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YOH UENO

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ジャンルに捉われない独自のスタイルで人々を魅了しているダンサーYOH。幼少期には劇団に所属し、映画『ハリー・ポッター』日本語吹き替え版の声優を務めるなど異色の経歴の持ち主である。ダンススキルだけでなく確かな演技力で数々の舞台作品から引く手あまたな彼は、この10月に公演『- shi ka ku -Dort×IWAI OMOTE SANDO×Envision Nextage』でも主演を務める。彼の表現者としての足跡を探るべく、リハーサル真っ只中のスタジオにお邪魔しインタビューを敢行すると同時に、W主演を務めるいのまいこと、演出の遠山結子と共に、公演への想いを語ってもらった。

 


 

・YOH UENO

東京を拠点に活動するダンサー、振付師、声優、モデル、アーティスト。ジャズをベースに、様々なジャンルを混ぜた独自のスタイルを特徴とするオールラウンダー。持ち前のキレの良さとしなやかさ、語るような繊細な表現力で人を魅了する。自身の舞台やメディアへの出演以外にも、ダンス指導や振付/制作/演出など幅広い方面で才能を発揮し、精力的に取り組む。幼少から声の仕事にも携わっており、映画『ハリーポッター』シリーズ(ネビル・ロングボトム役)をはじめとする数々の作品に出演。ナレーション等で現在も活躍を続ける。Hagriとのチーム、”KEMURI”での活動はダンス界でも異彩を放ち、注目を集めている。

https://yohueno.com
https://kemuri-dance.com/
Instagram: @yoh_ueno.kemuri
Twitter: @yoh4046ue

 


 

ダンスを始めたきっかけは親が根負けして入れてくれた劇団

 

TDM:ダンスを始めたきっかけを教えてください。

YOH:幼少期に劇団に入っていたのが大きなきっかけです。小学生になりたての頃、NHKの「天才てれびくん」に出たいとゴネ続け、親が根負けして入れてくれました。劇団の授業の中では、演技、声楽、日本舞踊、そしてジャズダンスに触れていましたね。

TDM:劇団にはいつまでいたんですか?

YOH:高校生になる頃に辞めました。いろいろな事情が重なり、演じる事への情熱はなくなっていましたが、ダンスという表現方法は心から楽しいなと思っていて。ただその頃、膝の手術をして思うように動けない生活が長く続いていたので、「大学に行ったらダンスサークルに入ってたくさん踊るぞー!」と意気込んでいました。

 

 

TDM:大学ではどのようなダンスの活動をしていたんですか?

YOH:ADLというストリートダンスサークルに入り、ジャズを中心にいろいろなジャンルに挑戦していました。サークルだけでなく様々なイベントへの出演を続けていくうちに、自分のダンスの輪が広がっていって、とにかく刺激的で楽しい日々を送っていました。

幸運にも在学中にお仕事をいただく機会があり、CHEMISTRYの川畑要さんのバックアップや、レギュラーレッスンが決まった時に、こっちの道で勝負をしてみたい!と腹をくくり、フリーランスとして生きていく覚悟を決めました。

TDM:その後は順調だったのでしょうか?

YOH:実際フリーランスとして活動を始めてからは、もちろん大変で…。基本的にはキッズのダンススタジオの先生兼事務員のバイトをしながら、レッスン、振付、出演などを地道に続けていきました。約2年ほどして、週に一度も入れないような状態になり、そこでバイトを辞めました。

 

■「今のままでは通用しない!意識を変えなきゃ!」と思った

 

TDM:ダンスを仕事にする事で、ダンススタイルなど変わりましたか?

