飯塚浩一郎が考えていること。
求められるのは“わかりやすいんだけど、かっこよくて、幼くないもの。”
TDM
|
:
|
CMを通じてダンスを発信していくその仕組みや想い、方法をクローズアップした特集になればと思っているのですが、まずEBATOさんにとって、CMの振付という仕事をどのように捉えていますか? |
EBATO
|
:
|
僕の中では、CMという手法を使って、どれだけストリートダンスというものをみんなに見てもらえる機会にできるかというところですね。
僕もストリートダンス出身なので、あらゆる現場でオーダーされた内容のどこかには、ストリートダンスのエッセンスを入れようという気持ちはあります。毎回入れ込むのは難しいんですけどね。 |
TDM
|
:
|
抽象的なオーダーをダンスで具現化するという作業になりますが、そういうときに心がけている点は? |
EBATO
|
:
|
実際に撮ってみないとわからないということが多く、ダンスを知らない監督さんも多いので、どれだけ監督の頭の中にイメージされているものを、こちらが拾って形にできるか、ですね。
そのためにはやっぱり相当話し合います。後は、振りを見せてみないと始まらないので、見せて、見せて、どれがいいのかを試すという繰り返しです。
あとは、監督の出す空気ですね。その人はどんなものを好きになる感覚の人なのか、まったく関係のない話とかから引き出します。それに合わせたものをこちらが出せればなと。
|
TDM
|
:
|
今回の日産「ROOX」のCM撮影で具体的に意識したことはありましたか? |
EBATO
|
:
|
今回は、監督さんが「うん」と言うものと、クライアントが「うん」と言うものと、ぼくらが「うん」と言うもので、どこまでいいバランスを追求できるか、がポイントでした。
僕らはもっともっとダンスにこだわりたいけど、クライアントさん的にはわかりやすいものを求めていて、監督さん的にはちょっとシュールなものを求めていたり。それらをどれだけ皆が納得するところにまですり合わせができるかが、今回のすごく大きなテーマでした。
わかりやすいんだけど、かっこよくて、幼くないもの・・・。
僕としては、今回最初に浩一郎君からの依頼で、「ストリートダンスでやりたい!」という強い思いを受け取っていたので、そこは崩しちゃいけない!お遊戯になってはいけない!という気持ちでした。
簡単すぎるとお遊戯に見えちゃうし、難しすぎるとそのかっこよさが見ていても通り過ぎてしまうんです。
今回の監督とも話していたんですが、普通にただカッコいいだけというのは、意外と人の印象に残らないんです。それは僕も同感です。だからといってすごくキャッチーにしちゃうとお遊戯になってしまう。そのどちらもだな!という、ものすごく難しいバランスで悩みましたね。でも、今回はそのバランスの上手い落としどころに持って行けたんじゃないかなと思います。
正直、数打ちゃ当たる!じゃないですけど、相当振りを作りましたからね (笑) 。ま、それはこの仕事では普通のことなんですが。
たとえば振りを10個作って見せて、その中から近いものを選び、選んだものに似た路線でまた10個作って見せて・・・そうやってどんどん絞っていった感じですね。監督のOKは出たけど、クライアントがNGだったからまたゼロからやり直しってこともありますし。でも、本当にこういう仕事はそういうものですからね。
|
TDM
|
:
|
それは途方もない作業ですね。 |
浩一郎
|
:
|
でも、広告の仕事で言えば、それはごく普通のプロセスですよ。案をたくさん見せて、「違う、違う」と言われ、何回もプレゼンして、打ち合わせも含めれば何百案も採用されなかった案を捨てていく。その広告クリエイティブにとっての普通の過程が、ダンサーもくじけずにやり通せるかどうかが、CMの振りを作って活躍していけるかの分かれ道でしょうね。
たとえば自分も、広告の受け手としての視点に立ってみる。そうすると自分の提案が「ダメ」と言われたことに対して、それには何かの理由、意味があるんだな、自分はいいと思っても世の中には思わない人もいるんだろうなと気がつきます。その意見を受け止めた上で、それを超えるものを出そう、という意識はありますね。
