スーパー歌舞伎Ⅱ「ワンピース」など数々の作品を手掛けている演出家・横内謙介と、独自の世界観を生み出し続け、最近では乃木坂46の振付なども担当し各界から注目を集めているSeishiroが、現在サンリオピューロランドで上演中の新ミュージカル「KAWAII KABUKI ~ハローキティ一座の桃太郎~」でコラボレーションを果たした。今回そんな2人の対談が実現。演劇界とストリートダンス界、それぞれの過去と未来について、ざっくばらんに語ってくれた。前・後編の2回に分けてお届けしよう。
- 横内謙介
1961年9月22日、東京生まれ。劇作家・演出家。劇団「扉座」主宰。
神奈川県立厚木高校在籍時、名義貸しで演劇部に入部。先輩に奢られ、つかこうへい事務所の「熱海殺人事件」を観て芝居に目覚める。処女作「山椒魚だぞ!」にて演劇コンクール全国大会出場。1982年、早稲田大学第一文学部在学時に、厚木高校演劇部員だった岡森諦、六角精児、法政二高の部員だった杉山良一らと劇団「善人会議」を旗揚げ。’93年「扉座」と改名、現在に至る。
劇団活動とともに、スーパー歌舞伎、ミュージカルなど、外部への作品提供多数。’92年、第36回岸田國士戯曲賞を『愚者には見えないラマンチャの王様の裸』で受賞。 ’99年『新・三国志』で大谷賞を史上最年少で受賞。2015年スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』で大谷賞を再び受賞。
- Seishiro
2011年に福岡から東京に拠点を移し、海外、国内を中心に自身のWork Shopを展開し、数多くのアーティストに振付提供し自身の舞台の作品等を手掛ける。Jazz、Vogue、Hiphop、Contemporaryなどの様々な要素を生かし独自の感性とスタイルを確立させ活動。
日本最大級の振付コンテスト「2015.Legend Tokyo Chapter.5」横浜アリーナ記念大会では歴代最年少での優勝。レコード大賞受賞曲、乃木坂46「インフルエンサー」や「シンクロニシティ」振付など、多くのアーティストの振付。2018年3月より上演されているサンリオピューロランドの松竹監修「KAWAII KABUKI ~ハローキティ一座の桃太郎~」振付。
そのほか数々の振付・舞台演出を手掛け、振付家としてそのたぐいまれなるセンスに注目が集まっている。
■プロ同士が切磋琢磨する現場で見せたSeishiroの忖度。
TDM:
Seishiroさんが横内さんと接してみて受けたインスピレーションは?
Seishiro:
先ほど(前編参照)横内さんもおっしゃられていたように、最初から最後まで、お客様に対して押しつけがましくなく、お客さんとの会話が成り立つ演出をされるので、素晴らしい方だなと感じました。
あとは、個人的なんですが、リハーサル中の風格がとてもある印象ですね。
演出家たるもの、演者の前で「どうしよう…」と慌てたくない。その点、横内さんは常にすごく落ち着かれていて、判断力も高く、私たちを待たせる隙もなく、時間配分がきちんとされているんだなと。
私は、制作現場での時間配分はすごく気にしているんですけども、仲間たちとの現場だとスムーズにいくことでも、慣れていない現場だと時間がかかります。そのため、事前にたくさん準備をしていって、できるだけ私が考えている隙を見せないように、なんとか気を付けています。その点、横内さんはそれがすごく余裕があり、ナチュラルだなと感じました。
横内謙介:
余裕とかではなく「なるようになる」と思っているだけですよ(笑)。
僕もKAWAII KABUKIの現場で、Seishiroさんをすごいなと思ったところがいくつかありました。ある時、踊りとしては全く問題なかったんですが、こちらとして見せたい心情を出す必要があり、それをSeishiroさんの振付でやろうと、現場で相談したことがありました。
その時は時間がない中で、すでに振付は終わっているのに変更をお願いすることが失礼だとは思ったんですが、無理を言ってお願いをしました。
承諾してくれたSeishiroさんは、服を脱いだような着たような不思議な格好になり、僕らの見ている前で作り始めました。16小節くらいのパートを1時間で作って頂きましたが、その時はSeishiroさんのアトリエをのぞき見したような感覚になりましたね。追い込んでしまったと思うと同時に非常に興味深かったですね。
Seishiroさんは、すごく集中していましたね。あんな場所で創作しているのを見られるのはいやじゃなかったですか?僕だったら、現場で「セリフを考え直して」と言われているのと同じことだし、「自分で直せ」って思っちゃう(笑)。
Seishiro:
振りを直すことに関しては問題なくて、「お待たせしないように早く対応しなきゃ。」くらいの気持ちでした。それよりも、「横内先生がどうしたら納得するんだろう、どういうドラマ性を見せたいんだろう」という気持ちを読み取るのと、その方向性を決めるのにエネルギーを使いましたね。
