「ダンサーが社会でどんな立ち位置に発展していくか?」の可能性は計り知れない。KITEとMAIKOはどちらもダンサーの中でもタレント性が高く、ストリートダンサーというフィールドの代名詞的な存在として新しい形のアーティストになれる器の持ち主だと思う。夫婦として、ビジネスパートナーとしての相乗効果。会社を創設し、ダンスクリエイター集団Acanthus(アカンサス) を作った2人がこれからどんなセンスを見せてくれるのか。未来に感じていることと、等身大の今思うことを聴いてみた。
- KITE
国内外の様々なコンテスト、バトルで優勝経験を持ち、海外でのジャッジやゲストダンサーとして招かれている日本を代表するポッパー。パフォーマーとしてだけでなく、その活動の幅は広く、2012年、日露合同 公演『The Battle』出演、同年、UK映画『STREET DANCE II 3D』出演。2015年、アメリカとの舞台「WEST SIDE STORY」では総合振り付け兼ダン サーとして参加。2011年、麻布十番にダンススタジオ『Studio Luv 4 Dance』を設立。2016年1月、会社「A Boog & Do, LLC」を設立し、今後は、ダンスを通じ様々な人と触れ合い海外との繋がりを広げ、日本と 海外の架け橋となって今以上にダンスシーンに貢献出来る活動をしていきたいと考えている。
- MAIKO
幼少期よりプロダンサーを目指し、モダンバレエ、新体操、器械体操を経てダンスの世界へ。ダンスチーム東京★キッズメンバーとして国内外のイベントやTV、雑誌等に出演する他、数々のアーティストバックダンサーなどをつとめ、2011年からは主に振付師として活動。きゃりーぱみゅぱみゅのほぼ全ての曲を振付。
2016年ASTERISKで数年振りのステージ復帰を果たした。今年からはKITEと共に振付パフォーマンス集団アカンサスを立ち上げ、多方面で活動中
■今まで交わらないと思っていたものが、一つの線で繋がったんです。
TDM | : | 今年1月にAcanthus結成を発表されましたが、そのきっかけは? |
KITE | : |
以前から、MAIKOと何かをしたいと話していて、周りからも絶対一緒にやったほうがいいとずっと言われていました。でも、僕はバトルやコンテストなどアンダーグラウンドなシーンとつながっているし、一方で、MAIKOはCMやアーティストの振付などメディア業界とつながりが深いので、互いに交わる部分が見えていませんでした。踊りの違いとしては、僕はオールドスクールでMAIKOはジャズベース。アンダーグラウンドから要求される踊りと、メディアから要求される踊りという意味でもまったく違います。メディアからはメッセージ性やインパクトのある動きが求められるのに対して、アンダーグラウンドでは、どれだけ昔からのスタイルを踏襲した上で進化していけるかが重要です。支払い方ひとつとっても、僕らは茶封筒で受け取りますが、MAIKOは請求書で振り込まれる。その金額にも、事実、差があります。MAIKOは自分のダンススタイルが出来上がっているので、それを要求に合わせて表現を変えていく作業ですが、僕は今までのスタイルを守りながら常に進化し続けていく作業をしています。こんな僕らは交われないんじゃないかと思っていました。そんな中で、何度かMAIKOの手伝いでメディアの仕事をしていく中で、「こういう関わり方ならアリかもしれないな」と思う機会が何度かありました。
中でも、きゃりーぱみゅぱみゅちゃんの「CANDY CANDY」のMVにお面を被って出た時に、オールドスクールの王道な動きをわざと入れたら、それがキャッチーだと捉えられました。僕らの周りでは、格好は被り物でキャッチーなのに、あのスタイルをやるんだ!と笑いになったんです。
両者からの見え方は違っても、誰からも否定されずに、一つに成立したんです。
僕としては顔を出してただ踊るのではなく、被り物をして顔を隠して踊ったという見せ方も、周囲から受け入れられた要因だと思います。結局、踊りだけでバレましたけど(笑)。でも、そのバレ方で良かった。
僕はメディアでの仕事をする時に、いつも先輩に相談していまして、「やらなくていいよ」と言う方もいれば「やってみていいと思うけど、扱われ方には気を付けろよ」など、賛否両論です。
できるだけ、仕事では僕のスタイルをやらせてほしいとお願いしますし、それを見て周囲にも納得してもらえるし、メディアの世界と繋げることもできて、広がっていくんですよね。
メディアの仕事でもちゃんとアンダーグラウンドにも理解されるようなバランスとやり方が、僕とMAIKOならできるんじゃないかなと思った時に、今まで交わらないと思っていたものが、一つの線で繋がったんです。
その後、いくつかきゃりーちゃんのお仕事をやらせてもらう中でも、自分のスタイルで躍らせてもらいました。ツアーに参加させてもらった時は、キノコの格好でしたけど(笑)。格好はコミカルでも、踊りは本気でやる。それが、次第にやり甲斐に感じられるようになっていきましたね。 |
■果たしてずっと踊り続けられるのだろうか?
