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ISOPP 〜 完全燃焼のその先へ。〜
ISOPP 〜 完全燃焼のその先へ。〜
マイクを片手にラビットを決め、DJタイムではレコードをこすり、スプレー缶でグラフィティを書きなぐる・・・まさにヒップホップな生き様を放つ・ISOPPがTDMに初登場。先日発売された著書『完全燃焼』を、二人三脚で書き上げた編集者・井爪氏と共に紹介してくれた。

ISOPP 〜 完全燃焼のその先へ。〜ISOPP(イソップ / 丸山悟史)

1977年10月24日生まれ。現在、人気実力ともにもっとも充実したNo.1ストリートダンサー。BRONX、Perfect Combustion、大和といったストリートダンスシーンに多大な影響を与えたチームのメンバーとして活躍し、国内で行われた大会を個人、チームともに総なめにするなど輝かしい実績を誇る。2006年にはフランスで行われた世界大会、Total Sessionにて優勝。世界最高峰のストリートダンサーに昇りつめる。またヒューマンビートビートボックス、グラフィティ、DJでもその才能の片鱗を見せヒップホップ4大要素をすべて一人で体現するまさにヒップホップアーティスト。現在、ストリートダンスとヒューマンビートボックスを融合させたパフォーマンスを見せることができる、唯一の人間である。
http://mgin.corich.jp/isopp/


ISOPP 〜 完全燃焼のその先へ。〜 ●『完全燃焼〜Perfect Combustion〜』/ ISOPP

人気・実力ともにNo.1のストリートダンサーであるISOPP初のフォト&エッセイ集が遂に発売した! ISOPP自身が数年に渡り書きためてきた、人生におけるさまざまな局面で役に立つ言葉や文章が満載。またダンス・スタイルにおける超人気連載としてお馴染みだった「勝つ為の哲学」もうフル収録している。ストリートダンサーはもちろん、現代社会に不安や悩みを抱えるすべてのストリートの若者に、ISOPPがおくる─「勝つ為の哲学」。生きにくい現代社会を、そして人生を完全燃焼するヒントがここにある。

ブログで書けない本心を書籍化。“感無量です。” 

TDM

今回の本はどういう流れで書くようになったんですか?ブログも引用されていますよね。

ISOPP

言いたいことをずっと書き溜めていました。ブログでは書きたくない内容は載せず、わりと表立った内容なので。

TDM

書きたくない内容って、たとえばどういうことですか?

ISOPP

僕のブログは、大体ファンの方々が見てくれているんですが、中でも元気をもらいたくて見てくれている人が多いんです。そんな人たちの前で泣き言とか、弱音とか書けないし、自分の中でネガティブなことはブログに絶対書かないという決まりを持っています。ブログはいろんな人たちが見る場所なので、内面的なこととか、プライベートなこととか、深いところまでは書けないんです。そういうものを全部取っておいたんです。それを全部本に入れました。“これは入れなくてもいっか〜”っていうものも本には入れましたね。

TDM

読ませていただきましたが、生き様や価値観に共感できることも多く、活字にすることの良さを改めて実感しました。個人的には“与えることと許すこと”に触れている章が印象的でした。今回書籍化になったきっかけが何かあったんですか?

ISOPP

リットーミュージックの井爪さんとは、過去にソロDVDを出したときからつながっていて、たまたま話していたときに、自分が文章を書き溜めているという話をしたら、じゃあ、本にしよう!となりました。

井爪

言いたいことを書き溜めるという行為って、普通なかなかできないと思うんです。彼が書き溜めざるを得なかった想いを、本にしたい!と素直に思いました。

ISOPP

自分で忘れたくなかったんでしょうね。すごくいい経験でも忘れていきます。後から説明したくても、リアルじゃないんです。だから、リアルなうちに言葉は雑なんですけど、バーっ!と書いておくんです。それが、今回整理されたので、形に残ってよかったです。

僕の中でブログは、綺麗な場所なので、やるからには元気が出るブログにしたかった。このブログを見ると元気になるわー!ありがとう!って言われると僕も気持ちいい。

でも、それだけじゃなくなかなか言えない本心、苦労したこと、少し厳しい表現なども含めて、全部正直に書いた自分の文章で本にしてもらいました。感無量です。編集の井爪さんに書き換えられることはなく、若干、僕自身が「これって書いてもいいのかな〜」って感じたものも、そのまま採用してくれました。

井爪さんがダメだったら、今回本は出さないと考えてました。


TDM

今回、井爪さんが編集者として、意識したことはありますか?

