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熊谷拓明

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前々から“踊る「熊谷拓明」カンパニー”の事が、気になっていた。サーカス集団・シルク・ドゥ・ソレイユ帰りの身体性を持つダンサーではあるものの、彼から発信されているのはごくごく日常的な時間の中にありそうなあれこれ。誰もがふと自分の身に置き換えて反芻したくなるであろう視点やツボが彼のダンス劇には散りばめられている。ストーリーを描き、巧みに文章とセリフにできてしまう能力はダンサー脳と相まって独自の個性として目を引く。まもなく始まる新作「一人ダンス劇『嗚呼、愛しのソフィアンぬ』」は10日間連続15公演。その挑戦によって、彼が届けたい“今“と、見る人の心をくすぐる独自の熱量が多くの人に届けられる光景そのものが楽しみだ。

 


 

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    photo by 大洞博靖

    熊谷拓明
    1979年札幌生まれ。小学生時代に生まれて初めて観たミュージカルに衝撃を受け、独学で歌い、踊り、家族に1人ミュージカルを披露する日々を送る。独学に限界を感じ高校入学と同時に札幌ダンススタジオマインドの門を叩き、恩師となる宏瀬賢二のもと歌う事を忘れダンスをする日々を送る。23歳で上京。根拠のない自信を踏みにじられボロボロの日々を送る。くじけかけた28歳の冬受けたオーディションに受かりシルク・ドゥ・ソレイユ新作(当時)『Believe』に出演する事がきまり渡米。約3年間で850ステージに出演、不思議な日々を送る。帰国後、自ら作、演出、振付を手掛ける作品を『ダンス劇』と呼び、独特のゆるい台詞としなやかな動きで物語を繰り広げる作品を数多く発表。舞台上で『食べる』『喋る』『鼻歌を歌う』『歩く』『躍る』などをスルスルこなす、とにかく自然である。

 

 

 

 


 

 

 

呼ばれないって事は、自分でそういう場を作ったほうがいいんだ。

 

TDM 前々から一人舞台をされている熊谷さんの活動を知りながら、やっとお話しできる機会が持てました。なんとなくのイメージとして、演出も出演もお一人だから、孤独なリハーサルなのかなと思っていたのですが、どんな風に進めているんですか?

 

 

 

熊谷
いえ、一人でしゃべりながらだと作品を客観視できないですし、単純にサボっちゃうので、演出助手のスタッフに毎回付き合ってもらいます

 

 

 

TDM
温和な雰囲気の熊谷さんですが、実はちゃんと自分や周囲と戦っていらっしゃるんだなと感じます。良い意味で、ご自身をわきまえていらっしゃるんだなと。

 

 

熊谷 ん~確かに僕は、わきまえてるのかもしれませんね(笑)。最初はチケットが売れなくて悩んだ時期もありましたけれども、現実と向き合っています。
ソロ公演の良いところは、プロモーション活動が身軽な事。ソロ公演でチケットを売るためにはソロを見せるのが一番なので、告知のためにできている作品の一部を見せたりします。共演者の方がいる公演だけはチケットが売れて、ソロ公演だと売れないのは悲しいですからね(笑)。

 

 

 

TDM
いつもどうやって公演を決めていくんですか?

 

 

 

熊谷
大体2年間スパンで自分の活動をプロデュースしていきます。「今回ソロをやったら、次回はあの人とやったほうがいいな」と決めたら、共演者も会場もリハスケジュールも押さえます。実際、今回の公演初日から解禁できる来年の本番がありますよ。

 

 

 

TDM
その計画性はすごいですね。それが全ダンサーにとって正解かどうかは置いておいて、2年間スケジュールを考えながら活動できる思考回路を持ったダンサーは少ないかもしれません。

 

 

 

熊谷
P1070026これは僕の昔からの憧れからきている考えだと思います。自分の出たい公演のスケジュールがずっと決まっている人を羨ましいと思うし、「こんな舞台に立ちたい」「誰かに呼ばれたい」「こんな風にインタビューを受けてみたい」と、20代前半から思っていたけれどもひとつも叶わず、いじけてた時期がすごく長かったんです。それから割り切って、6年前くらいから「呼ばれないって事は、自分でそういう場を作ったほうがいいんだ」「自分で小屋をとって、作品を作って、チケットを売ったらだれも文句ないでしょ」と始めたのが「踊る『熊谷拓明』カンパニー」のきっかけですね。作品を作って、発表する場を探すスタイルもあるけれど、自分にはハマらなかったし、うまいやり方が分からなかったんです。

 

 

 

TDM
それからご自身の流れが良くなっていきましたか?

