

「生まれてすぐ蛾を捕ってるんで、虫取りは生活の中で普通の事なんですよね」と語るB-BOY MAO。「“何かをやりたい”という情熱はあったけど、周りは自然ばかりだったから該当するものがなかった。だからいつもダンスは自分に刺激を与えてくれる相手だった」と語るラオスのB-BOY Clil。
今年の夏から秋にかけて21_21 DESIGN SIGHTにて開催された企画展「虫展 −デザインのお手本−」にて、様々なクリエイターが虫から着想を得たさまざまな作品を展示する中、蛾が舞うイメージでブレイクダンスを踊るMAOの映像が流れていた。蛾の研究をしながらブレイクダンサーとして活動するMAOと、彼と共に活動するClil。日本とラオス、そして世界をフィールドにして生きている2人に話を聞いた。「真剣に遊ぶ」って本当に大切な事なのだろう。環境が邪魔をする時もあるかもしれないけど、逞しく生きて欲しい。
- BBOY MAO
- BBOY CLIL
◼ジャンルを細かく分けるのは日本人特有
TDM:蛾の研究をする事を、業界では「蛾をやっている」と言うそうですが(笑)、MAOさんは蛾をやっているんですよね?
MAO:はい。蛾をやっています(笑)。
蛾だけじゃないですけど。種類が一番多いし、多様性がすごいし、どう考えても蛾が一番綺麗ですね。実は、蛾と蝶と分けているのは日本人だけで、実際は蛾も蝶と一括りで同じ様な綺麗さを持っています。昆虫の研究をしている人が一番多いのは日本人なんですが、とにかく日本人は細分化するんですよ。だからまず蝶と蛾を分けて、そこから蛾の中でも無限に分かれている。
TDM:細分化という点では、ダンスでも同じかもしれませんね。日本はブレイキンはブレイキン、ロッキンはロッキンだけど、アメリカだとストリートダンスを総称して、HIP HOPとも言われてる。
MAO:ブレイクの中でも更に細かいですよね?
CLIL:日本では細かく分けようとしているって事だね?それぞれのダンスの特徴を捉えて、やり方を分けようとしているのかな?
MAO:細かく分けようとしている訳ではなく、元々の日本人の特質かもね。日本は他の国と比べると、考え方が多少違う所もあるのかな?虫に対してもそうなんだよね。
CLIL:なるほど。やり方の過程や仕組みを分析してるのかな?基礎作りっていう事かな?日本人はとても自分に厳しい部分があるよね。他の国の人達はいろいろな事に挑戦するけど、日本人はこれと一つに決めたら徹底的に追及する。この人の動きが素晴らしいと思ったら、それを一生懸命練習する。
TDM:ブレイキンだと何ですか?パワームーブとかフットワークとか?
CLIL:他にもとても沢山あるよ。例えばフレキシブルスタイルとかね。ただ、ブレイクダンスはもっと自由なんだ。もちろん僕もパワームーブを見て、そこから始めて、今もやっているけど。ブレイクダンスは、分類化なんかしないで、もっともっと自由な踊りなのにって思うんだけどね。
MAO:ダンスの中で唯一型がないと言ってもいいかもしれないですね。みんなが勝手に分類化してるだけで、ダンスっていうもの自体、型がないと思います。
◼虫があってダンス。ダンスがあって虫。
▲六本木のミッドタウンで2019年7月から11月まで開催していた虫展
TDM:今回、MAOさんClilさんが、虫展をやる事になった経緯は?
MAO:きっかけは、虫好きとしても知られる東大名誉教授の解剖学者の養老孟司さん。僕の日本人の先輩で、今ラオスに住んで蝶を30年間研究している人が養老さんを僕に紹介して下さいました。昆虫繋がりです。その人が身体性の事をとにかく重視してて、初めて養老さんに会った時に、Clilの動きを見せたんです。そっからが始まり。それが3年くらい前ですね。今回の展覧会ディレクターのグラフィックデザイナーの佐藤卓さんと、養老さんが企画監修に就任した昆虫展をやることになって、僕に「そこでブレイクダンスやりなよ」と言いました(笑)。普通の人はダンスと昆虫は繋がらないですよね。でも、僕自身は、山で動いたり、虫を捕る時にもブレイクダンスの動きがどれだけ重要になってくるのかを軸に考えていて、結局、昆虫採集も身体的な事なんです。
TDM:虫を捕る時、採集する動作にブレイクダンスの動きが活かされている部分がありますか?