KITE | : |
去年、骨折と腸の手術で一切踊れない時期がありました。その時に「僕が動けなくなるということは、一気に収入源が無くなるし、息子がいる今の状況でそれはまずい。果たしてずっと踊り続けられるのだろうか?」と、初めて自分の行く末を考えたんです。そこで、僕が踊れなくなったとしても仕事が回る状態を作ることができればいいんじゃないかと思いました。きっと後輩たちにも見せていきたい将来の可能性だから、その道を作っていかないといけないな、と思ったんです。僕たちは体が資本で、保険で守られているわけではないので、怪我をしたら仕事は止まります。復活したところで仕事が戻る確証もない…そんな状況をMAIKOにも相談していました。そこに、ずっと僕ら夫婦のことを心配していた僕の親父が「お前らこれからどうするんだ?」と入ってきました。「頑張ってるのはわかるけれども、子供もいるし、将来が不安に感じるなら、会社を起こして、何かを残せる場を作ったほうがいい。」と。「じゃ、力を貸して欲しい。」と言ったところ、「親父としてこれが最後の手助けだ。」と言ってくれました。
昔からとても厳格な父で、今まで援助してくれたことはほとんどなく、僕も反骨心があり、親父の手をあまり借りたくありませんでした。ただ、「会社のベースを作ってやるから、それを広げるのも潰すのもお前らのやり方次第だ。」と歩み寄ってくれたので、起こすことができました。
また、メディア関係の方にも、ただ起業するだけではなく、団体を抱えることでいろんなメリットがあるよと言ってもらい、Acanthusという団体を作ることにしました。
そこで次に悩んだのが誰に声をかけるか…。 |
■選ばれた精鋭たちの適材適所。
KITE | : | 僕が一つ懸念したのは、僕の周りのオールドスクールのダンサーは、いわば柔道家や剣道家に相通ずるような、頑固さと職人気質があるので、メディアからの奇抜なオーダー、例えば、ワンピースやスカートを履いて踊ることにも「おもしろそうですね、やってみましょう」と応えてくれるかどうかです。それまでの自分のスタイルを崩す行為になりかねないので、なかなか難しいんではないかと思っていました。…が、実は僕の周りにはそういう人しかいなかったんです(笑)。 意外と、見渡せばそういうメンツが結構いまして、まず浮かんだのは、RYUZYさんです。先輩でもあり、いろんな悩みを聞いてもらいながら、一緒にシーンで踊ってきている方。Acanthusの話をした時に、RYUZYさんも僕と似たような将来のビジョンを持っていたので、即答でOKしてくださいました。あと、BBOYの2GOOはもともと仲良くてノリもいいんですが、仕事としての向き合い方もキチンとしていたので、声をかけました。 近い世代だけではなく、後輩もメディアに引っ張りあげたいという気持ちもあって誘ったのが、LUCIFER(KAZANE,ERIKA)とFUNKAHIPS(SAYA,MAO)でした。誘った時に、2組とも将来を悩んでいました。キッズからずっと踊ってきて、年齢としてもキッズではない今、コンテストやバトルで上位に入ったり世界に招かれたりしてきて、これから先にどうしようかと。そこで、ひとつの経験としてAcanthusをやってみないかと聞いたら是非やってみたいと言ってくれました。
MAIKOの周りには、頭の回転が早く、いろんな経験値を積んでいて、ちゃんと意見が言えてリーダーシップを取れる人が多いです。そのつながりから、MEDUSAを誘いました。僕の同い年で、昔からダンス以外でも仲が良く、今でもアキちゃん、または、バボちゃんと呼んでいます。
MAIKOから「アキちゃんはどう?」と言われた時、正直迷いました。なぜならアキちゃんはグイグイ攻める性格で、ノリ的にも僕と同じものを持っているし、そこに男気と僕にはないマメさもある。そんなアキちゃんとやることは、もしかしたら僕とぶつかるんじゃないか・・・と思ったんです(笑)。MAIKOはずっと「そんなことない。大丈夫だよ。」と言っていたので、OKしましたが、結果、初顔合わせのPV撮りで、結構うまくいくことがわかりました。
