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舞台「バラーレ」・「BLUE VOL.03」合同特集 坂東玉三郎×長谷川達也

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■思考の速度と行動の速度を変えること

 

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TDM
達也さんは「バラーレ」で玉三郎さんと創作してみて、どういう感覚ですか?

 

達也 ストリートダンサーの自己主張というのは、表現に技術を追い求めていったときに、それが内側、つまり自分との対話になっていく傾向があるように思います。そういった内向きに入っていく部分を、玉三郎さんは即座に読み取られて、それをもっともっと外に向けていった方が良いとおっしゃってくれました。それは僕たちも例外ではなく、同様に内側に向いていく表現をいかにして外へと意識を移していくか。その感覚の手ほどきをしてくださって、それは今までにない体験でもありましたから「あ、これは表現の幅が広がるな」という予感がしました。他にも動きの中ですぐに走りたくなってしまうところを、玉三郎さんから「もっとゆっくり」と指摘を受けるのですが、感覚を掴むのにまだまだ苦戦しています。ですが、徐々に理解できてくると、心の在り方とか、気持ちさえ切れなければどんなにゆっくりでも大丈夫だと思えるようになりました。同時に、それができるようになってきたときに、DAZZLEが今までやってきたことが、より活きてくるんだなと感じています。

 

玉三郎
・・・うん、わかってるね(笑)。

 

達也
ありがとうございます(笑)。玉三郎さんは表現における技術も知識も格段に深く、広い解釈をお持ちですから、自分たちにとって勉強になることばかりです。

 

玉三郎
今までDAZZLEさんがいい意味でがむしゃらにやってきた中、「こことここのポイントがあったらもっと広がるのに」というような感じがしましたし、様式にとらわれない、もっと直接的な観衆に対するものがストレートに伝わるだろうなと思っていました。それは他人から言われなきゃわからないことでしょう。 あと、もうひとつ大事なことは、思考の速度と行動の速度を変えることです。役者で言えば、思考の速度とセリフの速度を自在に使い分けられることです。これに対して、BLUE TOKYOのやっているバック転などの体操は、思考の速度と行動とがほぼ同じ速度なんでしょう。思考の速度と違う動きができていて、かつ、その思考が表現できれば、よりよいパフォーマーになれると思います。

 

 

■効率よく体を動かし、音楽性とドラマ性を身につけるべし。

 

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TDM ストリートダンスに対するイメージをどうお持ちでしたか?

 

玉三郎 1970年台後半に、ニューヨークやいろんなところで、ヘルメットを被ってぐるぐる回っているのを知っていました。「ああ、あれは彼らの心の叫びなんだな」ということだけは理解していました。でも、こういう形で舞台の観賞用になるってことはわからなかったです。

 

TDM
今、舞台に挑戦しているストリートダンサーが増えてきているんですが、そういう方たちにアドバイスをいただけないでしょうか?

 

玉三郎
一番知った方がいいのは、身体を効率良く使うこと。クラシックバレエがいいと言われているのは、効率よく使う方法を編み出したということです。その200年以上試行錯誤してきたいい方法は取り入れた方がいいと思います。 たとえば、軸を作るとか、身体は開いていた方が負担が少ないとか、よく飛べる方法もたくさんありますね。それだけは利用した方がいいです。できるだけ無駄な力を使わないのです。ただ、これはクラシックバレエをやりなさいと聞こえるかもしれないけれど、そういう意味じゃないんです。合気道でも剣道でもいい。軸が使えて、身体を効率良く使うことをあらゆるジャンルから勉強して、自分のダンスに活かせたら、ものすごくいい踊りが踊れるでしょう。それともうひとつは、音楽性です。あるいは、ドラマ性。音楽性かドラマ性かはどちらかに傾くんです。

 

 

■真空の理想時間を描くこと。

 

TDM
玉三郎さんは演出家でもあり、踊り手でもいらっしゃいますが、ご自分の中でその二面性についてはどうお考えですか?

 

玉三郎
僕は、24~25歳の頃から演出家になりたかったんです。あとは、早くに舞台に立てなくなるだろうと予測があったのと、舞台を観るのが好きでした。今は偶然にもやる側になりましたが、本当は観ていたかったんです。創った作品は毎日観ていますよ。

 

TDM
玉三郎さんにとって演出の魅力はどういうものですか?