YOH:大学生の時は、とにかくキレよくパキパキと踊るのが気持ちよかったんですが、いざ仕事として関わってみると、それだけでは全く通用しない事がわかりました。
覚える振付の量や幅の広さなど、求められる技術の多さに「今のままでは通用しない!意識から変えなきゃ!」と、柔らかく滑らかなニュアンスを取り入れながら、自分のダンスを変えていきました。
好奇心旺盛な性格から、いろいろな自分が存在しているので、その幅の広さこそが”自分らしさ”かも、と思っています。

 

 

TDM:KEMURIを結成したきっかけを教えてください。

YOH:Hagriとは大学4年生のときに同じイベントでナンバーを作っていて、お互いに「すごい人がいるな」と思っていたんです。そこからお互いダンサーとして会いやすいし、気が合うしで「ちょっと散歩行こうよ」みたいな仲になっていって、その1年後には一緒にN.Yに行きました。帰ってきてからYOH+Hagriナンバーを作ってみたら、スタイルは違い過ぎるんだけど感覚は一緒という感じで何のストレスもなく出来たんです。それから彼女の提案でチームを結成してもう5年くらい経ちますね。

TDM:KEMURIというチーム名の由来は?

YOH:自分たちの中で諸説あるんですけど(笑)、2人のジャンルが違うから〝捉われない〟という意味だったり、煙は気体なので形を常に変えていくし、白い煙だったものが透明になってその辺に存在しているという事で〝どんなコミュニティにも入り込んでいける〟とか。他にもN.Yに行った時に見た、マンホールから出ている煙を連想して「この名前いいかもね」となりました。これからも2人のニュアンスはどんどん変わっていくだろうし、自分たちにはすごく合っている名前だなと思っています。

 

 

TDM:相方のHagriさんは、YOHさんにとってどんな存在ですか?

YOH:常に進化していて、尊敬しかないですね。居ないと成り立たないので、いい意味で空気みたいな感じです。そういう風に思えるパートナーシップってなかなかないと思うのでありがたいですね。彼女は最近結婚したんですけど、それでまたどんどん変わって行くのを見てて「人間て面白いな」と思ったり(笑)。最愛の人を見つけた事による気持ちの余裕というか、それによって今まで持っていたセンスにさらに磨きがかかっているのが分かる。KEMURIで一緒にやってる時は共に戦ってる感じで、その普段の生活はちょっと遠い所から感じられて、いい刺激になります。

 

■出来ない事を乗り越えて…の繰り返しがたまらなく楽しい

 

TDM:ダンサーとして転機になった事などはありますか?

YOH:学生の頃はバックダンサーの仕事に憧れを持っていたのですが、実際にいろいろな現場を経験する内に考えが変わっていきました。
とあるイベントでさいたまスーパーアリーナで踊っていた時、何万人もの目線が自分ではなく歌手の方に注がれている光景を見て「この中で自分を見てくれている人は何人いるんだろう。俺がやらなくても成り立つ仕事だな。」と強く感じてしまったんですよね。
ちゃんと自分と、自分が作ったものを見てほしい。その時に踊りながら辞める覚悟を決めました。(笑)
当時は食いっぱぐれないか不安で仕事を引き受けていましたが、お金より心の方が大切だと思いました。
梅棒公演『超ピカイチ!』に出演させていただいた際には、舞台で役をいただける事、ダンスを通じてストーリーを繋ぎ表現する事が、自分は好きなんだなと再認識できたので、それから様々な舞台に挑戦させていただいてます。

TDM:劇団の経験は、ダンスに活かされている感じはありますか?

YOH:目線の使い方、歩き方や振り返り方など、日常のちょっとした仕草をダンスに取り入れられるという点では、かなり活きていると思います。
舞台上で求められるのは、その役柄としての人生を生きる事。気持ちが途切れないように繋いでいく事。ここまでやるとくどい、逆にこれだと伝わらない、というバランス感覚があるのは強みなのかなと…
呼んでいただく度に知らない自分に出会って、その度に進化していける。そうやって自分の引き出しを広げてくれる環境が周りにたくさんあるので、そこで刺激をもらいながら進んでいます。

 

 

■ダンスに限らずクリエイティブな事をずっとしてたい

 

TDM:どんな時に振付や作品の発想が出てきますか?