 

 

 

熊谷
もちろん良くなったところと、また壁にぶつかる事の繰り返しでしたね。やってみたら予想以上にチケットが売れなくて、寝言で「チケットが売れないー!!」と涙を流した事もあったくらい(笑)。最初の2~3年は今のようにリハからいてくれるスタッフもいなかったし、当日に音響と照明のスタッフに指示をこちらからしていて、基本、すべて一人で作っていました。
でも、やっていくうちに「なんかおかしな活動をしてる人がいるらしい」という噂が、観客よりもスタッフ間で広まり始めたらしく、手伝ってくださる人が現れ始めて、おかげさまで音響と照明と美術のスタッフの方はここ2~3年ずっと変わらずやってくださってます。

 

 

 

TDM
チケットやスタッフの問題は自主公演をやりたいダンサーが必ず直面する問題かもしれませんね。ソロのカンパニー体制でやってきてよかった事や、きつかった事は?

 

 

熊谷
良かった事だらけですね。もちろん最初の2年くらいはチケットも売れないとかでキツかったですし、今ではこれだけ自分から作品を通じて発言していくようになった事で、聞いてくれる事も増える分、無視される機会も増えます。そこに対してショックを受けて、傷つく機会も増えるという事です。当たり前だけど何も発言していない時期であれば、無視もされないし傷つく事もないけれども、逆に満たされる事もないわけで。今は、それが表現していく事なんだと感じているので割り切れるようになりました。表現すればするほど、嬉しい事も言われれば、傷つく事も言われる。そのバランスがちゃんとつかめない時がきつかったですね。 

今では、「なんか面白いじゃん」と言ってくれるお客さんとスタッフの皆さんが、特にここ3年で増えてきてくれたのが、大きな変化でしたし、感謝してますね。そのおかげで6年も続けてこれているなと感じます。

 

 

TDM
ご自身の作品の特徴はなんだと思いますか?

 

 

 

熊谷
周囲の人に言われるのは、僕が書く文章の根底にあるものは、どこかで幸せになる事が恥ずかしいと思っているかもしれないと。多分、僕の遠い過去や家族の思い出によって作られてしまった感覚だと思うんですが、幸せになる事はいい事だし、ばかにしているわけではないんだけれども、自分までもが幸せになる事が怖かったり恥ずかしかったりする。だって、日々すごく幸せでもう十分だ!と思ったら何も作れなくなっちゃうと思います。基本的には、作品では何か爆発的な感情があったから作るという事はなくて、自分の“今”が色濃く表れています。日々感じている不満がどんどん溜まっていって、僕の負の肥やしになっていくと思います。

 

 

TDM
今回の作品にも、その負の部分も含まれているのでしょうか。

 

 

 

熊谷
P1070110そうですね。さっきもお話した、メディアに自分が取り上げられていないといじけていた時、例えば、TVで元気な姿を見ている人は当たり前に知れるし売れていると感じるけれど、最近TVで見なくなった人は売れていないと感じてしまう。だけど、見なくなっただけでとても納得のいく仕事をしているかもしれないのに、僕らはそういう判断ができない。さらに言えば、これから売れる前の人の事は誰もわからない。そこに対する負の感情を抱いていた事があります。

 

僕自身、メディアにバンバン出ているわけではないし、一般のプレイガイドでチケットが爆発的に売れる存在ではない。それに対して、本気の怒りはもうないけれども、なにかチクチク言ってやろうかな、という想いがあるし、それが今回の作品にも含まれています。今はいい意味で割り切れてきたから、暗く受け止めてはいないんですが。 ストーリー設定としては、漫談コンビを組んでいたんだけども、相方に愛想をつかされてしまった男の話。コンビを解消した時からテレビにも呼ばれなくなってしまい、それでも漫談を続けたいから、とあるシャッター街のスペースを借りて、昔の数少ないファンたちを相手に夜な夜なたった一人で漫談を続けていく。そんなお話です。

 

 

 

TDM
面白そうですね。そういう設定はどうやって生まれていくんですか?