 

玉三郎
理想の世界を創れること、夢の時間を創れること。この世の中に矛盾もあれば、公害があったり、世界情勢があったり、政治もあれば、いろいろあるけれど、それをまったく忘れることができる時空間。法律もない。規制もないから縛られることもない。舞台としての秩序しかないのです。真空の理想時間ですね。また、僕は4つのことを大事にしています。パフォーマンスは、“ドラマ性、音楽性、構成、個人芸”、この四本柱が大事だと思っています。これは、代々木で観た青森大学男子新体操部のパフォーマンス(※)を観ていて、ふっと湧いてきた理論なんです。まず、ドラマ性と音楽性、これはどちらが先かわかりませんが、その次に構成があって、個人芸がなければそれは、鑑賞するものとして長続きしないのではないでしょうか。

 

※「青森大学男子新体操部」:2013年7月18日、国立代々木競技場第二体育館で開かれた公演。男子新体操の演技に、デザイナー三宅一生が企画・コスチュームデザインを行ない、世界的な振付家ダニエル・エズラロウが振付及び演出を行なった。同年「FLYING BODIES」としてドキュメンタリー映画化された。

 

TDM
なるほど。今回の「バラーレ」の演出ですと、何からはじめられたんですか?

 

玉三郎
まず、音楽性。そこであの3曲を選びました。そして、あいまいなドラマ性をこの3曲は持っているんです。ストラヴィンスキー作曲「春の祭典」は生贄と再生、マーラー作曲「交響曲第四番」の場合は平安なる死、ブロードウェイミュージカル「タンゴ・アルゼンチーノ」には情熱の死という意味があります。ドラマと言っても大河ドラマじゃなくて、ひとつの音に魂としてのドラマ。それを、各作曲家が素晴らしい音楽にしたわけです。それから、それらに対して構成をしてあげればいいんです。最後に、個人が芸術として立ち上がれば、それでいいでしょう。

 

TDM
なるほど・・・達也さんの演出の大切にしていることは?

 

達也
僕は根本的に自分が観たいものが創れるかどうかです。その自分の中に思いついたイメージをいかに形にできるかが、まず最初にあります。 また、それを観てくれる人が楽しめるか、素晴らしいと思えるものになるかどうかをすごく大事にしています。さらに、出演している人や関わる人、その作品に携わっている人がどれくらい満足できるかを意識して創っています。先ほど玉三郎さんがおっしゃっていた、音楽性やドラマ性の重要性は僕の中にもすごくありますね。ダンスをやっているけれども、同じくらい映画や音楽が好きなので、DAZZLEという団体で作品を創った時に演劇に寄ってたりとか、映画に近くなったりすると見られるのは僕の中では必然です。

 

TDM
達也さんはプレーヤーでもありますが、演出との感覚の違いはありますか?

 

達也
あります。踊ることと、舞台を演出することは作品の内容によりますがかなり違います。 僕はダンスに魅了された人間だから当然踊るわけで、そのダンスの内容、振付や技術は当然意識するところです。ですが、演出という視点においては必ずしもダンスである必要はないと思っています。演出家として作品を見せることは、どんなドラマがあってどんな音楽があるか、どんな空間に衣装、そしてダンスもそういった様々な要素のひとつなんです。とはいえ僕は基本的にダンス作品しか演出していませんから、あくまでもダンスを中心に据えた構成にはなりますが…。作品は言葉と音楽があれば、その世界のほとんどは完成しています。そこにいかなる視覚効果をもたらすことができるか、その点でダンスに多大なる可能性を感じているんです。

 

TDM
18歳でDAZZLEを結成して、当時目指していたものに自分は近づいていますか?

 

達也
はい、近づいていますね。自分が大事だと思っている独自性だったり、いいなと思えるものやイメージは、ほとんど変わらずにずっと僕の中で輝き続けていて、それをいかに上手に表現できるかを追求できています。だからモチベーションが落ちたことは一度もないし、それが喜びなんです。 そして、それが決して独りよがりではなくて共感を得ることに繋がっていることがすごく大きいですね。表現者として生きていくにはより多くの共感を得なければやっていけない。そしてその背景には、様々な芸術やエンターテイメントに触れることができたこと、そしてそれを共有できる仲間に恵まれたことが最も大きな要因ですね。

 

TDM
それをDAZZLEのメンバーのみなさんと常に共有してきたんですね。

 

達也
はい、共有してくれていると思います。同じものを見て育っているし、「この作品のこれがいいよね」とずっとコミュニケーションをとってきているので。その部分での意思の疎通ができるのはチームとしては大きいことなんじゃないかなと。 やはり、同じ方向を向けないとやっていけない。分散してしまうと、チームとしても存続していけないけれど、そこは僕のことを信頼してくれているし、僕もみんなのことを信頼しているので、そういう関係が成り立っているんじゃないかと思います。彼らとともにやるのが僕の人生の1番大事なこと。彼らとダンスをしていて「ああ、幸せだな」と思える瞬間があり、そのために常に頑張っています。

 

 

■ベジャールから受けた影響。

 

TDM
玉三郎さんがお若い頃に反応してきたものと、今創っているもので変わらないものはありますか?