全メンバーそれぞれが、それぞれの役割を認識してくれていたんです。アキちゃんは衣装のことをやってくれたり、RYUZYさんは映像クリエイターとしてのセンスから、意見を言ってくれました。
全体を僕がまとめつつ、抜けてるところをMAIKOが突っ込んでくれて、クルーとしてうまくまとまったので、これは面白くなりそうだなと思いましたね。
それからすぐに最初の仕事として日本生命のCMの仕事が決まりました。 |
■このクルーならこれからもっと面白いことができそう
MAIKO | : |
先日の日本生命のCMがAcanthus初の大きな仕事だったんですが、実際に仕事をやっていく中でそれぞれの良さやスタンスもわかって、クルーとしてとても意味のあるお仕事でした。
ただ、初めて一緒に組むダンサーたちということと、撮影の仕方が珍しかったことと、まとめ役のKITEが本番だけいなかったんですが、本番で大幅に変わったこともあって、大変なことが多々ありました。ですが、みんながすごく協力して動いてくれたのでうまく回ることができました。現場での急な変更や、普段踊り慣れてないであろう私の振付にも、すごく柔軟に対応してくれてやり易かったですし、このクルーならこれからもっと面白いことができそうだなと、感じました。
本番の日は、RYUZYさん率いる男子軍団が私のところに来て「KITEいないけど俺らがいるから大丈夫だぞ!」って言いに来てくれたのも心強かったです。 |
TDM | : |
そういった心遣いやコミュニケーションが取れるかは、ダンサーである前の1人の人間としてすごく大切なことですよね。 |
KITE | : | それはすごく感じますね。特にオールドスクールのシーンは縦社会なので、人としてちゃんとしていないことは先輩から見抜かれます。ただいい踊りをしているだけではダメな部分があって、イベント終わりの乾杯をすることによって、人と人との繋がりができていきますし、僕はそのつながりに参加して来てよかったなと今でも思います。
仕事を受ける時も、相手はどんな人なのかを見るようにしています。この人は頼れる人なのか、仕事としてキチンとしているのかとか。そして、なんとなくその人となりがわかっちゃうので、僕の対応も相手によってあからさまになってしまいます。
たくさんの人間がいる現場では、誰に権限があるのかが見えてきます。戦いで言うと、歩兵、武将、将軍がわかってくる。歩兵の人から権限が必要な話をされてもラチがあかないので、「あなたの上の武将の人を呼んできてください」と話したりします。 |
MAIKO | : |
それを隣で見ているときの私の気持ちはいつもヒヤヒヤですよ(笑)。 |
KITE | : |
いや、これはもうね、僕の家系なんで、しょうがないんです(笑)。何か揉めたときに「あなたじゃ話にならないから上の人を出して。」と言う両親でした。親父に、「なんであそこまで言うの?」と聞いたところ、「間違ったことに対して間違ったと言うことは当たり前。だから、俺は交渉する。交渉相手を間違えると話が進まないからそれを見極める。」
あと、親父はちゃんと納得できる理由を説明されると引き下がりますが、マニュアル通りの対応をされたときに納得ができない。だから、そんな親のやり方を見てきたので、僕も引くところは引きますが、ここはどうしても引けない、守るべきところを俺が守るしか無いと思ったところにきちんと物申してしまいます。
そういう親譲りの人間なので、今では周りにいる人が、俺がまもなくキレそうだなと予兆がわかると、その前に相手と話したりしてことを納めにいってくれることもあります(笑)。 |
■仕事を選ぶ勇気。ゆとり。
MAIKO | : |
あ、でもRYUZYさんが「あれ?最近KITEキレないね?」って言ってたよ(笑)。 |
KITE | : |
そうなんです、子供ができてからキレることができなくなってしまったんです。息子が笑顔で「おかえり」と言ってくれる家にカリカリした気持ちのまま帰るのは嫌だなと思うようになってきました。そして、最近では普段から笑顔でいればいいんじゃないかと思い始め、そうすると、キレる前に考えて待つようになり、タイミングが今までより遅くなってきました。
