折して、大学卒業し何しようかなと思っている時に、洋服に興味があったので、個人的に洋服を作り始めました。今の旦那さん(※2)のパフォーマンス用の衣装だったり、その頃台頭していた小劇場演劇の劇団などに頼まれて衣装を作ったりね。でも、洋服は、作った事もなかったし、勉強した事もなかったから、とにかく見様見真似でやっていました。

絵を描く事で挫折したのもきかっけの1つですね。藝大は絵の上手な人が集まっている大学なので、自分は絵では全然能力がないと打ちのめされてしまって、他の人がやってない事を探さなくっちゃいけなかったんです。当時ちょうど世の中にファッションの流れもきていた事もあって、洋服を作品にするようになりました。絵を描く事の延長線上に〝モノをつくる〟という事があったんですよね。

※1)「とらばーゆ」クルート発行の求人情報誌。
※2)日比野克彦氏現代美術家。東京藝術大学美術学部先端芸術表現科教授、東京藝術大学美術学部長。

TDM:最初から舞台衣装を作りたいと思ってたわけではないんですね。

ひびの:そうなんです。未だに舞台の衣装はあまり得意じゃないです。最初に演劇の仕事から入ったので、台本を読み込んだり、演出家の意図を理解しなきゃいけなかったけど、そういう事が不得意で…(笑)。だから今でも、お仕事をいただくと「ああ迷惑かけるだろうな」と思います。大抵、役者さんやダンサーに負担をかける衣装を提案してしまうので…。

 

 

TDM:どういう意味で〝不得意〟と?

ひびの:やっぱり普通の洋服ではないから、多少動きづらかったりすると思います。私の中では、〝人に服を着せたらどう化学反応起こすのだろう〟というのを見たいが為にやってるので、洋服を作る人の考えとは違う所があります。
自分の世界を表現したいので、職人になりきれない所があるのだと思います。もちろん、舞台のライブ感はすごく好きなので、やったら楽しいんですけどね。生で人が動く所を見せるっていうのは一番面白いですよね。でも、台本を読み込むのが苦手だから、やっていて一番楽しいのはストーリーがあまり関係ないダンスパフォーマンスですね。

TDM:まず舞台のお仕事を頼まれた時に何から始めますか?

ひびの:例えば、野田さん(※3)との仕事の場合は、まずは台本があるので、どんな方向性なんだろうという事から、言葉の端っこをもらって組み立てるようにして作っていきます。でも、最初から全部台本が出来てるわけじゃないし、だいたいどの仕事も、その人と会った時のヒントから創り上げる感じですね。特に最初の印象を大事にするようにしてます。

※3)野田秀樹氏…劇作家・演出家・役者。演劇企画製作会社「NODA・MAP」主宰。

TDM:ダンサーの動きなども参考にしますか?

ひびの:稽古のスタートは衣装プランの後になるから、先に演出家に「こんな衣装はどう?」という提案を早めに、最初の打ち合わせか2度目くらいには「これでいきませんか」と出します。そうじゃないと向こうの言い分に従わなきゃいけなくなるから、先出しジャンケン的に(笑)。それに、衣装を早めに稽古場に入れた方が、ダンサーも早く稽古が出来て安心なので、ギリギリに入れるわけにはいかないですね。〝早くデザイン画描いて、早く入れる〟というのがモットーなんです。もちろん、いろんなチームで製作するので、それが叶わない時もありますけどね。

TDM:1つの舞台に何点もの衣装を考える場合、バランスなども考えますか?

ひびの:基本的に私、メインの人よりアンサンブルが好きなんです。アンサンブルがいる時は、まず先にイメージします。主役は結構縛りが多くていろいろと気にしなきゃいけないので苦手(笑)。アンサンブルが一番面白い!

TDM:アンサンブルダンサーが聞いたら喜びますね!

ひびの:ダンサー好きなんですよ。だから、なるべくダンサーを取り巻く環境を良くしたいなと私も思っている一人です。

 

 

■自然の世界は凄い。人間もそういうものの1つ。

 

TDM:今まで影響を受けた人物や出来事などはありますか?

ひびの:いつも言っている事なんですが、野田秀樹さんは私にとって演出的な事など、いろんな事を勉強させてくれた人ですね。今自分でパフォーマンスを作る時のヒントになっています。他に影響を受けたのは、大学生の頃、ちょうどCOMME des GARÇONSやイッセイミヤケ、ヨウジヤマモトなど、日本のDCブランドの創成期で、美術館に行くよりも、そのお店に行く方が刺激的でした。美術館の作品は触っちゃいけないけど、そこにある洋服は触れて、高くて買えなくても試着出来る。それが凄いなと思っていました。

TDM:転機になった出来事などはありますか?