MAO:そう。活かされてる!もはや、普通にやってるんです。だから、僕は色んな所で虫を捕るのが相当うまい方なんです(笑)。単に虫捕りと言っても、そんなに簡単なものじゃなく、結構複雑で、山に行っても、どこに崖があるか?どこに落とし穴があるか?とか。石灰岩の山だと、いきなり穴があったりするんで、どういう風にしたら落ちないかとかも考えます。
TDM:「MAOくんしか捕れない虫がいるから、呼ばれて捕りに行く」という事もしてるそうですが、危険な目に合った事はありますか?
MAO:いっぱいあります。普通の人だったら危ないところはいっぱいあります。木登りとかそういうのも軽々出来るのはブレイクダンスが凄く役立ってます。それって普通の人じゃ出来ないし、普通の人が見ない所もちゃんと見れるんです。普通の人は虫を捕る時にとても苦労しますよね。ただ、僕達はブレイクダンスをやっているから、容易にそれが出来てしまう所がある。だから簡単に虫を捕まえる事も出来るし、すでに身体が適用出来る様になってるのかも。
例えば、蝶はものすごいスピードなんですが、僕らの場合は、パワームーブでやっている動きのおかげで動体視力が相当よくなってるので、絶対に逃さないで見ることが出来ます。僕らは無意識にそれが出来ちゃってるから、分からないですけど、そのことは養老さんにも指摘されました。その辺も全部ダンスと関係してるし、それが普通なんですよ。僕の場合、昆虫がいるこの世界の中で生きながらダンスをやっているので、両方が繋がっている感覚です。
◼人生、虫捕りして遊ぶ、それは基本。それにダンス。
TDM:ブレイキンを始めたきっかけは?
それも掘り下げると、根本のきっかけは虫捕りです。そもそも身体を動かす虫捕りが原因で、身体動かさないと気が済まない人間になったんです(笑)。小学校の頃、そこらじゅうの山で走り回ったり、虫捕りをしながら、ジャッキー・チェンの逆立ちやいろんな動きを見て、その真似をして倒立で歩いたり、回転する技があって、それの真似をしてて、ブレイクダンスというものを知ったんです。でもその時は、ブレイクダンスっていうジャンルや、ダンスとしては考えてなかった。ただそういう動き、という感じ。
TDM:動き!ムーブですね!
MAO:ムーブが好き!だから本当にダンスじゃなかったんですよ。僕(笑)。そこからブレイキンを知る事になるのですが、中学までは、ただ1人でやってただけで、高校に入って、吉祥寺でダンスチームを組んでいる友達がいて、その人達の中に、「マイノリティヘッズ」っていうブレイクダンスをやってるチームの人がいました。その人たちの考え方はブレイクダンスの枠にはまらず、みんな自分の動きを自分の思考の中で考えて作り出すっていう人達で、そこでやっとそのチームに入って、一緒に踊れる様になりました。
TDM:高校生で、虫の道に進む事は決めてたんですか?
MAO:はい、もちろん!学校とか進学とか関係なく「人生、虫捕りをして遊ぶ」。それは基本です。それを基盤において、ダンス。本当に何も考えていなくて、大学も行く気にならず、高校を卒業してすぐタイに行きました。
TDM:虫の為に?
MAO:虫、ダンス、両方です。タイでブレイクダンスが出来始めた頃ですね。Chinoと一番最初に会いました。僕が最初にタイに行った時はB-BOYのカルチャーがタイで走り出したくらいで、Chinoは、ブレイクダンスの世界大会Battle of the Yearで、ドイツに行っていたタイのチーム「ninetynine flava」というチームにいました。そのメンバーのspize(スパイ)がケアしてくれて、一緒に遊んだりタイのB-BOY事情を教えくれたりしました。英語もタイ語も出来ないからジェスチャーで(笑)。
◼ブレイクダンスを通して人生を変えたい。
TDM:Clilさんがブレイクダンスを始めたきっかけは?