井爪

ISOPPさんが出してきた文章はOKだという自信があったので、そこに迷いはありませんでした。言ってしまえば、誤字・雑字のチェックだけでしたね。どうしても自分も作ってる想いがあると、主観が入ってしまいがちなんですが、なるべく、そういった不純物をなくしたかったんです。僕ではなくISOPPさんがすごいから、この本ができるので、そこに著者の意図してない流れがあると読み手にも届かない。そういう自分のポジションを守ることを意識しました。

ISOPP

今回の本を出すにあたって、僕個人で作る話もあったんですが、雑誌『ダンス・スタイル』で連載コーナーの担当をしてくれていた井爪さんとだったら、気心も知れているし、出版業界にいらっしゃるので、一緒にやれると思い、お願いしました。もし、井爪さんがダメだったら、今回本は出さないと考えてました。周りの協力もあって、今回それが実現して嬉しいです。

写真も、いろいろな方の写真を載せる予定だったんですけど、薮内さんの撮ったものだけにさせてもらいました。だから、今回は僕と井爪さんと薮内さんの3人で作れたっていうところも感無量です。

先ほど、井爪さんが不純物を加えないように、と言ってくれましたが、結局最後の1ページにしか文章が登場してませんからね。しかも、僕はこの1ページが入るのを最後まで知らなくて、この写真もどこで撮られたかもわからないんです。文章のどこにも井爪という名前がない・・・その謙虚さがまたアツいなと思いました。

3人での写真をどこかに載せたい!って言ったんですけど、写りが悪いとかで断られました。

井爪

出てるオーラが違いすぎて…一流と二流の違いですね (笑) 。

地元での“ISOPPワールド”建設に向けて、今すべきこと。


TDM

ダンサーとして生きてきて、今までやってきたことを振り返るとどんな感じですか?

ISOPP

ダンスに火がついたのは24歳からで、それまで、DANCE DELIGHTやRAVE2001とかに出ていましたが、24歳以降ほど本気じゃなかったですね。うぬぼれてるだけでした。

でも、今振り返ると、これでよかったなって思いますね。何の曇りもなく。あの時ああしときゃよかった!って気持ちは誰でもあると思うんですけど、自分にとっては、気にならないことですね。

自分を見て「頑張れます」って言ってくれる人たちが少なからずいる現実の中で、責任を感じたりもします。「あんなに言っといて、なんやねん自分!」って言われないように、夢を与え続けられるように生きていきたいですね。

TDM

そういう将来にするために、具体的に描いていることはありますか?

ISOPP

5年後、10年後の計画は常にあります。これは一度『ダンス・スタイル』でも言ったんですけど、地元にISOPPワールドっていうヒップホップランドを建てます。

構想としては、ヒップホップショップとか、グラフィティが描ける部屋とか、音楽ゾーンもあって、真ん中にダンススペースがあって、それが設計できるような物件を、自分たちで見つけて、自分たちで建てたいので、その勉強中です。

いずれ福岡に帰りたいという気持ちもありますし、ダンスをしていない人にも楽しんでもらいたい。そのためにも今はたくさんの人に自分の存在を知ってもらわなければいけないと思ってます。今はまだまだ挑戦したい時期なので、これからもどんどん活躍して、ゆくゆくは地元に帰ってきたよ!って胸を張って戻って、幼馴染たちと経営したいです。

実は、もう計画的に動いていて、早ければ来年までには具体的にできると思います。それが、ちょっと先の夢ですね。

TDM

もはや夢ではなくて、実現できそうな計画ですね。

ISOPP

それでもまだまだ幅広く行動しなくちゃいけないです。最近、自分が少し落ち着いている時期に、今までダンスしかしてこなかった分、見落としてきているものに目を向けようと思ってます。たとえば、音楽には少し未練があるので、もう一度やってみたいです。