一緒に仕事をする人たちの意見に対して「いや、それはかっこよくないですよ!」と否定してつっぱり過ぎるのはあまり意味がないんじゃないかなと思います。それは、“広告”=“あらゆる人に見せる”という、この業界における特殊な構図だと思いますが。もしかしたら、そういう考えの人が世の中にはたくさんいるんじゃないかと思うと、簡単にその意見を切り捨てられない。全てを一度受け入れたうえで、こちらからも更に良いアイデアで返していくことが大事かなと思います。
|
自分の伝えたいものが伝われば、自分はそのジャンルのプロじゃなくても、あとはダンサーがやってくれる。
TDM
|
:
|
ダンサー・EBATOとして今着眼していることはありますか? |
EBATO
|
:
|
基本はストリートダンスから始まっていますが、振付をするようになってからいろんなジャンルのダンスを見るようになりました。ストリートダンスにあとからどんどんいろんなダンスがミックスされて、「僕」というフィルターを通して出すというスタイルが、自分の特徴なのかなと思います。
なおかつ、CMやPVなど、すごくわかりやすいものを自分は求められるので、一般の人が観てわかりやすいものを生み出すことが自分は得意かなと思ってます。
|
TDM
|
:
|
それはできることでもあるし、やってて楽しいことでもある? |
EBATO
|
:
|
もちろん。やっぱり自分の作品に対して「俺ってこんな踊りもやるんだなー」と客観的に見えたりもします。外からの声を聞くと自分の作った振りがDAZZLEたちからも好評だということを聞いてものすごく嬉しいですし (笑) 。
|
TDM
|
:
|
ちなみにそれは、ストリートダンスで自分が好きな踊りとはだいぶ違いますか? |
EBATO
|
:
|
だいぶ違いますね。振付の仕事を今までやってきて、ちゃんとストリートダンスを入れられたのは今回が初めてなんじゃないかなって思うくらい、まずストリートダンスでの振付の仕事はないです。
|
TDM
|
:
|
逆にどんな振付を依頼されることが多いんですか? |
EBATO
|
:
|
「簡単。すぐ覚えられる。見栄えがいい。」これらの単語を言われることは多いですね。あとは、コンサートなどでは、自分はバレエをやったことがないけど、ダンサーがバレエができるならバレエを入れてみたりもします。 |
TDM
|
:
|
あ、そんな感じでもいいんですね。 |
EBATO
|
:
|
僕はそういうタイプです。自分の伝えたいものが伝われば、自分はそのジャンルのプロじゃなくても、あとはダンサーがやってくれるので、「そうそう。そういうこと。」ってOK出しちゃいます。仕事としてはいいものができあがるなら問題ないかなって思います。
もちろん自分のセンスでの仕事なので、相手からの要求というのは自分が許せる範疇内でないといけないと思います。自分が「絶対違う!」って思うものはやらない。
|
浩一郎
|
:
|
仕事という面で考えれば、最終的に良ければ手法は問われないんですよね。世の中の人が見てハッピーになれる、そこに向かって逆算していくのが一番効率がいいので。 |
やっと僕らの世代がやっとストリートダンサーとしての仕事をもらえるようになってきたのかなぁ・・・
TDM
|
:
|
EBATOさん自身のダンスはどういうものになるんですか? |
EBATO
|
:
|
グループではなく僕個人で言えば、完全にソウルダンスが大好きです。
|
TDM
|
:
|
最近の電撃チョモランマ隊は? |
EBATO
|
:
|
一度チームとしてある程度完成されてしまったというか、「さぁ、これからどこいこうか?」という話をしながら、行き先を見つけつつ、「こうなりたい、ああなりたい」っていう準備をしている段階ですかね。
でも、やっと僕らの世代がストリートダンサーとしての仕事をもらえるようになってきたのかなぁと思っています。
|
TDM
|
:
|
チーム結成してから何年になりますか? |
EBATO
|
:
|
16〜17年くらいですね。人生の半分をチームで過ごしてます (笑) 。QちゃんとU-SAKUと自分の3人はチーム結成からずっと一緒ですからね。
