確かなダンススキルと豊かな発想力を武器に、数々のBIGバトルで輝かしい実績を残すHIPHOPダンサーKENTO。N.Y.のオリジネイターや世界中のアンダーグラウンドシーンで活躍するダンサー達とも親交が深い。そんなKENTOが昨年著名実力派ダンサーと未来を担う若手ダンサーを起用し、バトルシーンを熱く盛り上げて来たバトルイベントUNIONを2年ぶりに復活させた。世界のバトルを経験してきた彼に、UNION復活の経緯、バトルへの想い、ダンサーとしてのこだわりなどを語ってもらった!
・KENTO(S.T.O/KENTO&CANDOO)
90’s黄金期のHIPHOPに様々な要素を加えオリジナルスタイルの確立を目指す。
様々なバトルタイトルの獲得、その功績により日本代表として世界のダンサー達と戦ってきた。ヨーロッパで開催されたFUNK’IN STYLEでは二位、SDK(STREET DANCE KEMP)では世界一位に輝いている。
ヨーロッパやアメリカのオリジネイター達とも親交が深く、彼等と共に世界のコンテストジャッジやワークショップを行い、HIPHOPダンスの普及に努める日本を代表するダンサーの一人である。
優勝
「DANCE@LIVE」「JUSTE DEBOUT JAPAN」「NEW SCHOOL BOX」「G-SHOCK REAL TOUGHNESS」「WDC 」「HOOK UP」「SDK crew」
■ いろいろな人との縁をバトルが繋いでくれた
TDM:最初にダンスを始めたきっかけを教えてください。
KENTO:テレビでZOOが出ていたJR SKI SKIのCMを観たことです。猿のメイクをしたZOOのメンバーがスキー板を持って踊っていて「なんてカッコいいCMだろう!」と思いました。そこから、ダンスのことを調べたりビデオを買って観たりして、17歳のときに先輩からTAKUYA(現 New School Order)さんが横浜の野外でレッスンしていると聞いたので行ってみたんです。
そこでは、ドレッドでFILAのセットアップを着たTAKUYAさんが、でっかいラジカセを持って「はい、やるよ~」って来るのが最高にカッコよかった(笑)。そして、大学に入ってから、知り合いを通じて立教大学のダンスサークルの練習に通うようになって、当時のAOYAMA NIGHTなど有名なダンスイベントに行ったりして、シーンのカッコいいダンサーたちが踊っているのを間近で見てどんどんハマっていきました。
TDM:そこからどのようにバトルで活躍するようになったんですか?
KENTO:近しい先輩にCHITOさんがいてレッスンも通って、体形も似ていたので最初はCHITOさんの真似をしてましたね。そこからRYUZYさんやBOBBYさんのレッスンを受けたりして、大学を卒業する頃には、少しずつショーでお金を貰い始めていました。
それから「迷彩」というチームを組んだんですけど、暫くしてメンバーとスタイルの方向性が合わなくなって脱退、縁あってCHITOさんたちと「SPEED STA」というチームを組みました。そこでもメンバーとスタンスが分かれてきて、俺はバトルに力を入れるようになったんです。
そんな中、憧れていたO-SHIMA(BUTTER)さんやRYOSUKEさんと知り合い、RYOSUKEさんに誘われた2on2のバトルの決勝戦でBUTTERの2人と戦えて、その4人の輪に自分が入っていた事が本当に嬉しかったのを覚えています。同じ頃無名の自分が「THE GAME」のTOKYOで優勝候補者を破るなどしてトーナメントを勝ち進んでいくと大阪の大先輩から「君誰なん!?」って言われたり、だんだん周りが注目してくれるようになっていきました。
TDM:ダンス人生の中で、転機になった出来事はありますか?