音楽をやると、またダンサーたちから「あいつ、ダンサーじゃなくなった!」って言われるかもしれないけど、俺の理想としては、ダンスは大事なひとつなんですけど、あくまでひとつでしかない。全部合わさって自分になるので、いろんな自分の可能性を試して、いろんな感動を味わいたいです。親父になってからできる可能性もありますが、若いときの方が可能性は大きい。だから今はなるべく挑戦したいんです。

ダンスをこれだけやれたので、たとえば昔の感覚だと、歌手になろうとしたときに、自分には「歌が上手くないといけない」っていう一般的な言葉が浮かんだんですが、ある程度ダンスでの区切りがついた今、「歌が上手くなくちゃいけないことはない。ある程度のスキルはいるから練習はする。

けどね、歌は心の叫び。ダンスも上手くなくちゃいけないと思ってやってきたわけじゃないだろ?いろいろ乗り越えて残ったのは、自分らしく踊るとか、踊りを通じていろんな人に出会うとか、その音楽いいね、酒が上手いねっていう話とか、それが一番楽しくて続けてきたんだろ?歌もそうだろ!?」

っていうところに辿り着きました。歌も大事だけど、音楽を愛したり、楽しんだり、気持ちいいっていう時間をもっと大事にしていけば、歌をやってるやつらと楽しく会話できる。そしたら、今から始めるのは遅いと思われるかもしれないけど、「い〜や〜、わからんよ!」っていう気持ちになれるんですよね。

もちろんあまりに下手すぎるとだめなので、やっぱり練習はしなくちゃいけないですけどね。ただ、ダンスと一緒でスキルアップだけになるとだめですね。

BE-BOP CREWのYOSHIBOWさんがおっしゃっていたと言う話を、HORIEさんから聞いたんですが、YOSHIBOWさんの生徒さんで、一生懸命“これはこうじゃなきゃいけない!”と気にしながらダンスをしている人に、「お前たちのダンスはダンスじゃなか。見えない鎖でつながれたようなダンスはダンスじゃなか。あそこのサラリーマンを見てみろ。」と、近くの酔っ払ったサラリーマンを指して「あいつらの方がよっぽどダンスばしよる。」と言っていたそうです。

確かに今の時代の方が、スキルが高くて、すごいことしている。でも、やっぱり先輩たちが築いた足跡とか、自分と同じ天秤には掛けられないものがありますが、50歳を過ぎても努力されている姿を見ると、俺もあんなふうになれるかなぁと思うと同時に、勇気をもらいます。今でもダンスで生活している。そこが希望ですね。

本にも書きましたが、やっぱり頑張った人が頑張った分だけ富を握ってほしいし、大いにモテればいいと思います。僕は学生の時に、ダンスをやっているだけで、違う目で見られていた過去があるので、他のスポーツと比べちゃんですが、野球、サッカー、バスケットとかは、プロリーグがあって、日本中がユニホームを着て盛り上がりますよね。ダンスの世界大会もテレビでやってほしいし、みんながユニホームを着て応援してくれるような時代が来たらすごいなと思います。

そうなると、今までコンテストやバトルに出ていた俺にはもっと他にやることがあるだろ、こうしてインタビューで話すことで何かのためになって、そういう時代に近づくかもしれない。そんな時代には完全に俺は親父ですけど、でも自分のやってきた話がそういう人のためになることは尊いですよね。

24歳で一度自分は死んで0歳スタートしました。


TDM

ISOPPワールドもその目的ということになりますか?