|
TDM
|
:
|
それぞれに役割ってありますか? |
EBATO
|
:
|
僕が主に音源を整理したりして、リーダーのQちゃんは表の顔なので、そういう場にいろいろ出て行ってもらって、後の二人(U-SAKU, OH-SE)はイケメンなんで、ファン担当です (笑) 。 |
TDM
|
:
|
ストリートダンスシーンについて話したりしますか? |
EBATO
|
:
|
正直、シーンについては情報で入手する程度なんです。ただ、後輩たちがうまく仕事をしているかどうかは気にしていて、チョモの活動は後輩に仕事がまわせる仕組みを作りたいなと思ってやっている面もあるので。自分たちが今それを自力で切り開いているところですが、後輩たちにはその道をもう少し広くしてあげてから渡してあげたいなと。
|
TDM
|
:
|
いい人ですね〜 (笑) 。 |
EBATO
|
:
|
ストリートダンス出身ということで、こういう業界で活動しているということが、どれだけの人に伝わるか、ですね。
ストリートダンサー出身にこだわっているのは自分たちだけなのかなって思ったりもしますけど・・・でも、そういう気持ちを持っていなくちゃいけないなとも思います。
テレビのバラエティ番組に出たときに、振付師という職業はあっても、ダンサーという職業はあまりいないので、ストリートダンサーがいたら面白いなって思いますし。
|
浩一郎
|
:
|
でも、「エンタの神様」に出演できるストリートダンサーはなかなかいないと思いますけどね (笑) 。 |
EBATO
|
:
|
まぁ、あれもいろいろ大変で、ネタを作って構成作家さんに見せていくんだけど、100個持っていったら10個通るか通らないか。3つほどOKが出たらやっと収録できる状態。それでも、1年間放送されない可能性もありますし。
|
TDM
|
:
|
それだけ厳しい世界なんですね。 |
EBATO
|
:
|
一発屋芸人さんって呼ばれる人たちがいますが、一発当てることすら大変です。まぁ、ダンスシーンもストリートダンサーの中から、スターが1人でも生まれたらだいぶ違うのかもしれないですね。
僕らは裏方として今回のCMのように若い子たちを起用して、成長していってもらって、どれだけ手助けになれるのかなって思うと楽しみです。
|
TDM
|
:
|
では、今までダンサー、人間・EBATOとして生きてきた中で大事にしてきたものはありますか? |
EBATO
|
:
|
気をつけているのは、物事に対して常に熱を冷まさないこと。そうじゃないとすぐに下がってしまうので。そうしていると、仕事や自分が吸収したいと思う物事が向こうからやってきてくれる。でも、熱がないときには全然来ない。
|
TDM
|
:
|
“熱”と言うと・・・情熱ってこと? |
EBATO
|
:
|
情熱もそうですし、自分の今やりたいことは何かを自分で見つけるということですね。家に帰ってボーっとテレビを見る時間がすごく嫌いで、「家に帰ってから何しよう?」って帰る前に考える人間なんです。
でも、冷静に考えたら家に帰ってから何をするかを計画立てるのって変ですよね (笑) 。でも、暇になるのが嫌なんです。
だから、こういう現場がものすごく好きです。ずっと緊張を保ち続けて、本番が終わって「よし!終わった!次にいこう!」っていうときに気持ちがスッとリフレッシュされます。達成感ですね。
|
TDM
|
:
|
では、最後にTDM読者へのメッセージをお願いします。 |
EBATO
|
:
|
ダンサーとして生きていくためにはバックダンス以外にもいろいろな可能性があります。バックダンスをやるとしても「あの子のダンスを使いたい!」とアーティストから指名されるようなダンサーになってほしいです。
好きなことを仕事にするのって本当に幸せなことです。さっき僕が仕事の後にリフレッシュできると言ったのは、僕の趣味が仕事で仕事が趣味だから。あまりストレスを感じないです。日本も今そういう時代になりつつあると思うので、皆も頑張ってほしいですね。
|
TDM
|
:
|
今日はありがとうございました。 |
|