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新体操の舞台「BLUE VOL.2」特集 Part2
長田京大 / 小川晃平×永井直也
新体操の舞台「BLUE VOL.2」特集 Part2 長田京大 / 小川晃平×永井直也
2014年2月に開催される男子新体操の舞台「BLUE VOL.2」。特集第2弾は、前回に引き続き出演する岡山県立井原高校男子新体操部監督、長田京大氏、そして、前回のBLUEでは素晴らしいアンサンブルを見せてくれた同じく井原高校の小川君と青森山田高校の永井君へ行ったインタビュー。

小川君と永井君は競技の上では日本のトップを争うライバルだが、インタビュー中は笑いあい、尊敬しあう仲であることが伝わってきた。それは、選手時代に日本一を争うライバルであり、今は監督として親友である長田監督と、青森山田高校男子新体操部の荒川監督と重なる関係性である。時代を経てクロスする“新体操少年”たちの胸中には、“新体操が好き!”という想いが満ちていた。両者にはそれぞれの良さ、味があり、点数だけでは測れない価値を持っている。「BLUE VOL.2」では彼らがそれらを認め合い、相乗し、新しい芸術へと昇華されるのだろう。

長田京大●長田京大 (岡山県立井原高校・男子新体操部監督)

昭和47年12月12日生まれ
幼稚園〜中学3年まで器械体操
高校(甲府工業高校)から新体操に転身し、国士舘大学へ進学

大学時代に荒川栄と出会い時代をつくると誓い合う。いつも天才荒川栄の背中を追い続け、大学4年生のインカレで個人総合にて同点優勝を果たす。その年の全日本選手権でも個人総合優勝。 卒業時には荒川栄と今度は指導者として時代をつくると約束をし卒業。

卒業後は母校(山梨県立甲府工業高校)に戻り、講師の傍ら新体操の指導に従事する。翌年の地元山梨インターハイで団体準優勝に貢献し、岡山国体のために岡山へ。平成11年に岡山県立精研高校(現井原高校)に赴任し、新体操部を創部。同時に井原ジュニア新体操クラブの前身になる小中学生を対象にした新体操教室も創設。平成17年にはインターハイ団体優勝、国体優勝を達成。翌年のインターハイでも団体優勝し2連覇達成。創部15年で団体優勝6回、個人総合優勝5回という成果を挙げ、井原の美しい新体操をアピール。男子新体操界に大きな影響を与えている。

小川晃平●小川晃平(岡山県立井原高校)

H7.8.1生まれ/18歳/岡山県井原市出身
井原中学校−井原高校−花園大学(進学決定)

 小学校の時に担任の先生(花園大学出身の桝平庸介の母)に勧められ、井原ジュニア新体操クラブにて新体操を始める。  小学校では基礎をしっかりと身につけ、持ち前の向上心と努力で、中学2年生から団体レギュラーに入る。全日本ジュニア新体操選手権にて、団体では2年連続で日本一を経験する。さらに個人競技でも準優勝を果たす(優勝は永井直也)。

その後県立井原高校に進学し、スーパー1年生として団体レギュラーに抜擢され、青森インターハイにて団体優勝を果たす。2年生ではインターハイに個人出場もし、個人総合準優勝(永井直也に初めて勝ち自らのモチベーションが向上)。その年の全国選抜では個人総合優勝を果たし、全日本ユース、インターハイと勝ち続け高校三大全国大会三冠を達成する。 花園大学への進学が決まっており、青森大学へ進む永井との今後のライバル関係が注目される。

永井直●永井直也(青森山田高校)

H8.3.26生まれ/17歳/愛知県出身
阿久比中学校−青森山田高校−青森大学(進学決定)

高校まで新体操をしていた父親から見せられたビデオがキッカケで中学校より新体操を始める。(ちなみに父の峰人さんは平成2年度インターハイ仙台大会団体準優勝の阿久比高校のメンバー。優勝は荒川主将率いる青森山田高校。)