CLIL:
自分の地元ラオスでブレイクダンスのチームがあったんだよね。いくつかのチームが自分のホームタウンでトレーニングをしているのを見て凄く面白そうだなと感じた。その時「君も何かやってみる?」と声をかけてくれたのでヘッドスピンをやってみたんだ。僕はとてもラッキーだったんだけど、5回くらいで成功しちゃったんだ(笑)。彼らはすごく驚いていた。若かったからかな?(笑)それが12歳の時。ただ本当にラッキーだったんだと思うよ。
MAO:それまで、テコンドーをやっていたんだよね?そのおかげで身体がすごく柔らかかったり、バランスが元々整っていた部分もあるのかもね。
TDM:テコンドーはどれくらいやっていたんですか?
CLIL:覚えてないけど、多分4、5歳の時からかな。小さな何もない村に住んでいたから、ブレイクダンスというカルチャーを知ってすごく衝撃だった。周りは自然ばかりだったから、「何かをやりたい、始めたい」という情熱はあったけど、それに該当するものがなかった。だから、いつもダンスは自分に刺激を与えてくれる相手だった。チームで練習するようになってからも、決められたルールはなく、ただ同年代の人達の集まりだった。そのチームが村の外に出て活躍するようになって、彼らと一緒に色々な場所に出向くようになった。「ブレイクダンスを通して人生を変えたい、もっと上手くなって、他の場所でもっと活躍したい」と思っていた。自分にとってダンスは挑戦であって、もっと上手くなったら、もっとラオス以外のたくさんの場所へ出て、新しい世界が現れると思ったんだ。
◼CLILのブレイクダンスは空気の動かし方が綺麗。
TDM:2人の出会いは?
CLIL:タイのイベントです。ラオスに近い、イスタンローというローカルな街でイベントがあって、僕は「ninetynine flava」と一緒に行って、MAOは別のタイのチームと組んで来ていた。そこの3 on 3のバトルで会ったんだ。僕は、そのイベントはラオスとタイとの素晴らしいコミュニケーションにもなると思ってた。MAOはよく行ってたみたいだね。
MAO:やっぱりその時代からClilはずば抜けていたので、Clilに「再来週ぐらいラオスに練習しに行くよ!」って。体操で例えるなら内村航平選手みたいな感じかな(笑)。
TDM:Clilさんの動きは本当に綺麗ですよね!
CLIL:みんなそう言ってくれるね。ブレイクダンスを練習する時は、綺麗で、美しく、クリアにする事は意識はしているね。同じ動きだけど、とても簡単に踊っている様に見せたいんだ。本当はとてつもなく難しいんだけど。周りの人たちは「どうしてこんなに簡単に難しい技を見せれるんだ?」という事で僕に注目してくれる様になった。
◼ブレイキンの動きは、本来昆虫と同じで多様性で面白いもの
MAO:
Clilはもう弟のような感じで、2人だと「このムーブこういう見せ方がいいよ」など、普通に会話もしますけど、本当に、家でもどこでも練習するんです。練習場所に行って「今日練習するぞ!」ではなくて、山へ行ったら山で、いろんな動きを考えたり、昆虫の動きを参考にして動きを作ったり。「これで作ろう」と、改めて昆虫の動きを見なくても、そもそも普段から見てるので、その思考がアイディアとして出てくるのが当たり前で、全て繋がっています。そもそも人間が作った物よりか、自然の中にある物の動きが多い。そもそもの動きの中に、そういうのが自然に入ってる。
CLIL:切り離せないものなんだよね。ライフスタイルって言えばいいのかな?もちろん外に出て、色々な刺激を受ける事も大事だけど、その前に、山で虫と遊ぶ事とか変わらない日常も大事にしたいんだ。ただ単に感じるままにやるだけ。練習したかったら練習するし。ダンスしたかったらするし、みたいな。MAOが踊り始めたら踊る。会話やコミュニケーションみたいな感じかな?
