2007年、KETZは株式会社UMUを設立。当時、ダンサーとして会社を起こすのは珍しく、オープニングパーティー「UMU凝llection」もまた、彼女らしさと、産み出し続けることへの覚悟を感じる、唯一無二の空間だった。あれから10年経った今でも、良質なセンスを産み出し続けている彼女は、昨年、結婚、出産を経て、より一層感性が深まったと言う。ダンサーとしてだけでなく、様々な感覚でダンスエンタテイメントに関わっている人に読んでもらいたいインタビュー。
- KETZ
1994年よりプロダンサーとしてアーティストLIVE、TV,PVやミュージカル
などの 数々の舞台に出演。演出、振付も担当する。ジャンルにとらわれないパフォーマンスと表現力、キャッチーなルックスでファッションショーやCM、雑誌などでも活躍。磨かれた気品と世界観で「心震わせる」作品を生み出す表現者として定評がある。2007年自身のクリエイティブ全般を企業理念においた株式会社UMUを設立。TV,CM,雑誌,舞台などの衣装デザイン+製作、演出、振付、表現者として活動の場は多岐に渡る。www.umutz.com
■10年で変わったこと、変わらないこと。
TDM | : | 10年前のインタビュー以来のご登場ですね。「UMU凝llection」は本当に衝撃的なパーティーでした。 |
KETZ | : | 読み返したら、何を偉そうに言ってるんだかって感じでしたけども(笑)。
でも、改めてこの10年は、自分のやりたいことややり方が、変わったような、変わってないような感じがします。きっと他に賢いやり方はあるんだろうけど、どうしてもアナログなやり方になってしまう。だからこそ、大量生産ができないし、実際、デザインのコラボの話などもありましたが、結果、自分の感じじゃないなと思ったからお断りしました。
ちょっとずつ変化してきたこともあります。例えば、昔は衣装や小道具代に予算がなくて、100円の生地や材料で、いかに安く作れるか知恵を振り絞っていましたが、今では少しいい生地や材料を使えるようになりましたね。おそらく、衣装や小道具への価値が変わったのか、予算が割かれるようになったり、企業からの信頼が出てきたからなのかなと思います。
常に、その時作りたいものを作る。いわゆる自転車操業に近い形が自分の性に合ってるなと思います。それは、ずっと大変かもしれないけれど、だからこそ、生きてる感じがします。 |
TDM | : | 企業との信頼関係が生まれたのは会社として素敵な実績ですね。 |
KETZ | : |
もちろん、失敗して信頼がなくなってしまったかなと感じるお仕事もありましたし、すべてがうまく回ってきたわけじゃないけど、「次は気をつけよう!」と切り替えながら、ありがたいことになんとか続けてこれてますね。 |
■演出、衣装制作、スタイリング、振付、すべて担当。
TDM | : | ダンサー、振付、演出、衣装制作だけでなく、最近では、スタイリストとしてもご活躍されてらっしゃいますね。 |
KETZ | : |
最近、私が一番兼務しているFairiesの現場では、演出、衣装制作、スタイリング、ちょこっと振付をやってます(笑)。楽曲自体の振付はあるんですが、コンサートにする際に、アレンジとして必要になってくる振付の変更を私が担当してます。これも現場にとったら便利屋さんですよね。今まで、ずっとバックダンサーをやらせてもらってきた経験が、ここで活かされてるなと感じます。
4つのわらじですが、とても楽しいですね。10〜20代の若いダンサーとふれあう中で、「私も昔は周りが見えてなかったんだな〜」と思ったり(笑)。でも、私たちの時よりも、大人の言うことを聞いてくれて、ダンスもきちんとしてますね(笑)。
今の現場は、ダンサーがいて完成するステージ作りだし、ダンサーが入ることによって、とても可能性が広がると感じるし、改めてバックダンサーという職業を誇りに思えますね。 |
スタイリストという仕事は、本来、全体のスタイリングをする人で、衣装を縫うことはせず、衣装さんに発注するのが一般的です。だけど、そこが1人で兼務できると、話が早いし、制作さんからすると安上がりだし、便利。兼務してる方はまだ業界でも少ないと思います。そして、ダンスにまつわるファッションのオファーの場合、リアルにシーンを知っている私みたいな人間は強いのかもしれませんね。
TDM | : | ダンサー以外の方の衣装制作やスタイリングする時に意識している感覚はありますか? |
KETZ | : |
自分の感覚として、ダンス関係の衣装を考える時よりも、ダンス要素を控えめにします。例えば、首回りの空き具合を抑えてみたり、スパンコールを少なくしたり。たまに、「これじゃつまらないな~」と思うときはコソッと「こんなのもありますけどどうですか?」と提案する時もあります。