さらに技術向上を目指すため学校の部活動以外に名門半田スポーツクラブ杉江監督に師事。中学3年生で全日本ジュニア新体操選手権大会個人総合優勝を果たす。その後青森山田高校へ進学。1年生から頭角を現し全日本ユースチャンピオンシップ個人総合準優勝、インターハイ青森大会個人総合第3位。2年生では全日本ユースチャンピオンシップ個人総合準優勝、インターハイ福井大会個人総合第5位、全国高校選抜大会個人総合準優勝。3年生ではインターハイ佐賀大会個人総合準優勝。

小川晃平(岡山県立井原高校)×永井直也(青森山田高校)インタビューはこちら。


“新体操の希望の光”との出会い。

TDM

岡山井原高校男子新体操部の皆さんは、荒川監督(青森山田高校男子新体操部監督)からの誘いということで、今年2月の舞台「BLUE」に出演してもらいましたが、、荒川監督とのつながりから教えていただけますか。

長田

長田はい、本人はどう思ってるかわかりませんが、私にしてみれば、荒川くんは、私のというよりも、新体操にとっての希望の光ですかね。

荒川くんと同じように、「新体操はこれだけでいいのかな?」と、どこかで引っかかる自分もいて。だけど、生活やら何やらを考えたら、しがない公務員の自分、動くに動けない自分がいて…。そう考えた時に、荒川くんとは、昔からいろんな意味で、分かり合えるというか、本当にそういう想いを実現してくれているので、やっぱり希望の光かな(笑)。

TDM

学生時代、日本の新体操界で1位と2位という、プレイヤーとしてライバルだったとお聞きしましたが?

長田

はい。学生の頃、出会ったときは、互いにプレイヤーとして「自分たちの時代を作ろう!」と言ってやっていましたし、今は、監督、指導者として「またうちらの時代を作ろう!」とそれぞれの地に分かれてながらも、今があるという感じですね。

TDM

良きライバル、仲間との関係が続いてると思うんですけど、そういう高いところで高められる関係性として、何か印象に残っていることはありますか?

長田

こちらの想いを自由に言わせてもらうと、荒川くんの場合は、新体操界のエリートコースだったんです。それに対して、私は、中学校までは器械体操、高校から新体操に移って、そこであいつに出会って、「こんな上手な奴がいるんだ。」と、大学に入るまでずっと背中を見ていた状態でした。

だけど、ちょっと待てと。「実質、彼を越えなきゃいけない。越えれば自分が1番になれる!」という目標にもなっていましたね。

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そして、実際、1番になられたこともおありですよね。

長田

はい。ま、実際に越えて、何か違う世界が見えたかと言えばそういうわけじゃなくて、荒川くんはああいう人間性なので、人が集まるし、勝負をする時はしますが、“勝った・負けた”だけのところではない、親友ですね。こっちが、言わなくても伝わってるというか。

TDM

長田さんが荒川監督を超えるために自分と向き合ったこと、変化はありましたか?

長田

長田・・・なんだろう。あいつはトップの考えをしてました。“勝つためには?”を考え、よき先輩後輩もたくさん周りにいて、高校でも勝ち続けていて、勝ち方を知ってました。こっちは無名でしたから、結局、“人を感動させられる演技ができれば、勝てなくてもいいかな”と思ってやってました。

ところが、3年生くらいからかな。結局、“勝ちたい!”という思いが強くなって、“勝つためには?”を考えるようになったのは4年生くらいのとき。“勝負に勝つためには?”を最優先した考え方に頭を自分で切り替えて、練習しましたね。

TDM

具体的にはどういう変化に?

長田

具体的には、今まで妥協してたことができなくなりました。「今日はこれくらい練習しておけばいいかな」となっていたところが、「いや、これじゃ、いけん。このまま練習を続けよう。」と。

練習から、試合がはじまってるようなものなので、試合前の合同練習の時からも、プレッシャーを与えていたりしましたね。相手にこっちが調子いいと思わせて、焦らせる・・・そういう駆け引きまでありましたね。

TDM

監督になってからの違う関係性はありましたか?