YOH:イベントや舞台を観に行くことももちろんありますが、ダンスじゃないものをダンスに落とし込む事を意識しています。映画を観たり、美術館に行ったり、写真を撮ったり、人と話したり…そこで感じたものを、自分の動きとして具現化してみるようなイメージです。景色から衣装を連想したり音から空間を想像したり。
ただ、常にアンテナを張る癖がついてしまっていて、脳が休まらない事も多いので、ひたすらボーッとする時間を作ったりしています(笑)

TDM:今後の目標や、理想のダンサーライフはありますか?

YOH:実はあまり明確なビジョンはなくて、自分の目の前にあることと、少し先の未来を見つめて頑張っています。
好きでやっている事がどんな風に結びついて、数年後どこに行き着くのかを楽しみに生きています。

 

 

TDM:その中でも、何かやってみたいとか挑戦してみたい事はありますか?

YOH:ダンスのジャンルでいえば、一度バレエに触れてみたいです。他にもまだやった事のない踊りがたくさんあるので、いろいろなエッセンスを取り入れていけたらなと思います。
ダンス以外では、セリフのある舞台や、ナレーションではなく役を演じる声優としての仕事にも再挑戦したいです。
写真を撮ったり服を作ったり、ダンスに限らずクリエイティブな事を続けて、ワクワクしながら表現の幅を広げていきたいですね。

 

 

★『- shi ka ku -Dort×IWAI OMOTE SANDO×Envision Nextage』特別インタビュー

 

TDM:YOHさんは10月13日から開催される『- shi ka ku-』に出演されますが、このお話を受けた理由を教えてください。

YOH:受けた理由は〝人〟ですね。誘ってくれた演出のゆうさん(遠山結子)をはじめ、一緒に踊るのがまいこ(いのまいこ)という事と、照明のDortの方たちにも絶大な信頼を置いているし、制作も信頼出来る摩耶さん(松居摩耶)だし、結婚式場で踊れるという事もあって、呼んでいただけてありがたいと思いました。

 

 

TDM:YOHさんから見て、いのまいこさん、遠山結子さんはどんな方ですか?

YOH:ゆうさんは人間に過度なくらい向き合う人。それで疲れちゃう事もあると思うけど、その人から何を引き出せるかを常に考えていて、人のいい所ばかり見つけるようなタイプです。まいこは、エネルギーがあってパワフルで、踊り始めたら一瞬で周りの空気が変わるような、人の目をすごく惹く素敵なダンサーです。踊っている時と、普段の騒がしさと(笑)ここまで振り幅がある人もなかなかいないと思いますが、そこが皆が夢中になっちゃう魅力かなと思います。

TDM:『- shi ka ku -』はどんなスタイルの公演なんですか?

遠山:一棟貸切型のダンス公演で、空間を移動していくイマ―シブシアターに近いスタイルです。ストーリーはありますが、物語を理解していただくというよりは、作品の世界を生きるみんなを通して、お客様が何を感じるかを大切にしたいですね。

YOH:主演二人のどちらかのバージョンを選んでいただく形なんですが、僕のバージョンで観るか、まいこのバージョンで観るかで、物語を見る視点はだいぶ変わってきますよね。

遠山:そうですね。男性の主人公の気持ちを軸に描いたYOHバージョンと、女性側の視点で描いたまいこバージョン、両方見た人にしか分からない2人の気持ちの動きがあると思います。

 

 

TDM:どんな作品づくりを目指していますか?