今まで後輩のミスに対しても、ピークに達したらすぐにキレていた俺が、最近は何も言わなくなってきたので、逆に怖くなったようで、自分から弁解しに来るようになってきましたね。
あとは、RYUZYさんたち先輩と関わることが増えたことで、心が広いと思うことが多々あり、大人の考え方になってきたのも影響しているかもしれません。自分の中でいろんなブレーキができてきました。 |
TDM | : |
人として、ひとつ高いレベルに入ったのかもしれませんね。 |
KITE | : |
そうかもしれないですね。仕事もそうなんですが、キレてる暇はないというか、無駄を省くようになってきました。今までは「とりあえず、仕事もやりたいことも全部やろう」と思っていましたが、息子ができたことによって「捨てられるものは捨てて、やるべきことだけを選んでやろう」という感覚になってきました。前は、捨てることで、もう誘ってもらえないんじゃないか、仕事が減るんじゃないかと、とても後ろめたかったんですが、全部やった結果、キャパオーバーになり、すべてが中途半端になることが多かった。
今は10個中3個しかやらなくなりましたけど、そのぶんその3個が濃くなり、その3個から新たに広がっていくようになりました。MAIKOがもともと濃くするタイプですね。スケジュールの組み方もゆとりがあるけど、僕はパンパンでしたから(笑)。断る大切さも学んできました。 |
■常に輝かせていたいし、かっこよくいたい。
TDM | : |
今のダンスシーンはどんな状況に見えていますか? |
MAIKO | : |
最近のメディアに出るダンサーは決まった顔ぶれだなという印象があります。でも、メディアに出ていなくても、アンダーグラウンドにいる人たちの技術は素晴らしいものだし、もっとメディアの人たちにも見てもらいたいと思っていました。それがAcanthusでの目的のひとつにあります。そして、わたしたちの強みは、技術はもちろん、ジャンルも幅広いのでいろんな仕事に対応できる所です。 |
KITE | : |
今は昔と違って、舞台で頑張る人や、SNSに自分のダンス動画をあげるなどセルフプロデュースで世界に発信していく若い子が多くなったと感じています。それに対して、企業はどう動いてくのかも見ています。今後、会社として時代に合った形で勝負したい意識と、自分自身の人生としてもこれから形にしたいという意識でAcanthusに向き合っています。 |
TDM | : |
今後のAcanthusの展望を教えてください。 |
KITE | : |
立ち上げた以上、常に輝かせていたいし、かっこよくいたい。毎回大きな仕事だけをやるのではなくて、自分たちがやりたいことをきちんとやって光っていきたい。その形は仕事でも遊びでもよくて、その中で、それを見てくれる人がいたら話を振ってもらえるだろうし、それまでに自分たちも成長しなくちゃいけないし、そのために覚悟や学ばなきゃいけないことがたくさんあります。まだまだ先が見えているわけではないので、いわゆるチャレンジしかないんですが、あのメンバーと必死にやれば必ずいいものができると思っています。 |
MAIKO | : |
メンバーのさらに下の世代の小学生たちとも、何かいい影響を与えられるようにしていきたいです。現場に連れていったり、仕事をお願いできる日が来るといいなと思ってます。あとはいつかAcanthusで舞台作品作ってみたいですね。 |
KITE | : |
はい、大きな目標の1つですね。このメンバーでできることを見つけながら、スタッフさんとも出会いながら、メディアにもアンダーグラウンドにも響くような作品を作ってみたいです。 |
TDM | : |
ぜひ、その作品を拝見できることを楽しみにしています!今日はありがとうございました! |
interview by AKIKO
photo by imu
’17/08/05 UPDATE
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