ISOPP

それも理由のひとつですが、もちろん自分の野心もあります。野心がないと正直な形にならないと思うんです。

昔から目立ちたがり屋なので、そういう欲求は変わらず、この30年間で腹いっぱいやったつもりですが、その自分だけの独り占めだと、幸せじゃなくなったんです。人が回りに集まる人って、みんなで幸せなことを考えてるんです。これに気づいて、価値観が変わったんです。

たくさん目立ってて、たくさんテレビに出てたら偉いのかというと、違ってて、よーく周りを見渡したときに、あまり目立ってない人がすごく力を持ってたりする。目立たない人は、俺!俺!って言わなくて、うっとうしくなくて、縁の下の力持ち。ということは、誰かのために、動ける気持ちを持ってるからこそ、ひとつの大きなことが成し遂げられるんだって言うことを知ったのが24歳の時で、それまでの俺が間違ってたと気づいたんです。それからファンの人たちに挨拶するようになったり、人の意見に聞く耳を持てるようになりました。その時期にボコボコになったおかげで気づけたので、それが30、40、50歳のときだったら気づけなかったでしょうね。

それで、「いいきっかけもらった!心入れ替えて頑張ろう!」と思ったので、24歳で一度自分は死んで0歳スタートしました。今僕は7歳です (笑) 。だから、もっともっと頑張ってなかったことにメスを入れて生きたいですね。

ダンスもここまでやってきましたが、ブレイクダンスはある程度の年齢でフェードアウトする時期が来るジャンルなんです。渋さは出てくるんですけど、技ができなくなって、パワームーブなどの身体能力の面で若手と比べられなくなってくる。それだけなら負けますけど、他のものを身に付けていけば、「あの人は昔すごかった」とは言われなくなる。

TDM

ブレイクダンス人口は増えてるんですか?

ISOPP

増えてますよ〜。最近はステージやイベントでのバトルも増えてますからね。

TDM

バトルだけじゃなく、ショウタイムでもブレイキンを見せれるダンサーもいますか?

ISOPP

いるけど少ないと思います。要は、技を見せることにしか頭がいってない人が多いので、極端な話、演歌でもアクロバットできます。でも、ダンスとして、音楽があってのブレイクダンスをやってるやつもいるにはいますよ。

一度ZARDの方が亡くなられたときに『揺れる想い』をかけたら、フロアで若いやつらがバンバンパワームーブやり始めて、「ちがーう!!」ってなりましたからね (笑) 。彼らの表現方法がそれしかないから、仕方がないんだと思いますが、料理で例えるならば、何が目の前に来ても、醤油しかかけれないんです。

TDM

10代だとその使い分けには気づきにくいだろうけど、20代からは増えてくるだろうね。

ISOPP

それはありますね。人生経験は多い方がいいと思います。ダンサーは自分は車で、音楽はガソリンなんです。音に惑わされて自分のダンスが死んではいけない。「音はガソリンなんだから、ハイオクな音をくれ!こんな軽油じゃ俺は走らねーんだよ!」って感じです。若い頃は軽で、よぉ走る。多少ぶつかっても走ります。30代になってぶつかると、毎回傷を直さなくちゃいけないですけどね。

悩みは一生ありますよ。僕ら30代には30代なりの悩みがあるし、若くもなくて歳でもない、難しい年齢だと思うんです。いろいろできるし、下からの追い上げはハンパないし、責任もあるし、たくさん迷うと思うんですよね。

世の中いろいろあるけれど、無駄にしている人と、そこに気づいて「よっしゃ!」ってなれる人がいる。「よっしゃ!」ってなれたら無駄なことはなくなる。そこでパワーアップして進めていけるんだったら、意味のあることですからね。「だから、ああいうことがおきたんだ」「こうなるために、俺はああ思ったんだ。」って思えると思います。

TDM

では最後に、TDMではダンサーはもちろん、編集しながらも踊る井爪さんや、ダンサーではないけどダンスが大好きなカメラマン・YAB-COのように、ダンスを好きでいてくれて、社会の中でダンスを支える働きをしてくれるような人材を応援していきたいと思っています。そういう方たちに向けたメッセージがあればお願いします!

ISOPP

それは・・・この本に書いてます!(笑) 。僕もまさにそういう人を応援していきたいと思っているので、是非この本を読んでいただきたいです!

TDM

確かにそうですね!今日はありがとうございました!
'09/05/25 UPDATE
interview & photo by AKIKO
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ISOPP 完全燃焼〜Perfect Combustion〜
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ISOPP 完全燃焼〜Perfect Combustion〜

彼の経験と実績でその言葉に根拠と裏付けがあり、正に「ピンチはチャンス」。己が変われる機会になる。乗り越えられない壁なんてない、全て己次第!


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