遠山:まず一番に目指しているのは〝自然に心が動く時間を作りたい〟という事です。私たちダンサーはいい意味でも悪い意味でも、感情のショートカットが出来るというか、シーンに合わせた気持ち作りをしてしまうと思うんです。
それを今回に関しては、背伸びしたり、無理に感情を操るんではなく、等身大で物語を生きてもらって、そのキャストたちと同じ空間にいるお客様が率直に何を感じるか。解釈を押し付けずに、見ている人の心の動きや人生経験によっても、自由な捉え方ができるような作品になればと願ってます。

それが出来るなと思ったのが、主演2人と初めて稽古をした時です。私は、2人の踊ってる姿の印象が強くて、ダンサー界の真ん中にいるようなイメージがあったので、急になんか手を繋いでくれたような感覚になりました。「あれ?普通の人間だ!」みたいな(笑)。ダンサーの面がありつつも、“上野容”と“いのまいこ”という人間像が踊りの中に見えた瞬間、この2人ならできる、と思いました。

TDM:演出家として意識されている事はありますか?

遠山:このような公演全体の演出を任されたのは初めてなんですけど、私が大切にしているのは、私がやりたい事にだけ寄ってもらうのではなくて、一緒にやる人たちの良さをどんどん引き出すという事ですね。みんなが持っているものに気付いて、「このメンバーだったからこうだよね」となれたら唯一無二だなと思っています。いろいろなタイプの人と一緒に作り上げるのがすごく好きなので、今回ここに集まった一人一人の魅力や人間性をしっかり引き出して、掛け合わせていきたいです。

TDM:まいこさんは、今回のお話をいただいてどう思いましたか?

まいこ:正式にお話いただく前に、そういう企画がある事は聞いていて、素敵な空間になるんだろうなと思ってたんですが、主演のお話をいただいて、「え?それ私ですか!?」みたいな感じでした。しかもYOHとダブル主演と聞いて「YOHとだったらやりたい!」と思いました。きっと恋愛的な要素が含まれるストーリーになると思ったのでやっぱり男性像はすごく大事で。YOHとだったらイメージが湧いたので、まず「YOHがどんな返事なのかを聞きたいです」と言ったのを覚えています。

 

 

YOH:そうなんだ!嬉しい!(笑)僕はもちろん「ぜひやらせてください」とお返事しました。他のお仕事との兼ね合いがどうなるかとかは多少ありましたが、このメンバーだったらやりたいと思いましたから。

TDM:お2人が共演するのは初めてですか?

まいこ:そうですね。出会ってからは7~8年くらいになりますが、公演という形で密に関わりを持ちながらストーリーが展開していくというのは初めてなので、今がタイミングだったのかなと思います。YOHとは、舞台の上でもリハの期間も一番濃厚に接すると思うけど、ダンスじゃない所を含め今まで共有してきた時間を舞台に乗せられるのかなと思うと、すごくワクワクします。

TDM:最後に、観に来るみなさんへメッセージをお願いします。

YOH:本当に「こういう気持ちでいらしてください」みたいな思いはないので、ただただその場所と僕らから何が生まれるのかを観に来てください!
率直にどういう受け止め方をしたのかを知りたい!(笑)だから、見た後に感想を送ってください(笑)。

遠山:私もYOHさんと似ていますが、出来るだけ日常の延長線上にあるような、フラットに物語を体験できる時間と空間を目指しているので、「いつもの自分で来てください」という感じでしょうか。普通の一日の中で、ちょっと気付きのあるような時間になれたらいいなと思います。

まいこ:前のめりに〝ダンスを観に行く〟という感覚ではなくて、〝観察〟しに来て欲しいという感じです。ただ同じ空間にいて、繰り広げられている事をただ受け止めていて欲しいし、じっくり見守っていて欲しい。そんな空間を味わいに来てほしいなと思います。

 

 

TDM:『- shi ka ku -』楽しみにしています!今回はありがとうございました!

 

photo by AKIKO

interview&edit by Yuri Aoyagi

’21/10/11 UPDATE

 

『- shi ka ku -』の詳細はコチラ!

 

 

 

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tokyodancemagazine

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