長田

ありましたね。監督になってからは、自分が“勝つぞ!”と思っても、やる側である選手を動かしての問題になります。その時代によって、いい選手がいれば、そうでないときもあるので、それも勝負の賭けどころという感じで、何があるのかわからないです。

その時に…キラキラが見えるんですよ。


TDM

先日の井原高校の演技は個人的に印象的だったんですけど、あの選手たちであの構成を作る環境作りには、何か長田監督なりの戦略があったのでしょうか?

長田

戦略と言いますか、3年計画でしたね。その年だけに“この子たちをどうにかしよう”という想いでやって、結局、つながっていられるのは3年間なんですけど、今年卒業していった質のいい子たちは、一年生から入っていたので、言ってみれば3年間レギュラーで、同じメンバーで、弱い時の負けた悔しさ、優勝する嬉しさまで全部経験していました。たまたま人がいなかったこともあるんですけど、逆にそう考えたら、毎年強いチームを作ることだけではなく、一年生の時から一つのチームとして選手を大事に作るのもアリなんだなと。

TDM

荒川監督がおっしゃってましたけど、毎年いろんな構成を考えて、「これ以上出ない!」と思ってても、長田監督の生徒を見ると、「まだ出すか!」と思うそうですよ。

長田

いや〜、でも苦しいですよ(笑)。正直、悔しいことを言うと、出てこないこともありますし・・・。あと、以前よりもお客さん目線になりました。

「ここでこういう技をしたら、たぶんお客さんは沸くだろうな。」とか、審判だけじゃなくて、お客さんが見たらどう感じるかなということをベースに考えるようになりましたね。でも、それを続けていったからなのか、いつの間にか、「今年も楽しみにしてるから!」と声をかけてもらえるようになってきましたね。

TDM

何か自分が創る時にインスピレーションを受けるものはありますか?

長田

長田んー。なんだろう…。でも、これは、すごく、他の人が聞いたらどう感じるかわかりませんが、例えば生徒に「こうやってやってごらん」と何か動きをやらせますよね。その時に…キラキラが見えるんですよ。「あ!キラキラきた!よし、それ採用!」という感覚です(笑)。

それまで、100回いろいろやらせたけど、全部ボツになることもあるし、何かポッとやったときに、「ちょっと待った!それでいこう!」となりますね。

TDM

いろいろ彼らにやらせてみるんですね。ということは、3分の演技の中にキラキラをいっぱい詰め込む作業をやってから、全体の流れを決めるんですか?

長田

全体の流れはキラキラを映えさせるための組み替えですね。全部がキラキラしてると、いい演技にはならないから。

演出家さんが照明や効果のバランスを考えるのと同じことだと思うんですが、シンプルなものはシンプルのまま、ゆっくりのところはゆっくりだけど、“ここは見せたい!”というところがバッ!とあったら、観客は「おお!」なると思うし、その辺まで考えてますね。荒川くんももちろん考えてることだと思いますけど。

他に影響を受けたことといえば、学生の頃、吉光先輩(青森大学男子新体操部中田部長)や尾坂先生(青森山田高校)には、若い頃、良く呼んでもらって、「これじゃいけん、これじゃいけん。」と言われていました。

当時は、“良い・悪い”の判断ができても、「何がいけないんだろう?」と思っていました。でも、今、自分でチームを持って、監督という立場になったら、当時の先輩や先生方が、結局キラキラを探していたんだなというのが、やっとわかるようになりました。

もちろん、青森関係者だけじゃなくて、いろんな人に会って、結局、自分が成長させてもらって、その中で「この人はこういうところがあるから強いんだな。」と自分で感じたことから、勉強はいっぱいしたつもりです。そういういいものを取り入れて今があるという感じですね。


新体操のすごく先にある、行き着いた世界なのかな。


TDM

前回のBLUEでは、最初に荒川監督からお声がかかったと思うんですが、最初に聞いた時はどんな印象を受けましたか?