ひびの:いまも継続中のEテレ『にほんごであそぼ』という子供番組をやらせてもらった時ですね。セットも私がデザインしているので、衣装とセットを一緒にやるという事が、空間を創る事として凄く楽しかったですね。衣装だけを担当する時は、空間に合う合わないが結構あって、セットが邪魔だなと思う時があるんです。特にダンスの舞台は「なんでこんなに舞台セットにお金かけるの?それだったら衣装に0を1個持ってきてよ」と思う事が多いです。

本当に身体を見せたり、言葉を伝えたかったら、舞台を引き算して、もっと人間に関わるものにお金と手間をかけて欲しいと思うんです。でも、『にほんごであそぼ』の時には、衣装をそんなに作り込まなくても、セットの方で語ればいいなど自分でバランス作れたので凄く良かった。だから、今自分が自主的に作っているパフォーマンス作品は、美術も衣装も共に担当して、衣装も美術である、というようにしてるので、観る人はより楽しめるのではと思ってます。

TDM:ご自身でもパフォーマンス作品を創られているんですか?

ひびの:はい。最近は、全部衣装ありきで、自然界の事についてイメージしながら作って、衣装でストーリーを見せていくというパフォーマンス作品を創っています。舞台の仕事だと、だいたい衣装ってギリギリになるじゃない?そういうのがムカついて、先に考えさせろ!と思って(笑)。もちろん、普段は仕事としてちゃんと台本をもらってからやってますけどね(笑)。

サーカスアーティストでアクロバットの谷口界さんと、ジャグリングのハチロウさんのユニット、ホワイトアスパラガスと、音楽家の川瀬浩介さんと、海の生き物たちをテーマにした『WONDER WATER』という作品を創り各地で上演を続け大人気です。

 

『WONDER WATER』より

 

TDM:そういう活動もされているんですね。

ひびの:私は、ストーリーと衣装を先に決めて、音楽が出来たら彼らに渡して「稽古はご自身でやってください」と、自主的に稽古してもらって、現場で合わせるというスタイルでやっています。他には、愛がテーマの島地保武さんと酒井はなさんのPiece to Peace、コンテンポラリーダンサーの森山開次さんとも『LIVE BONE』という骨をテーマにした作品も長く上演しています。

TDM:どうして骨をテーマにしたんですか?

ひびの:『LIVE BONE』は、それこそダンサーありきじゃなくて、衣装ありきの作品なんですよ。開次さんの展覧会の延長でパフォーマンスを見せるという、自分たちだけで全て決めていいものだったので、最初に森山開次さんと、音楽の川瀬さんと3人でミーティングした時に、開次さんの提案で〝妖精〟というテーマが提案され。でも私〝骨〟で作って出したの(笑)。だから川瀬さんから未だに「あの時、こづえさんが骨を出してきて、開次さんも何も言わずに『ハイ』って言ったのを見て『ええ!?』って思ったって言われます」。

TDM:妖精から骨にどこで変換されたんでしょう?(笑)

ひびの:いや…、骨も妖精だろうなと。だって、妖精はいろんな所にいるものだから、骨の妖精でもいいかなって。あとは、骨ってダンスというものにすごく近い。見せてるのは身体の表だけど、実は骨が動いているんだよ、という。あとは、開次さんていわゆるイケメンだから、女性ファンは開次さんの顔を見たくて来るわけじゃない?だから大きい被り物を被せて、あえて顔を見せないから余計に見たい逆転の発想というのかな、私、意地悪なの(笑)。

 

 

TDM:『WONDER WATER』も『LIVE BONE』もそうですが、ひびのさんの作品は自然界をテーマにしたものが多いですが、何か原点はあるんですか?

ひびの:たぶん、幼稚園から小学校の頭まで、愛知県の田んぼしかないようなすごい田舎に住んでいて、1時間歩いて学校に行っていたんです。だから帰りは、道々いろんな虫に会ったり、雲と話したり、独り言を言いながら帰っていたんです。一人で遊ぶのも好きだったし、絵を描きながら一人で物語を話しているような、まさに赤毛のアンみたいな少女だったので、その頃の体験が大きいですね。自然の世界は凄いと思ってるし、人間もそういうものの1つだと思っています。

TDM:作品創りで大事にしている事はありますか?

