2011年に始動して以来、ストリートダンス・シーンやエンタメ業界に多大な影響を与えてきたダンスエンタメ作品コンテスト「Legend Tokyo」の仕掛人、工藤光昭氏。
フリーマガジン「SDM」の編集長でもあり、ストリートダンスをダンサー以外の立場から俯瞰的に考えた独自の視点で、業界に数々のムーブメントを生み続けている異色の存在だ。
そんなダンス界の異端児は昨年、自ら「Legend Tokyo」に終止符を打ち、この夏から名称新たに新大会を発足させる。その理由そしてまた新たに仕掛ける「今まで盲点であった世代にターゲットを向けた新企画」についても話を聞いた。
・工藤光昭
「Legend Creative Project」主宰/「SDM」編集長/株式会社ジャスト・ビー 代表取締役
ストリートダンスを〝流行〟として追いかけるのではなく〝文化〟として根付かせるという一貫したコンセプトのもと、古くから数々のダンス・メディアの発起・発行・編集などを手がける。2002年よりストリートダンス専門の雑誌編集者として活動をはじめ、2003年に編集プロダクション「ジャスト・ビー」を発足。2007年にフリーマガジン「SDM」を発刊。長年にわたるメディア活動で感じたことをもとに2011年、日本発の大規模コレオグラファー作品コンテスト「Legend Tokyo」を始動。以後、イベント・舞台企画プロデューサーとしても多様な企画を手がけ続けている。
■ 広がり過ぎた「Legend Tokyo」
TDM:まず、「Legend Tokyo」を始めたきっかけを教えてください。
工藤:もともとHIPHOPやストリートダンスと共に、ミュージカルが好きだったんです。それがいつしか「ストリートダンスと舞台芸術を融合させた新しい文化を創りたい」という想いに変わってきました。
それに編集者として長年、取材し続けてきた中で、日本のダンスシーンにはすごくいい舞台作品を創る振付師が多いし、ストリートダンスをエンタメシーンに広げるためには振付師が重要なのに、ダンスシーンの着目はプレイヤーばかりで、コレオグラファーはまったく注目を浴びてないことに違和感を覚えていました。
そこで、「DANCE@LIVE」が始まってバトルが広がり、「全国スーパーキッズダンスコンテスト」が始まってキッズダンスが盛んになったように、コレオグラファーも、そんな大規模な大会があればきっと大きな広がりを生むんじゃないかと思ったんです。
TDM:その「Legend Tokyo」が昨年のChapter.8で一旦終了する事になりましたが、その経緯を教えてください。
工藤:実はもう数年前から一区切りつけたいとは思ってたんです。お話したとおり、「Legend Tokyo」は「コレオグラファーに注目が集まる未来が生まれたらいいな」、「もっとストリートダンスの舞台作品が広がればいいな」と思って始めた大会ですが、それが「そうなったらいいな」どころではなく、当初の想像以上にシーンが広がったからなんです。
TDM:広げることが目標だったのに、広がったことによって、どういう事が起きたんですか?
工藤:まず、広がった事によって、ナンバーイベントが増え過ぎて、完全な消費市場になってきた。〝新しい文化〟を創りたかったのですが、文化ではなく、もはや〝流行り〟になってしまっている感覚があります。
そして、東京でいえば、コレオグラファーの仕事があまりにも急速に回りだして、全体的に、わざわざコンテストに挑むという士気や価値が下がってきた。
「Legend Tokyo」自体も戦いが進化し過ぎて、本来は新作発表の場として活用して切磋琢磨して欲しいと考えていましたが、皆さん「よっぽどの作品で挑まないと、本戦には出ちゃいけない」と捉えられてしまって、年々、挑戦者の減少に歯止めがきかなくなってきています。
「Legend Tokyo」の開催目的は「革命を起こす事」で、「起きたらどうなるか?」まで設計されていなかったから、もう構造が古い大会になってしまっている……、それを、ずっと心の中で感じていたんですね。
TDM:それはシーンが成熟したって事ですよね?
工藤:そう。思った以上に成功したし、思った以上に成功したから、もう開催意義が古くなってしまった。それに、さすがに東京も新しい才能も作品も頻繁には出てこないから、充電期間を置いて4年に1回くらいがちょうどいいのかなと。
TDM:構造が古いとは具体的にどういう事ですか?