全部作ってみて、違ったらまたやり直しになるので、まず半分の8小節だけ作って「こんなテイストでいいんでしょうか?」とお見せしました。OKを頂いたので、残りをバッと作りました。
横内謙介:
なるほど。そこまでクリエイティブに考えてくれていたんだね。だから、うまくいったんだな。結果その場面は、おかげさまで、とてもいい場面になりました。
Seishiro:
ああいう現場は、本当にプロとプロが一緒に切磋琢磨していくものだから、独りよがりだと、何の意味もなくなってしまう。私も勉強したいという想いが強かったですね。
横内謙介:
僕も「ワンピース」でも何回書き直したかわからないくらい書き直しているし、3代目の猿之助さんと仕事をしていた時には、10ページも書いたセリフが、結果1行になったこともあります。でも、10ページが無駄になったわけではなく、あれがあったからこそ、この1行にたどり着いたはず。
歌舞伎の世界で、作家はヒエラルキーの中でも下の方。客は役者についているので、役者が最も上で、作家は役者に意見を聞く立場でした。
昔、とある映画のプロデューサーから学んだことがあります。どうしても作家は「これは俺の作品だ」と言いたくなるんだけど、かたくなにそんなこと言ったって仕方ない。「作品の中に、お前が生きているという感覚が大切だ。作品の中で消えちゃう奴もいるけどね」と。
あの時、Seishiroさんは僕の気持ちを忖度してくれたんですね。だからこそ、いいものができたんでしょう。
■常設シアターでの成功は、約20年抱えてきた長年の夢。
横内謙介:
Seishiroさんはヒップホップど真ん中ではないかもしれませんが、いわゆる大牟田のストリートから出てきたわけですよね。
Seishiro:
横内謙介:
こんなオシャレなことをやる人がどこから来たんだろうと思って調べたら、福岡県大牟田市のストリート出身なんだもんね~(笑)。
Seishiro:
はい、とんでもない田舎なんですが、温かい街ですよ。昔は炭鉱の町で栄えていたのですが、今はシャッター街も多くて、私は使われなくなった映画館の裏でよく練習していました。最近は地元でもダンスシーンが盛り上がっているみたいです。
4人くらいのチームでやったり、たまには1人で、延々とラジカセを鳴らしながら踊ったりしていました。周囲からは変わりもの扱いでしたねー。路地裏にあるバックストリートというクラブでよくお世話になっておりました(笑)。
横内謙介:
そもそも今回のKAWAII KABUKIは、どうやってつながったの?
Seishiro:
2013年の舞台「*ASTERISK~女神の光~」に出演した際に、キャスティングをしていたAKKOさんと出会ったことからのご縁で今回のサンリオさんのお仕事を頂くことができました。
AKKOさんは男子新体操のプロ集団、BLUE TOKYOのマネジメントもされていて、私の演出するステージでは彼らに踊ってもらったことがあります。
横内謙介:
あ、男子新体操!2013年にISSEI MIYAKEさんともコラボレーションやっていましたよね。
僕は2003年くらいにシルク・ドゥ・ソレイユのブームがあった時に、ラスベガスにみんなで観に行っていて、ああいうショーを常設シアターでやるのは悲願なんですよ。
エアリアルダンサーの若井田久美子さんと、国民文化祭ふくおか2004の開会式では、空中を使っていろんなショーをやったこともありました。若井田さんとは、2005年の愛知万博「愛・地球博」でもエアリアルをやってもらいました。
ただ、常設シアターに関しては、みんなが挑戦しては失敗している。毎日1時間ほどのショーの公演をする常設シアターで成功しているのは、日本だと六本木にある金魚くらいかもしれませんね。20年以上やっていて、あれは超えられてないんじゃないかなと思います。
ピューロランドを常設シアターと捉えるなら、もちろんあれも成功例ですよね。いくら素晴らしいパフォーマンスでも、話題にならなかったら意味がない。サンリオのスター、キティちゃんが協力してくれたら、かなり話題になると思うけどね (笑)。
ロングラン公演をしたくても、ストリートダンサーたちは瞬間に生きる潔さがあって、踊れなくなったら交代になってしまうけど、それでいいんだと思います。あとは、人材や仕組みをうまく回せるプロデューサーがまだ出てきてないんでしょうね。
実は自分にとって常設シアターでの成功は、約20年抱えてきた長年の夢で、仲間たちと「これが俺たちの仕事なんじゃないかな」って話しています。ぜひ何かで形にできたらいいですね。
やっぱり、どの世界でも成功例があると、盛り上がるし、業界が元気になるよね。
演劇での成功例は、唐十郎さん、寺山修司さんが現れて、いわゆる暗黒舞踏と同じで、前衛的で何をやっているかわからない人たちだったんだけど、有名になっていきました。その後、野田秀樹さんが現れて、ディスクジョッキーをやったり、テレビに出たりする劇団員が出てきました。役者を目指す人間はいつか自分もああなれると思っていきました。そういう影響力のある人がダンス業界にも必要なのかもしれませんね。
■凝り固まりすぎず、自分が楽しむことを忘れない。
TDM:
今後の展望はありますか?