ひびの:私が目指しているのは、赤ちゃんからおじいちゃんおばあちゃんまでが同時に楽しめ、人の身体の神秘に気付いて欲しいという事。ストーリーが分からなくても、全て観終わった後に、「凄くいいもの観た」と思ってもらって、「こんなにも素敵な事が、身体だけで表現出来るんだよ」という事を伝えたい。

衣装は道しるべみたいな役割もあります。例えば「猿だよ」と言って、何も着ないで猿のダンスをしてもいいけど、そこにヘンテコなものが出てきた方がより飽きない。小さい子供を飽きさせない為に音と衣装で気を紛らわせるんです。大人だって、長時間シンプルなダンスだけを見るのは難しいですから。驚く奇想天外な衣装。でも、最後には、レースのタイツ1枚で魅せ「本当に身体が凄いね。この人本当に素晴らしいね」と言わせたいという思いでやっています。

 

■『えんとつ町のプペル』の衣装について

 

TDM:今回の『えんとつ町のプペル』THE STAGE の衣装について教えてください。

ひびの:今回は演劇とも違う音楽劇で、元々絵本が原作なので、私としては結構楽しめましたね。特にハロウィンのお化けたちのシーンがあるのですが、そこの衣装が一番楽しかったです。一番大変だったのはタイトだった時間かな(笑)。

 

TDM:絵本なのでビジュアルのイメージが元々あったと思うのですが…。

ひびの:お話をいただいた時にそれは全然頭にありませんでした。私に頼んでくるからには、その通りに作ってというわけじゃないだろうなと。それに、台本を読んだら、絵本のストーリーから膨らんでいて、絵本には出て来ないシーンやキャラクターもたくさんいたので、この作品として分かりやすい記号的なものはある程度残し、でも舞台だし人間だしという感覚で、自分なりに楽しんで作りました。

TDM:衣装的な見所はどこですか?

ひびの:最初の打ち合わせで、演出の児玉明子さんとお話した時に、男の子が多いので、「なるべく大きい人や小さい人、いろんな体形の人がいるといいな」と言った私からのリクエストが叶えられているので、身体の違いもキャラを増幅させ面白いと思います。

ヨーロッパでダンスパフォーマンスなどを観ると、いろんな身体の人がいるんですよ。でも、日本はどうしてもイケメン=こじんまりしたいい顔という感じで、脇役も凄く大きい人とか、変な体型の人などもあまりいないから、そういういろんな個性を持った人が集まると面白い。
今回のキャストたちに、もっといろいろな衣装を着せてみたいなと思うくらいですね。

(C)POUPELLE THE STAGE PROJECT 2020

 

■カルチャーの大元である劇場をもっと開かれた空間にしたい

 

TDM:今後の目標はありますか?

ひびの:今、いろんな地域の劇場ではない場所を使って、パフォーマンスを上演しているんですが、本当は劇場をそういう場所に変えたいと思っています。劇場って、もっと人が気軽に来れて感じられるようにしなきゃいけないはずの空間なのに、閉ざされた空間になってしまっている。

カルチャーや地域の文化の大元である劇場をもっと開放し、開かれた空間を劇場が作っていかないといけないと思うんです。今私は劇場で仕事をしているのに、それが出来てないので、そこを目指したいなと思っています。

 

 

TDM:では最後に、今頑張っている若いダンサーやクリエイターに、メッセージをお願いします。

ひびの:今、私は一緒にパフォーマンス作品を創れる若くていいダンサーを探しているんですけど、そういう時にどこを見るかというと、当たり前の事なんだけど、やっぱりその人の人柄で見るんです。

今度予定してる作品でも、以前舞台のお仕事をやってた時に、アンダースタディで来ていたダンサーが、自分がメインではなくても影で支えてる行動や、挨拶の仕方などが魅力的で、賭けではありましたが、彼を誘ってみました。やっぱり一緒に何か作るとなったら、人柄が全てですから。舞台に立って自分のダンスをアピール出来る機会を果たして何人の人が作れるのかと思うと、結局そういう事が大事なのかなと思いますね。

私は人とのコミュニケーションが下手だったからモノづくりで何とかしようと思ってたけど、舞台を作るのはそういう訳にもいかないですからね。ただ、自分が一番夢中になるものを、自分のやりたいようにやる事は正しいと思うから、そこは口を出さないけど、人にちゃんと感謝出来たり、誠意を伝える事を大事にして欲しいですね。

TDM:これからも素敵な作品を創り続けてください!今日は貴重なお話ありがとうございました!

 

interview &edit by Yuri Aoyagi
photo by AKIKO
’20/1/23 UPDATE

 

★詳しくはコチラ

『えんとつ町のプペル』 ~THE STAGE~

公式HP  https://www.nelke.co.jp/stage/poupelle/

 

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tokyodancemagazine

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