最近やらせていただいたペコちゃん(オクヒラ テツコ)のスタイリングも面白かったですね。まず、打合せでは、ペコちゃんの脳内にお邪魔して、どんな服を求めてるのかを探ります。テーマはチアリーダーで、カラフルでポップな今時のものかなと思ったら、ダボっとしてる古着のようなものが好きだと言われました。彼女たちの古着は私世代のリアルタイム。ちょうど姉がチアリーダー部に入っていて、ワッペンがパイル地でニット素材の衣装を着ていたのを見ていたので、きっとあの感じだろうなと掴めました。一度持ち帰って、デザインを書き直して、提案していきます。
ゼロから生み出すわけではないけれども、何を求められているのかをつかんで、いろいろ考えて形にしていく作業も面白いですね。 |
■私の創作欲に火をつけてくれた経験。
TDM | : | 10年前も、イベントや企業からのテーマに応えていくというプロセスは変わらないですね。 |
KETZ | : | そうですね。例えば世界観がエレクトロ、ジャングル、近未来…だったら、何を着るか?と考えていきます。誰に習ったわけでもないけれど、イメージが湧いてくるんですよね。 |
TDM | : | そのセンスの源の為に何かやっていることはありますか? |
KETZ | : |
今は企業系のキャスティングで忙しいOi-chanですが、昔、新宿のCODEで「Cast」ってイベントをやってて、そこで出会った人たちは、いわゆる社会への適合がギリギリアウトな人たち。そんな自分の世界観がありすぎる人たちの個性やパフォーマンスはとてつもなくて、かなり面白かったですね。
私の母親が衣装を作る人だったから、物を作ることが当たり前として生きてきた中で、そこで経験した普通じゃないヘアメイクとか、とんがった衣装などが、私の創作欲に火をつけてくれました。「こんな生き方をしてる人がいるの!?」とすごく印象に残ってますね。
Oi-chanから得たものはすごく大きいですね。すごく感謝してます。 |
コレクションの雑誌は世の中に出回ってるので、普通程度に目は通しますが、特別何か常にアンテナ張って見たりはしないですかね。強いて言えば、20代前半、ANGELAとのチームGELAKETZをやってる時代に、Oi-chanからいろいろ仕事をもらって、その現場でいろんなタイプの刺激的な人たちと出会ったことは、自分の中に、いろんなものを育んでくれました。
■人も産みました(笑)。
KETZ | : | そんな感じでいろんなものを産みだしてたら、10年後には、人を産んじゃいましたけどね(笑)。 |
TDM | : | 社名とうまくつながりましたね(笑)。ご結婚やお子さんが産まれたことで、クリエイト面に関して変化を感じますか? |
KETZ | : | まず、旦那さんがロックや海外アーティスト系の音楽業界の舞台監督で、ドームや武道館など割と大きめの規模をやっています。感覚としては、ものを作るというよりは現場を仕切る仕事なので、私とは違うんですが、ダンス色はないけれど、照明やセット、LEDを大きく使った映像の使い方など、ダンス業界よりもお金がかかっている舞台の作り方をしています。そういうやり方や演出は、自分が好きじゃないと知らないことだったので、「こういう世界もあるのか。もし、自分だったらそれらを使ってどう演出しようかな。」と考えたりして、刺激をもらっています。
あとは、ベビー服を作り始めました。子供ができないとやらなかったことなので新鮮ですね。1回作ってみた時に、大人で使う生地の切れ端でできるくらい少ないんです(笑)。小さい素材で作っても、可愛くなるから楽しくてしょうがないですね。
妊娠したときに、高齢出産だから、自分が踊らないと成り立たない仕事はすべて止めました。演出や衣装の仕事は変わらず出来たけど、その分時間ができたので、そこでベビー服を作りはじめたら止まらなくなっちゃいました。今まで使ったことのない星とかリボンとか、チョイスする生地の質もガーゼやコットンとか、行ったことない生地のコーナーに行くようになりました。 |
■子供が私にくれたもの。
■自分を持ってる人を見るのは気持ちがいい。
TDM | : | 過去、思い出に残るオファーはありますか? |
KETZ | : |
WORLD WIDEやDABDABで(月嶋)カリンとステージを作った経験はとても印象深いです。彼女の歌声が好きだし、彼女の生み出す音楽、声、歌詞は私が持ってないものです。そこに、憧れを持っていて、その世界観を自分が色付けて行く作業が、とても楽しかったですね。歌と音楽とダンスの融合が今でもやっぱり好きですね。 |
TDM | : | 10年前のインタビューでは、「奥行きのあるダンサーになろう!」とおっしゃっていましたね。最近奥行きを感じるダンサーはいますか? |