 

 

熊谷 なんとなく、1年以上前から頭の中に構想があります。それを美術スタッフさんにも今のうちに言っておく。そうすると、何か1年の間に出会うものが、使えるかもしれないと思ってもらえる。だから、今も来年秋の設定がなんとなく頭の中にあります。


一つの作品に向かって作り続けていると、その作品がデブになっちゃうんです。要は、今回のソロ公演の後に何も決まっていなかったら、今回にあれもこれも詰め込みたくなるけれども、来年が決まっていると、「これはソロで使おう」「これは来年のほうでやろう」と振り分ける事ができる。

 

 

■僕をMCとかお笑い芸人だと思ってる人が増えてきた感じがします(笑)。

 

TDM
その手法を独自に編み出したのもすごいですね。そんなダンサーもなかなかいないと思います。

 

 

 

熊谷
最近は僕をダンサーだと思う人っているのかな・・・(笑)。MCとかお笑い芸人だと思ってる人が増えてきた感じがします(笑)。今では、初対面の人の前で踊る場面より話す場面のほうが多いからかもしれない。ただ、散々しゃべってて踊りだしたときに下手くそなのは寂しいので、ダンスだけは基本サボらずやっています。僕のしゃべりながら踊る作風ですが、初期は、「そのメッセージはダンスで見たいのに、喋っちゃうんだね」という有難い指摘が多かった事があり、「ここは喋りすぎたから、もっと踊らなきゃ。」とすごくバランスを気にして作ってた事もありました。


でも、それを考えすぎると僕の作品じゃなくなる気がして、しゃべりたい作品の時は喋るし、ダンスが少なくてもその一瞬でちゃんと魅了できるようにトレーニングしておこうと、割り切れるようになってきました。
その結果、最近では、いろんな方の協力のおかげで、ダンス以外の活動も増えてきて、9月からニコニコ動画の番組「ほろ酔い久世チャンネル」にレギュラー出演するようになりました。ま、ニコ動の番組にレギュラーで出てるダンサーはいないだろうし、羨ましがられないでしょうけれども(笑)。


あとは、ClariSのという仮面をつけて活動しているアイドルを3年前から振付とそのバックダンサーの振付と、ウサギの仮面をつけてMCとしても出演させてもらっていました。


それが、ついこの間、彼女たちが7年間つけていた仮面を外す事になり、ついでに僕のウサギの仮面もとる事になったんです。そこでは、ウサギのKUMAと呼ばれていたのですが、ただの熊谷拓明38歳の姿になってしまったわけですね(笑)。それでもパシフィコ横浜のたくさんのお客さんに温かく受け入れてもらえて、なんて、有難いんだろうと感激しました。


そんな、ここ最近の自分を客観的に面白いなと思いますね。何かダンサーとしては可笑しな事になっているのかもしれないけれど、すごく楽しいです。

 

 

 

TDM
これからのダンサーに感じる可能性は、そういう面白さです。ただ踊るだけではなくて、しゃべったり、絵を描いたり、MCをしたら実はとても面白くて、たまにお金にもなったり、別の業界から注目されて有名になったりする。そういうバランスはどんどんやったほうがいいと思うし、結果、ダンスも続けられる環境ができやすいかもしれない。熊谷さんみたいな新しいスタンスのダンサーは、今は貴重だし今後増えるといいなと思います。

 

 

■心に反する表現や動きをして気持ちがザワっとしたくない。

 

TDM
設定を生み出したり、言葉にする事と、踊る事は、熊谷さんの中で違う表現ですか?

 

 

 

熊谷
一緒ですね。書き物のように踊ってる感覚があります。踊らず書くだけでいいとは勿論ならないし、面白いものが書けたら、これで自分が踊るのが楽しみだなと思いますね。そこで悩む事はないですね。

 

 

 

TDM
ダンサーでなかなか設定やストーリーを書ける人は少ないので、そう言う意味でも貴重だと思います。

 

 

熊谷
P1070088作品を見てくれる人が面白がってくれるのも嬉しいけど、やってる自分も面白いですよ~(笑)。

 

最近、自分の身に起きている事が面白いですね。 10月7~9日、ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017のアートステージパフォーマンスの演出をやらせてもらうんですが、それはダンサーとしてではなく初めてダンス劇作家として依頼を受けて嬉しかったです。これは自分にとって凄い事が起きたなと思いましたね。

 

また、知り合いに紹介してもらったコンサルタントの方に「熊谷さんのFacebookやYouTubeを拝見しまして、コンテンツは面白いのに再生回数が少ない。その問題を解決するのにはいろんな方法がありますが、そこまでして見てもらうのはあまり好きじゃないと思ってらっしゃいませんか?」と、すごく僕の事を理解してくださっている方で面白かったんです。 「私にもすぐに解決できないので難しいのですが考えてみます。」と言ってもらいましたが、逆に勇気が湧いてきました。昔だったらガッカリしたかもしれないんですが、コンサルの方が難しいと思う事をやってるのか、うまくいかなくてもじゃあ仕方ないかと、逆に自信を持ってしまいましたね(笑)。広げたい気持ちはあるのですが、そこに焦りやいら立ちが少なくなりましたね

 

 

TDM
ご自身のど真ん中にあるアイデンティティは何だと思いますか?