工藤:Chapter.1を実現した後、エンタメ界の重鎮の方々から伺ったご意見が、「コンテストをやって才能ある人たちを見つけたら、自分たちでマネジメント出来るようにプロダクション機能を持ってなきゃダメだよ」という事。
例えば、昔「スター誕生」というテレビ番組のオーディションで優勝したら、数年間はホリプロとTBSと契約するのが条件だった。エンタメシーンはむしろそっちが当たり前。でも、大会を始めた当時は、ダンスシーンにその考え方はありえなかったから、僕は純粋に「才能が評価される場を作りたい」だけで終わっていた。考え方が編集者だったので、「広げる・伝える」があくまで命題!と考えていたんですよね。
そしたら、時代が変わって、今やもうエンタメシーンでマネジメントをつけて成功しているダンサーやコレオグラファーがいっぱい出てきて、当り前になってきた。
かたや「Legend Tokyo」は、「才能を伝えて広げます!」だけ一所懸命で、「では、その先、どうなるか?」がまったく考えられていなかった。
だから、そういう事も含めて、大会を1から作り直したいと思って始めたのが、今年から大阪で開催する「Legend UNIVERSE」なんです。この大会では、主に関西のエンタメシーンでダンスにお仕事を繋げる力を持った方々を審査員にお越しいただいて、素晴らしい才能を見出し、そこから関西、東京、そして世界のお仕事に繋げるところまで、実際にマネジメントが出来るプロダクションと連携して大会を構築して、もっと先までトータルでプロデュースできる環境を作りたいと思っています。
■関西で開催する「Legend UNIVERSE」
TDM:なぜ、東京ではなくて大阪なんですか?
工藤:これも8年間「Legend Tokyo」をやってきて、僕の中でずっと申し訳ないと思っていた事だったんです。大会後期は、東京在住のコレオグラファーは受賞内容によっては1年で生活が激変するぐらいお仕事が回るような状況になっていました。しかし、正直、関東以外在住の方は賞をとってもあまりお仕事に繋がらなかった。関東以外にも素晴らしいコレオグラファーの方がいっぱいいるのに。
TDM:けど、京都を活動拠点にしているMemorable MomentのKAORIaliveさんは、大きなお仕事をたくさんやってらっしゃいますよね?
工藤:KAORIaliveさんは状況が解ってらっしゃったので、レジェンド受賞後、すぐに東京にも事務所を構えたんです。つまりはコレオグラファーのお仕事って結局ほとんど東京中心だったんです。それも含めて申し訳ないと思っていたので、「いつかは関東以外在住の方も、現地で仕事が広がる環境を創りたい!」とずっと思っていました。
そもそも、東京も以前は、「日本にどんなコレオグラファーがいて、どんな人が何のジャンルが得意か?」という事は、コネと口コミでしか知られていない状態でした。それが実際「Legend Tokyo」という博覧会のような環境を作る事によって、「この世界観の振付ならこの人が得意」などがエンタメシーンの方々も見えるようになり、大きくお仕事が動き出しました。
そして、今、大阪こそが大きな可能性があって海外観光客向けのコンテンツがエンタメシーンで次々と計画されているのはもちろん、2025年の大阪万博も追い風で、この先、コレオグラファーの需要は絶対に増えます!だからこそ、この仕組みは、今こそ関西のダンスシーンの未来を広げるために必要なものだと考えています。
そして、東京オリンピックの影響で2020年が落ち着くまでは、東京で会場が取れなくなったという事もあります。そんな折にお世話になっている「ぴあ」の方が「大阪のオリックス劇場はどうか?」とご提案してくれたので、これも縁だと考えています!
TDM:それが「Legend Tokyo」 を再構築しようと思った理由だったんですね。でも、ダンスシーンとエンタメシーンを繋げたという意味では成功したと思いますが、そこまではイメージ通りだったんですか?
工藤:イメージ通りというか、毎年毎年、今考えられるベストな事をやってきただけ。今の時代は結局、今見えてる「こうすればいいな」というベストを考えるしか出来ないじゃないですか。だって、こんな紙媒体が厳しくなる時代になるなんて12年前の僕が知ってたら、当然フリーマガジンなんて立ち上げてないですよ(笑)。
TDM:「SDM」は今後どうしていく予定ですか?
工藤:そんな時代なので、発行する度に赤字ですが続けようと思ってます。発行の頻度は減らすけど、やっぱり文化にとって紙媒体は無くなってはいけないと思うんです。今はWEBやYouTubeの時代ですが、だからといって業界がWEB情報のみになってしまったら、より文化として薄くなってしまう。理想は、やっぱりWEBと紙媒体が、それぞれの役割をもって共存できる環境がベストだと考えていて、今はまさにその模索の最中ですね。
■35歳未満厳禁の「大人のLegend」
TDM:今後仕掛けたい事はありますか?
工藤:とにかく面白いものを作っていきたいんです。それは〝面白い演出 〟とか〝面白いイベント〟という単位じゃなくて、文化の仕組みとして何か面白いものを作っていきたい。
「Legend Tokyo」にしても、「SDM」の掲載や「Legend NEXT」という作品を広げるためのレッスン・プログラム、舞台公演「FINAL LEGEND」など、全部まとめて一括りの仕組みとしていて、別に大会だけじゃない
さらに、今取り組んでいるのは、35歳以上でないと参加できないという、題して「大人のLegend NEXT」! そして、今年のGWの5月5日に、第1弾の舞台公演「大人のダンスエンタメ・ショウ」を開催します。
TDM:「大人のLegend」はどんなコンセプトなんですか?
工藤:今度は今までとは、まったく違う視点の取り組みで、〝大人の趣味〟としてのストリートダンスの提唱なんです!