KENTO:2011年のStreet.Dance.Kemp(ストリートダンスケンプ/以下SDK)※1に参加したことです。世界中から有名なダンサーたちがチェコに集められワークショップを行うキャンプです。夜には各ジャンルのバトル、そしてメインイベントに各国代表同士のCREWバトルがあります。毎年日本からも錚々たるメンバーが行って輝かしい成績を残しているのを知ってたので、CREWのコーディネートをしていたHIRO(ALMA)さんから「KENTO、SDKいくか?」って電話があったときは、嬉し過ぎて「俺でいいんすかっ!?」って叫びました。初めて海外にダンス関係で行ったのがこの時で、32歳。それまで旅行でグアムとかしか行ってなかったので(笑)衝撃が強すぎましたね。
毎晩のバトル、そこでヨーロッパのダンサーたちとも知り合って、バトル後もサイファーやって朝まで遊んで、朝からまたワークショップって生活。そこには音楽とダンスしかない。「こんな楽しいところがあるんだ!人生で一番楽しい!」と思えました。さらに、国対抗のCREWバトルでは優勝。ソロもHIPHOPで、たしか日本人で初めて予選通過。HIROさんから「お前連れてきてよかったよ!」って言われたのは一生忘れません。
SDKから帰ってきてDANCE@LIVE FINALで優勝したんですけど、絶対この経験のおかげ。当時無名だった俺を引っ張ってくれたHIROさんには本当に感謝してます。そうやって、いろいろな人との縁を全部バトルが繋いでくれたから、俺もUNIONをやってるのかもしれません。
※1 Street.Dance.Kemp:毎年7月にチェコで行われていたダンスの祭典。野外&キャンプ形式で行われる。
■UNIONから世界に出ていけるダンサーが育って欲しい
TDM:2010年当時にUNIONを立ち上げたきっかけはなんですか?
KENTO:O-SHIMAさんが誘ってくれたました。約2カ月に1回の開催で26回続きました。一旦滞ってたのですが、せっかく海外のバトラーを呼んだり、今活躍しているダンサーもたくさん出ていたので、もう1回復活させたいと思いO-SHIMAさんに許可を得て去年から自分がやることになりました。
TDM:UNIONでこだわっているポイントはどこですか?
KENTO:自分の経験から、こんな環境やジャッジだったらいいなと思ったことを形にしています。今まで散々バトルに出てきたけど、やっぱり何度出ても緊張するんですよ。前の晩は寝れないし、バトル中何回トイレ行くかわからない(笑)。参加する人が過度に緊張せず、いろいろ惑わされる事を削ぎ落として、一番戦いやすい環境にしたい。
ジャッジにはその全員を納得させたら少し世界に繋がるんじゃないかと思わせてくれる、それぞれの価値観、観点を持つ4人を呼ぶようにしてます。1人1人をちゃんと評価してくれる方をブッキングしたいです。
そして、ジャッジの中には「これからも絶対活躍していくだろう!」という若手を1人入れたくて、前回はフランス本国のJUSTE DEBOUTでベスト4にもなっているLEO、今回は活躍めざましいVIBEPAKのTakuyaに入ってもらってます。そういった若い子たちと大御所、今回はSTRETCHなどが一緒にジャッジするということに大変意味があって、その全員がフラッグを上げたら個人の価値観を越えて本当の勝ちになる気がしますよね。ここで強くなっていって世界で活躍できるダンサーが育って欲しいんです。
TDM:若い子をジャッジに入れることに賛否両論はありませんでしたか?
KENTO:賭けな部分もありました。正直言うと、前回はジャッジの名前をあげると微妙な反応をされることもありました。でも、その理由と想いをSNSなどで伝えていったら周りも徐々に理解してくれるようになりました。そして、結果「若い子を入れたのはよかった」という感想がすごく多かった。ただ戦うだけじゃなくて「現役一線の若い子の目線からではこういう踊りが評価されるんだ」というのが見える。それを大御所の評価と比べることによってまた理解が深まるし、多方面から評価される環境に一歩足を踏み入れられる子がさらに多くなると思います。
TDM:UNIONの今後の目標を教えてください。
KENTO:海外の人たちも出たいと思うようなイベントにしたいですね。一番の理想はオランダで行われるSummer Dance Forever。演出もし過ぎずシンプルだし、ダンス力が試されるシステムで、HIPHOPやHOUSEバトルで一番レベルが高いんじゃないかと思う。MCのJOHNさんもアツいし、空気感がいいんです。あんなイベントにしたい。バトルは自分のダンスを一番見せれる場所だし、自分をプレゼン出来る場所なので、そういう場所にUNIONもできたらと思っています。
■「すごかったね」「今日ヤバかったね」って言われたいのが一番
TDM:KENTOさんが感じるバトルの醍醐味とはなんですか?