 

 

 

熊谷
嘘をつかない事ですね。僕は俳優ではないから、僕の声色で言ってもウソになる事はセリフに書けないですし、心に反する表現や動きをして気持ちがザワっとしたくないんです。あとは、どんな役どころや立ち位置であっても、完全に作品の世界観に染まらず、染まり切れていないお客さんの心を掴みにいきたい衝動があって、自分の感性や本能は残したままやりたいと思っています。 

 

さらに言えば、ここ数年は、自分に3秒ルールというのを課していまして、初めて会った人に「どんなダンスしてるんですか?」と聞かれたら、どれだけ酔っぱらっていても3秒で踊るようにしていまして。 それは、僕も相手も傷つかないためのルールなんですが、もしそこで「コンテンポラリーダンスです。」とただ言ってしまったら、質問した人の中のコンテンポラリーダンスというイメージの枠に入ってしまって、そっちの仕事をくれてしまうかもしれなくて、そこで誤解が生まれてしまうかもしれない。 だから、飲んでようがすぐに踊りで見せる事で、「あ、こういう居酒屋でもすぐに踊る人なんだ」と分かってもらえるし、結果的に誤解のない仕事がもらえるし、苦痛にならないわけです。その方が非常に楽ですね。 

 

それもこれも、過去にそういう誤解のあった不幸な仕事をやったからこそ生み出せたルールです。僕も相手も嫌な気持ちになってしまうから。ただ、私生活では嘘をつくかもしれませんけれども(笑)。

 

 

■作品を見て、自分を肯定して帰ってもらえたら嬉しい。

 

TDM
何か座右の銘のような言葉はありますか?

 

 

 

熊谷
P1070042僕は札幌でダンスを始めたんですが、いまだに師匠だと思って連絡取り合っている、宏瀬先生というダンスの先生が札幌にいまして、その方に言われた言葉ですね。 15歳でダンスを始めたんですが、そんな夢あふれる僕に向かって、「くまちゃん、あなたは15歳でダンスをやるという事はな、どこまで行っても偽物やで。いつか、3歳とかからダンスを始めた本物たちと並んでいく時に、どこまで頑張っても偽物なんやからこそ、最後まで辞めたらいかん。最後まで居続ければ、偽物だったという本物になれるで。」って言われたので、辞めれないというのはありますね。ただの偽物になるのではなく、偽物をやり通した本物を目指そうかなと。

 

 

 

TDM
今のソロでのダンス劇というスタイルになったきっかけはあったんですか??

 

 

熊谷
ダンスの影響を受けた人もたくさんいますが、感覚的な影響を受けたのは、すごく大それてますが、昔から大好きな「イッセー尾形さんがもし踊ったらどうなるんだろう」と思ったのが、ダンス劇のきっかけです。ただ、彼を見れば見るほどこの人は既に踊っているなと気づきました。

 

 

TDM
将来の展望はありますか?

 

 

 

熊谷
今回は10日間ソロ公演をしますが、2年後、40歳になった時には1か月のソロ公演もしてみたいですね。ロングラン公演できないのは、ダンスの弱点なので、挑戦ですね。あとは、このスタイルでツアーしてみたいです。

 

TDM
最後に、今回の作品を見た人に何を届けたいですか?

 

 

 

熊谷 P10701061か月前の通しリハーサルをした時に、僕はスッキリしたんですが、スタッフのみんなが頭を抱えさせてしまいまして(笑)。今回やりたい事は分かったけどこれをどんな照明で、どんな美術にしたら良くて、どんな告知をしていけばいいのか悩ませてしまったようです。スタッフは「1か月前に見れてよかった。2週間前にあんなの見せられたら困ってた。」と言っていました。今回の作品はそんな感じです(笑)。

 

あとは、これはいつも僕の作品を見た人に思ってもらえたらと思うんですが、自分を肯定して帰ってもらえたら嬉しいです。「あんな男がいるんだったら、自分もアリなんだな。」と。だからこそ、僕自身が背伸びをしたところを見せるのではなく、嘘をつかないものを熱量と共に出していきたいですね。 そのためにも、客観視してくれるスタッフの方の意見はすごく大事で、僕以上に僕をわかってくれているし、時には「それは熊谷さんぽくない」と言ってくれている人たちに見守られて作っていく事が、一番嘘っぽくない僕の作品が作れるんじゃないかなと思います。

 

 

 

TDM
素敵なスタッフに囲まれてるんですね。今回のソロ公演、楽しみにしています。今日はありがとうございました!

 

 →[PICK UP]踊る「熊谷拓明」カンパニーによる「一人ダンス劇『嗚呼、愛しのソフィアンぬ』」

 

interview by AKIKO
photo by imu

’17/10/05 UPDATE

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