ライフスタイルとして大人がナンバーに出演し、年老いてもダンスを末永く楽しめる趣味として続けよう!という新しい価値観の創出を目指しています。
今はミドルエイジの方々だって、機会があればナンバー作品に参加して舞台で踊りたいと思っている方たちは、たくさんいると思います。だけど、そういった方々の心情として、大半は踊りたくても「若者には混ざり辛い」と考えていると思うんです。
TDM:確かに。でも、どうしてそのような事を考えだしたのですか?
工藤:それは、僕もおっさんになったから気付いた事(笑)。やっぱり音楽は好きだけど、さすがにこの年になったら若い時のようにクラブとか行き辛い。けど、別にこれってたぶん僕だけじゃないよなと。そこで気付いたんです!
例えば、若い時にダンスをやってたけど仕事や子育てが忙しくて辞めちゃった人は大勢います。
そういった人が年をとって、趣味としてやりたくなった時にダンスナンバーのシーンには戻れる環境がない。そういう人達は仕方がないから辞めている方々が多いのが現状なんです。
この企画の大きなキッカケとして、スタッフの飯塚徳子さんが、なんと45歳過ぎて「情熱Dream」というアイドルグループ・デビューをしたんです。本人いわく「全員、おばさんで構成されているおばさんアイドル」とのことですが(笑)。それがかなり成功しているらしく、その成功の理由というのが、「いくつになっても同世代は同世代ならではの共感できる楽しさがある。」「彼らが主役になれる文化も望んでいる」という事だったんです。
だからこの企画は、大々的に35歳未満は参加禁止にして、大人が大人のコミュニティとして参加しやすい環境にしています。この企画のリーダーも彼女にお願いしています。
これは、先ほどの「Legend Tokyo」のお話と繋がっていて、時代が変わってきた以上、大きな変革をしたい。1つは新しい世代に向けた変革。ただもう1つは、僕らと同じ世代を生きた人向けの変革も成すべきだと。
TDM:すごく素敵な企画ですね!
工藤:実際やり始めたら、思ったより反響がよくて、地方でもやって欲しいという話もある。考えてみれば、TRFやアムラー世代は40代だし、ディスコも昭和時代からある。だから皆さんが思ってる以上に今の40代50代はストリートダンスに親和性があるんですよ。実際、今回の参加者で一番多い世代は50代なんです。さらに今のミドルエイジが若者の頃はダンススクールなんてなかったし、興味を持っても、そもそもダンスを始める環境がなかった。
つまり、未だに「ストリートダンスは若者の文化です」と言い続けるのも、それも実は「時代遅れ」なんじゃないかと。確かに、もともとは若者の文化だけど、かつての若者も今やミドルエイジ。だから、大人の趣味やライフスタイルとして確立する世界もないと、ダンスがちゃんとした文化として繋がっていかない。
それに大人って基本的に孤独なんです。特に、世界の中で一番孤独を感じてるのは日本人の40代50代だというデータもあります。そういう人達が集まって、大人の趣味としてのダンスを通してコミュニティが出来て、年に1回舞台に立って輝く機会があれば、若返ったり、人生の楽しみが出来たり、きっとダンスの新しい繋がりと魅力が広がると思うんです!
TDM:ダンスを通じて新しい繋がりが出来るというのもいいですね。
工藤:そうなんです。なぜ「大人=ナンバー出演」かというと、結局、やりたい事は〝コミュニティの醸成〟。
僕の1つの信念として、自分が生きてきた中での家族の不幸もあって、自分が仕掛けるものは、絶対に人と人とが繋がりを生み出すものにしたい。「Legend Tokyo」が今まで出演ダンサーの公募参加にこだわってきた根底はそこにあります。
今まで17年以上、編集者としてたくさんのダンサーの方々にお話を聞いてきましたが、ダンスを続けて1 番よかった事」を聞いたとき、実は「ダンスが上手くなった事」や「大きな舞台に立てた事」と答える人はほぼいません。最も多い回答――、それは間違いなく「かけがえのないの仲間との出会い」です。ダンスの、特にストリートダンスの究極の魅力って、僕は間違いなく、そこにあるんだと思います!
だから、「大人のダンスエンタメ・ショウ」では、公演終了後、全員参加の打上げパーティなんかもやったりするんですよ。
TDM:では、最後に、個人的な目標はありますか?
工藤:今まで仕掛けてきたすべてに共通していえる事ですが、実は常に自分の1番のお客さんは自分自身なんです。「Legend Tokyo」も「FINAL LEGEND」も自分自身が「観たい!」と考えてきたもの。「大人のLegend NEXT」は実はおっさんになった僕自身が1番参加したい!
もちろん、まだまだ自分自身が納得できる状態にいたっていない事も山ほどありますが。
ただ1ついえる事は、いつもその時、その年に自分がアンテナを張って、いろいろ見て、これが正解なんだと思った事をベストでやるだけ。だからまた、3年経ったら全然違う事を考えてるかもしれませんね。
TDM:また面白い仕掛けを期待しています!今日はありがとうございました!
Interview by Yuri Aoyagi
photo by AKIKO
’19/5/2 UPDATE
★「大人のダンスエンタメ・ショウ」の詳細はコチラ!
※第2弾は、9月15日に開催!出演者募集はコチラから!
★「Legend UNIVERSE」の詳細はコチラ!
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