MAO:今のブレイクダンスは全体的に動きがだいぶ狭まっていると思う。固まっているような。情報の中でYouTubeを見て、「こういう動きがあるんだ」と、その中で思考しているじゃないですか?でも、実際の外の世界をもっと見て、それを全部踏まえたら、一人一人すごい動きが出来るはず。
それが普通、当たり前ですよ。本来ダンサーは昆虫と同じで多様性があって面白いもの。一人一人が、全く違う動きが出来るはずなのに狭まってる。それがオリンピックの種目になったらさらにどんどん狭まると思う。
もちろんブレイクダンスの世界としてはオリンピックの種目になるのはいい事だと思うんですけど、個々としての動きは絶対に多様性が無くなっちゃう。だから、もっと自然とか虫とかを見たらどれだけ世界が広がるのかという事を、ちゃんと僕らが伝えたいですね。ブレイクダンスシーンだけじゃなくて、その事を多くの日本人が理解したら、面白い世界になると思います。
TDM:それは凄い。虫という全く関係ない項目で、ブレイキンというダンスが活かされる機会も作っていけますね。
MAO:本当にそうだと思います。虫だけじゃなくて自然界ってすごいじゃないですか。植物がなくなったら虫もいなくなるし。もし虫がいなくなったら最終的に人間もいなくなる。結局そこを考えると生物は全部繋がってる。僕ら自体が生物なんで。その事実を忘れて、この人間が作ったこの世界の中だけで考えたら、そりゃどんどん思考も狭まってくる。
「虫が嫌い」で終わってたら、その時点でその脳は思考しないんです。養老さんも「蛾は気持ち悪い。と思ったらそこで思考が止まってしまう」と言っています。蛾ってものすごい種類があるし、凄く綺麗だと僕は思います。だから一回、デザインという視点で蛾を見てみるといいと思う。「あっ!こう見ると綺麗じゃん」という思考が生まれて、色んな考えが出来る。
勝手に「気持ち悪い!」で思考を止めちゃうよりかは、もう少し自分で色んな事に対して自然をもっとじっくり見てみたら、アイディアも広がる。それはダンスも同じ。みんな自分で壁作って、自分自身で思考を止めちゃってるから、それ以上のアイディアも出てこないんです。
◼「好きな事を本気でやる」それだけですね。
TDM:今後のプランはありますか?
MAO:単純に、世界中で虫捕りをしたいです。世界中の虫が見たい。それにはもちろんお金も必要になってくるし、中途半端な額じゃ出来ないので、今、養老さんたちとそれをどうしたら実現できるのか考えてます。日本とラオスで、今後、どういう風にコミニケーションをとっていけるのか?ラオスに昆虫の研究機関を作りたいですし、中国にも作りたい。中国はとても重要な場所だし、ミャンマー、ネパール、ラオスはもちろん虫にとって重要な場所。ラオスで研究を続けて、中国やベトナム、タイも虫を研究する上で必要だから行きたい。虫の分野で日本人がまだ踏み入れていない東南アジア、そこの昆虫層を全部理解出来たら、後々、南米などで研究してる人と繋がって、地球全体の昆虫層が理解出来るんじゃないかと。
CLIL:僕はただダンスを続ける事。ダンスをもっと追及していきたい。そして、ラオスで学んだ事や、自分の生活環境も含めて、どんどんラオスのカルチャーを共有していきたい。
MAO:ダンスも虫捕りもそうなんですけど、人生上であまりにも時間が足りなすぎるので、とにかく次の世代にもしっかり、アイディアを教えられる様にはしたいです。ダンスも虫も身体さえ続くんだったら一生やりたい。歳を取っても出来る事はあると思うので、身体の事を考えて、一生ストレッチを続けていきます。僕はまずは虫が基盤で、その中でダンスが繋がっている。生まれてすぐ捕っているので、普通の生活として虫捕りしている感じなんですよね。
まぁ、虫より面白いものは見つからないですね。これより凄いものない。今後も「好きな事を本気でやる」それだけですね。絶対何か好きな事があったら、それだけで生きていけるので。みんな多分、色んな事に洗脳されて、本当に好きだったものを忘れちゃってる事もあると思うから、とにかく昔からやってる、自分が一番好きな物は何なのか?を考えて、それをやり続けるのが一番だと思います。
TDM:本日はありがとうございました!
interview by Sayuri
photo by AKIKO
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