KETZ | : | UNOちゃんとは、一緒に何か作りましょうと話をしたことがあって、まだ実現できていないんですけど、是非やれたらなと思ってます。1人の人物だし、彼女の中ではどちらもイコールなんだと思うけど、私はダンスをしてるUNOちゃんが結構強いイメージだったので、あんなに繊細な絵を描いて、その違いも面白くて魅力的ですね。 あと、10年前のインタビューでも挙げましたが、原田薫さんは今でも変わらず本当に素敵。「薫さん!どこまで行くの!?」と思うくらいどんどん進化してますよね(笑)。ある程度年齢を重ねるにつれて、ダンスとの距離感が離れていく人が多い中、ダンスはもちろん、芝居もできる。錚々たる役者の皆さんと共演してる中で、劇団上がりの女優さんにはないというか、演劇の教科書には載ってない空気感を出してるし、それでいて、結局その場を持っていっちゃう薫さんの、カテゴリをぶち壊してくれてる感じが好きなんです(笑)。そんなパワーを持ってる人はなかなかいないと思います。薫さんも人間だしイライラしたり、いろいろ絶対思うことはあるはずなのに、それが見えたことがないのもすごいですね。そういう感情は出さないのか、本当に感じてないのか…どちらにせよ人としての器の大きな方ですね。
他だと、菅原小春ちゃんも、接点はないけれどもよく目に入ってくるし、どこにいても目立つ存在。きっとそれだけ自分のやりたいことが強いんだと思います。AKB48の指原さんもただのアイドルじゃなく、言われた通りやるわけじゃない。個性と独自の感覚を持ってるし、だから世の中に受け入れられてると思います。どこの世界でも自分を持ってる人が目立ってるし、そういう生き方をしてる人を見るのは気持ちがいいですね。 |
■いつか舞台を創りたい。ダンスとは一生。
TDM | : | プレイヤーとしてだけでなく、演出や衣装を手がけるKETZさんから、ダンスプラスαの感覚で生きている人、生きていきたい人に向けて何かメッセージがあればお願いします。 |
KETZ | : | ダンス一本で生きていかなきゃいけないことはないと思うし、他にやりたいことが出てきちゃうことは当たり前のこと。ただ、ひとつやりたいことがある人と、同時に2つやりたいことがある場合、単純に2倍の時間をかけて頑張るしかないと思います。いわゆるOLさんの場合は、オフの日は自分の好きなことをすると思うけど、それとは全く違った考えですからね。両方とも自分が好きでやりたいことだから、両方とも自分のための時間。だから、オフはないのである!そういう感覚で時間の使い方が上手になったら、うまくバランスが取れるんじゃないかなと思います。
だって、そんなやりたいことが2つもあるなんて、そんな幸せな人生ったらないって私は思ってました。その代わり、睡眠や休憩が少なくて、体力的にも精神的にも大変なこともあるだろうし、それで私は病気になっちゃったけれど、それでも、好きなことをやり抜いてきたことに悔いはないので。 |
TDM | : | 最後に、今後の展望をお聞かせください。 |
KETZ | : | やっぱり私は舞台を作るのが好きなので、いつかプロデュースしたいです。でも、そのためには、ものすごくエネルギーを使うのもわかってるし、今の私にはそのための時間と体力がないのもわかってます。だから、この子が大きくなるまでにその準備を少しずつしたいなぁとは思ってます。私はアナログな人間なので、規模もそんなに大きくなくていいし、舞台なんだけど、あのUMU凝llectionのような要素のあるものにしたいですね。また、会社としてたくさんの方々にお世話になってるので、その方々に、もっとわかりやすく「私はこういうものが好きで、こういうことを創り出せるんです」と表現できるものにしたいですね。
結局のところ、UMU凝llectionと根っこは同じものがやりたいんでしょうね。ただ、あの時も準備から本当に大変で、終わったあとの「もう何も出ない…」という疲労感は物凄かったです(笑)。そうなる自分がわかるから、覚悟を決めて、自分のできることをクリアにしていきたいと思います。
ダンスへのスタンスは妊娠前までと同じようにはいかないかもしれないけれど、ダンスというものが見るのもやるのも好きだから、いい距離感で取り入れたいですね。今は子供を抱っこしすぎて、膝と腰が痛いので、近々誰かのジャズレッスンを習いに行きたいなと思ってます(笑)。教えるだけの関わりだとハードル上がっちゃうけど、そもそもダンスは自分にとって好きなことなので、習ってでもなんでも、一生付き合っていきたいものですね。 |
TDM | : | 素敵なメッセージをありがとうございました! |
interview and photo by imu
’17/06/13 UPDATE
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