横内謙介:
さっきの常設シアターもやってみたいし、あとは、ストリートカルチャーと真剣にコラボレーションしてみたいと思っています。
先日ニューヨークに行って、いろんなショーを見ましたが、ラップのミュージカル「ハミルトン」がとても良かったです。アメリカ建国時のストーリーをすべてラップでやっていたんですが、映像などは一切使わず、小道具をうまく使っていて、ラップもカッコ良かったですね。ラップは情景描写という点で演劇のセリフと通ずるところがあるので、コラボレーションしやすいと感じています。
Seishiro:
私は基本的には、自分が踊ることもまだ好きです。何かをインプットしていないと死んでしまうタイプなんですが、今年11月までは、いろんなアウトプットが決まっているので、それまでは出し尽くすと決めています。その後、ニューヨークに1~2ヵ月間行って、さらにいろんなものを受信して、帰ってきたらまたアウトプットする予定です。ニューヨークでは何が起こるかわかりませんが、ただ、行くことだけは決めています。
あとは、演出も純粋に好きなので、その上でやっていきたいのは、もう少し上空の空間を埋められる人たちと絡んでいきたいです。上と下のバランスがすごく好きなので、空中パフォーマーの方々と大きなステージングができたらうれしいですね。
自分のテンションが上がることを常に模索しながら生きていきたいです。さっきお話に出てきたお笑い動画みたいなものも、自分の箸休めなんです。息詰まる時や、アイデアが思いつかない時は、本当に自分にむかつくし、ストレスがたまるんですが、お笑いに関しては何のストレスもなくアイデアがポンポン浮かんでくるんですね(笑)。それが仕事じゃないからこそできる、楽しみなのかもしれません。それが自分の仕事にも生かされていければいいなと思います。無条件で誰も得しない発想は無限だし、楽しいですね。
最近は、徐々に自分の脳みそが、和らいでいるようで、実は凝り固まっている気がして、自分にとって、今が葛藤の時期だなと思います。
横内謙介:
ハードルが上がっている証拠でしょうね。あんな素敵なものを見ると、周りは「次はあれを超えてほしい」と望んでくるから。
Seishiro:
オファーしてくださる方は私に期待してくださっているから、お仕事をくださるので、その期待には応えたいんですけど、凝り固まりすぎず、自分が楽しむことを忘れないで作っていきたいです。
横内謙介:
いや~、今でこそこうして心通わせて話せるけど、初めて会った時は「不思議な人だなぁ。この人は何なんだろう」と、観察対象として面白いなぁと思っていましたね(笑)。
だから、リハーサル当初は、「どこで踊り始めたの?」「どこを目指しているの?」など、当たり障りのない話をしていましたね。
最初は、お寺で踊っている映像を見ていたから、「この人はどんな踊りを作ろうと思っているんだろう?」と不思議に思うわけですよ。
でも、しばらくあとで、Instagramで女子会の合コンアフタートークとかを見て、驚くわけですよ。あれを先に知っていれば、もっと違うアプローチができたのになぁと(笑)。
Seishiro:
見られていたんですね!…恥ずかしい(笑)。
横内謙介:
あれは、誰にも頼まれずに作っているでしょ?(笑)。
Seishiro:
はい、あの誰も得しない感じでやるのが好きなんです。
横内謙介:
そういえば、KAWAII KABUKIのリハーサルの合間にも、鬼ヶ島のセットでバーのママごっこをしてくれた時も、アドリブですらすらセリフも出てきていたよね(笑)。この人はコミカルなこともできるんだなと知ったのは、残念ながら、最終段階でした。
笑いの要素ってすごく大事ですよね。
Seishiro:
はい、一番センスが必要だと思います。
横内謙介:
アーティスティックな方向からしかSeishiroを研究できてなかったからなぁ…(笑)。機会があれば、何か一緒にやりたいですね。
Seishiro:
はい、ぜひ!
TDM:
いつかまたお2人のコラボレーション作品が見られることを楽しみにしています。素敵なお話をありがとうございました!
interview & photo by AKIKO
Edit by imu
’18/06/23 UPDATE
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