 

玉三郎 ものを創っているときの他人とのやりとりとか、自分が考える中での常識とか様式はあるけど、何を目指してるかは、あいまいとしていてわからないですね。自分の中では非常に掴みにくいものです。ハッキリしたものがないと言った方がいいかもしれない。 「こうなったらおもしろいな、いいな」という印象です。理屈があまりなくて、割と感覚だけで生きてきましたので、あとになって「何故だったんだろう?」と考えたときに、「あ、自分がこうだったからか」と思うことがあります。直感なんです。

 

TDM
何か今までにご自身にいい影響を与えたものはありますか?

 

玉三郎
たくさんあります。舞台演出家としては、ベジャールさん※の存在は大きいですね。様式にとらわれないで、その人のいいところスッと引き出すんです。どこのバレエ団にも受からなかった人でも、いい人材だなと思ったら、パッといい表現者にしてしまう。

 

※モーリス・ベジャール:
フランスのバレエの振付家。ベジャール・バレエ・ローザンヌを主宰。玉三郎氏とは30年以上の交流があった。

 

玉三郎
また、ベジャールさんの振付には良い意味で決まりがない。「こっちがいい。いやあっちがいい!」とどんどん変えていく。結果、振りを付けられている方も「確かにそうだな。」と思って変えていく。過去に創ったものでも、つまらなければバサリと捨てる。 他のバレエ団の見る目が劣っていたとか、活かせなかったという意味ではなくて、ベジャールさんは他とは別の見方をしているんでしょうね。世間の常識ではなく、自分の感覚を大事にしているという点において、勉強になりました。

 

 

■自作自演すること。しないこと。

 

TDM
今までで達也さんの転機はありますか?

 

達也
まさに、今です!(笑)。坂東玉三郎さんに出会って、共に創っていること、また、他人から演出をされることも僕らにとって初めての経験です。 今まで自分たちでずっと創ってやってきたので、別の方の視点から見てもらう経験はありませんでした。だから、本当に毎日が刺激的です。

 

玉三郎
そう考えると、僕たちは自作自演をやらないで来たんですね。他人からしか言われないですから、何か自分でやろうとすると「勝手なことするな」と言われてしまう世界ですから。 必ず他人が作品に介入しつつ、「代々の名演があるけど、次にお前はどうやるんだ?」「代々の素晴らしい白鳥の湖があるけどお前はどう踊るのか?」と言われたら、自作自演なんてしていられなくなる。だから、他人に見てもらわずに、作品を創るということは、私たちの観念にはないんです。どちらがいいとか悪いとかじゃなくて。自分のアイデンティティーでしか、自分というものはないんですから。

 

TDM
他人が介入している作品では、どうやって取り組むと良いのでしょうか。

 

玉三郎
ただ、素材になり切ってボーッとしてればいいんです(笑)。ベジャールさんのところへ行って「何かを創りたい。どうしたらいい?」と言えば「私に任せておきなさい。絶対悪くしないから。」と言われました。 「先に理解してやらないと悪い」と思って焦って先にやってくと、先輩からしたら僭越だと思うわけです。先に気づいたとしても、それを隠してじっと待って、先輩が困ったときに「こうですか?」と言えば「そうなんだよ」と言ってくれる。自分が歳をとってみるとわかりますが、僭越にされると、これからやりたいことを先にやられたと感じて、やりたいことがずれてしまうわけです。僕も時々後輩に「今考えてるから黙ってて。」と言います。それは「僕の意見に逆らうな。」という意味ではないことは後輩もわかっていますし、しばらくすると僕から「結局どっちがいいと思う?」と聞いて、「こっちです!」「そうだよね!」と話し合えるようないい関係はありますけどね(笑)。

 

TDM
素敵なご関係ですね。

 

玉三郎
どこでも同じです。歌舞伎界も政治家も大きな会社も人間界と同じ。大きいか小さいかだけで、いいこともあるし、悪いこともあるし、どこに行っても同じですね。ここが苦しい人はどこに行っても苦しいと思いますよ。

 

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