KENTO:いっぱいあるんですけど、例えば、昔のダンスフロアでのバトルの場合は“いい踊りかどうか”より根性論に近くて「俺は負けじゃない!」って言ったら負けじゃない。その点、コンペティションのバトルはクリアな評価が今の時代に沿っていると思います。ダンスの上手さ、気合い、HIP HOPが好きという想い、どれでも会場をロックしたら勝てるし、それ故いろんなスタイルが評価される。それに、キャリアに関係なくみんな同じ土俵で戦い合える。バトルが一般化して良かった部分はそこかなと。
どんな言葉より理論より実際踊ってる姿にダンサーは心動かされる。しかもみなが同じ土俵に立つバトルでその追求してきた姿を見せてしっかり反応があった時の嬉しさ。そしてダンスでぶつかり合うとケンカした後のように相手と分かり合える。そういうのが大好きです。それでたくさんの人と“仲間”になりました。
ストリートダンサーって人種は「すごかったね」「ヤバかったね」って言われたいのが一番。優勝賞金はむしろ副賞。いいダンスがその瞬間出来たかどうかが一番大事でその反応が分かり易い舞台の一つがバトルです。
TDM:バトルにおいて、日本と世界の違いはなんですか?
KENTO:世界では型にはまらず自由な発想を武器に戦い合っています。人それぞれのHIPHOP感を持ちながらクリエイトしてぶつけ合う感じですね。
リリックを理解できる英語力もあると思います。自分も含め日本人は英語が苦手な人が多いから、リリックが分かる外国人から見て違和感がある動きをしてるのかもしれない。音でしかとってないから、歌詞を含めた音楽として聞く外国人ジャッジと日本人で評価が全然違ったりするのかも。
TDM:バトルシーンはこれからどうなっていくと思いますか?
KENTO:バトル人口は減らないと思いますが、1つ1つの規模、会場のサイズ感は縮小していくかなと思います。2万人規模のバトルなども経験してきた中で、果たしてそこでダンスの一番良い所がちゃんとお客さんに伝わっているのか、というと疑問があります。特にHIP HOPは会場が大きすぎると熱が届かない場合が多い。だから、カッコいいかカッコ悪いかより、凄いことをしたとか、どれだけ沸かせたかが評価が高くなる。
視覚や感覚の距離感の大事さというか、いいダンスを見たい場合はある程度のクローズした空間がないと本質は伝わらないんですよ。ダンスを深く知っていけば、必ずもっとダンスの本質が見たくなってくるので、そういう意味でもうちょっとクローズした空間になっていく気がしますね。
■人より秀でてる部分の見せ方で勝負する
TDM:KENTOさんが踊りで大事にしてることはなんですか?
KENTO:人と同じにならないことです。レッスンでも、身体の使い方やステップは教えるけど「俺っぽくなっちゃダメ」と言っていて、どうやったら自分自身がカッコよく見えるかを分析させています。俺は体も小さいし、決して恵まれた武器がないんですよ。でも小さいという事がパーソナリティ、身体も利くからそこを強みにしてステップの複雑さや軽快さ、足腰の強さという人より秀でてる部分の見せ方で勝負しようとめちゃめちゃ頑張りました。
TDM:最後に若いダンサーや読者へメッセージをお願いします!
KENTO:最初は誰かの真似でもいいけど、人に何かを伝えるようになったり、本当の凄さに近づきたいと思ったらそこから出なきゃダメ。誰かっぽいっていうのをなくさないと、本当の自分への評価は得られない。 レッスンを受けてるなら、最低限「その先生を超える!」という気構えでレッスンを受ける。自分はそうしてました。
あと音楽かな。その時代背景を完全に把握してなくても曲名の意味を調べるだけでその曲への理解、踊り方が全然変わる。バトルトラックにも曲名はあるし、HIPHOPなら尚更。自分もただ踊るばかりでなかなか曲に対する理解が及ばなかったので若い人には早く気付いてほしいです。
そして英語!コミュニケーションツール!これはこれからの世代には絶対マスト!踊り合いだけでのコミュニケーション以上の物が会話からも生まれるし先に繋がる。もっと若い頃に勉強しておけば良かったと思う場面が多々ありました。
日本は世界から見てもダンス大国で、理解の深いOGが今なお現役で踊り続けてくれています。この恵まれた「島国の環境」に甘んじず上の世代の知識を引き継ぎながら世界中の素晴らしいダンサーと肩を並べるダンサーが増えていってほしいです。ただ奇抜に発想のみでなくストリートダンスとしての本質をなくさず、無限に広がる可能性を狭めないようにして下さい!
TDM:貴重なアドバイスありがとうございます!本日はありがとうございました!
Interview by Yuri Aoyagi
photo by AKIKO
’19/2/25 UPDATE
★UNIONの詳細はコチラ!
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