長田

長田荒川君が、「新体操を舞台や何かの形にしたい」とはずっと言っていたので、ただ、どういう内容なのか、規模とか、まったく想像もつかない状態でした。

でも、結局、現場は違っても、荒川くんが目指してるものや求めてるもの、方法はお互いズレていないので、さっき話した、夢の実現に向けた一歩なんだなと。「そのお手伝いをすることに関しては惜しまないよ。」ということは、言ってあったので、あいつを助ける意味で、「何かあったら声かけて。」という話はしていました。そして、どんどん、舞台の全容がわかっていく中で、やるんだったら、お客さんの心が動くような演技をしなきゃいけないなと思いました。

TDM

実際、舞台「BLUE」を経てみて、どんな感想でしたか?

長田

率直に、やってるこちら側も感動しました。

あと、3分の演技も、いい演技だと一瞬に感じますよね。それと同じように、2時間弱あった公演なのに、30分や1時間に感じたというお客様の声が多くありましたし、自分もお客さんも絶対集中して見たと思うし、大成功だったと思います。

舞台の裏側、観客の逆の立場からも観れたし、また、指導者としての新しい経験、試合とは違う緊張感、こういう舞台でこの子たちがやっていることを重ねてみた時の、「あ、これって、新体操のすごく先にある、行き着いた世界なのかな。」というものをチラッと見えた感じがしましたね。貴重な体験をさせてもらいました。

TDM

エンターテイメントと競技の違いによって、それぞれに彼らが経験する良さがあると思うんですが、何を与えてあげるかについて、どう思いますか?

長田

それはすごく大切なことですね。競技って、結局、シンプルに、勝ち負けを選手もすごくこだわることだと思うんです。どんなことがあっても勝ちたいから練習してるんでしょうし。

ただ、それも踏まえてですけど、常に選手たちに言ってるのは、私はそれ以上のことで、「勝ち負けもすごく大事だけど、勝ち負けだけを意識した新体操はやめようよ」と。「勝ち負けはこっちが判断することじゃなくて、人が採点して判断することだから、まずは、人の心を動かせる演技をしょうよ」というのが、最大の目標です。人の心を動かせて、いい点数が出て、それで優勝できれば、それが最高の終わり方ですね。

長田それで、人の心を動かすというのはこういうことなんだと生徒も感じるだろうし、あのBLUEの時に感じた、会場との一体感というか、あの気持ち良さもそうですし、大会でもそういう想いというのが、極限の、行き着いた先のものだと思っているんです。だから、そういう想いを選手たちにはさせてあげたいなと思いますね。

教育という面では、この競技は集団スポーツですし、「人間ってこうあるべきじゃないの?」という話をしますね。私は新体操の技術を言うことって、気づいたことしか言わないので、ほとんどないです。たとえば、苦しい顔をしてたときに、「どうして苦しい顔をしてるんだ?それって、自分だけが苦しいって思ってないか?みんな苦しいんだよ。」と。

そういう自分だけの考えに偏るようなことがあると、「そうじゃない。お前のポジションはキツイかもしれないけど、じゃ、他の人のポジションできるかと言ったら、他の人のポジションの方がもっとキツイかもしれない。適役適所とか、役割というものが人にはあるので、それが協力されて、一つの演技になってるんだから、そんな顔しちゃいけないよ。」というような、人としての気持ちをいっぱい教えています。

TDM

作品を創る際に、構成とかも彼らが自分たちで生み出すことを助けるということが多いですか?

長田

そうですね。構成とかも、出させます。とりあえず、何か出せと。

こういうイメージや感じを伝えたら、みんながどういう表現をするのかは自由だから、その感じをちょっと出してみろと。その中で、さっき言ったキラキラがあれば、それを拾って演技を創っていく感じですね。

だから、5秒のフレーズが1週間経ってもできないときもありますし、あっという間にできる時もありますね。

荒川くんも言っていますが、こんなに力がある競技を、ただ大会だけで終わっちゃうのは確かにさみしいなと思いますね。勝負は勝負なんだけど、それだけじゃないなと思っています。

TDM

またこれから、一緒に創る行為がはじまりますね。BLUE VOL.2もよろしくお願いします!

長田

はい!よろしくお願いします!
interview & photo by AKIKO
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